第882話 【非恋愛乙女たちによる風紀委員会・その5】相談者・S神アナスタシアさん ~今明かされる、逆神大吾との出会い!! 嘘みたいでしょう。これで日常回、終わりなんですよ?~

 そろそろ閉店準備の瑠香にゃんリモート空間。

 充分に日常回の大掃除をしてくれた。

 特に莉子ちゃんをイイ感じの恋愛戦士に仕上げたのは大きな功績である。


 日常回は本編に干渉したりしなかったりとパラレルなのか同一なのか誰にも分からない空間となっており、ならばできることはしておくのが吉。

 やれる事をやらなかった後悔は、やれる事をやって無駄になった時の後悔と並べるまでもないほどにかけ離れた存在である。


 おじさん後悔学の権威コクハク・シトキャー・ヨカッテン氏も「おもむろに昔好きだった女子とか元カノの名前をSNSで検索して、苗字が変わってて、子供が3人くらいいて、幸せそうな家庭の写真がアイコンになっていたりすると、得も言われぬ寂しさが胸に去来する」と学会で提唱しており、是とも非とも採択されず有識者の4割が体調を崩して早退したと記録が残っている。


 そんな訳で、やり切った乙女たち。

 瑠香にゃんリモートの接続を切ろうとしていた時、彼女がやって来た。


「あらあらー。これがラブラブブイブイアールっていうヤツでしょうかー。すごいですねー。若い方たちはこんなところで愛を語り合っているのですかー。あらあらー」


 昨今やり玉にあげられる水戸信介監察官。

 彼の沼にハマってしまったA山さんはダメンズ好きとかゲテモノ食いとか言われているが、本物は違う。


 逆神アナスタシア。

 純潔と純心の国であるピュグリバーの女王にして、逆神六駆の母。



 逆神大吾とやっちまった乙女でもある。

 性格は穏やか、隣人を尊び誰をも愛する聖女、そしてダイナマイッなボディ。

 どう見てもアラサーにしか見えない美貌と、何でも許容する大いなる胸部装甲。


 全部、逆神大吾のものである。



 ラブコメ結界とは別の超時空からやって来たかと思われる、まさに異世界の恋愛観を持つ乙女。

 彼女が何の相談をすると言うのか。


「よろしければなのですがー。大吾さんと愛を囁き合っていない時間が長くなりましてー。少しだけ語ってもよろしいでしょうかー」


 惚気にいらっしゃった模様。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「……とんでもない人が来ちゃったぞなー。瑠香にゃん。アナスタシアママには大変申し訳ないけど、空間ガチャ切りしてぞなー」

「ぽこますたぁ。悲しいお知らせと哀しいお知らせ。どちらから聞きたいですか?」


「どっちも嫌だって言ったらどうなるにゃー?」

「同時に告げます。1つ。おかしな煌気オーラ反応が瑠香にゃんリモートに干渉して、ログアウトもシャットダウンもできません。2つ。ワタシの人工知能がこの方には逆らえません。グランドマスター権限以上の何かをお持ちのようです。端的モード。ぽこ。お相手しろ」


「にゃはー。地獄だにゃー。六駆くんのお父さんとの馴れ初めとか、小豆の先物相場を眺めてた方が楽しいまであるぞなー」


 そこに戻って来た芽衣ちゃま。


『み゛っ。芽衣はさっき、莉子さんから逃げちゃったです。普通におトイレに行きたかっただけですけど、結果的に逃げちゃったです。ここは芽衣が引き受けるです!!』



「ぽこ。見損ないました」

「まだ何も言ってないにゃー!! や、やったるにゃー!! ノアちゃん!! 戻って来なくていいから、アナスタシアママをどうにかしてにゃー!!」


 ノアちゃんも「ボクにもできないことはあります」と普通に戻って来た。



 みんなでご清聴のお時間である。

 これが終わらないと、日常回は終わりません。

 他のクラスが下校を始めても、うちのクラスの終わりの会は終わりません。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「よ、ようこそですにゃー」


 代表。仕事をする。

 瑠香にゃんはもちろん、ノアちゃんも面識のレベルで比較すると自分が主導するしかなく、芽衣ちゃんにそれをやらせるのはどら猫メンタルでも憚られた。


『あらあらー。逆神アナスタシアと申しますー』



「……ハイジですにゃー」

「み゛っ。サツキです」

「ボクは凸谷……やっぱり長宗我部です!!」

「識別コード・ロボです」


『あらあらー。皆さん、わたしの知ってる子にそっくりですねー。どの子も可愛いんですよー。楽しくおしゃべりができそうですー』


 これで誤魔化せるのがアナスタシアさん。

 「参考書買うからお金ちょうだい!」と言って、えってぃーな本が買える母ちゃんである。



『あれはですねー。わたしが17だったか、18だったかー。16だったかもしれませんけれどー。胸が大きくなった後のことでしたー』

「……ガバガバだぞなー」


『ある日、ピュグリバーにやって来た旅の英雄様がいらっしゃいましてー。大吾さんという方なんですがー。モンスター倒してやるから美味い飯と酒! あと綺麗な女抱かせて! とおっしゃったのですー』


「み゛っ」

「ピュアマスター。『気まぐれロマンティック』を流します。ここはワタシにお任せください。生理的嫌悪感はセキュリティプログラムでガードします」


 瑠香にゃんの配慮により、芽衣ちゃまが恋に恋する空間へ隔離。

 まったくこのロボ子はいい仕事ばかりする。


 瑠香にゃんはアナスタシア母ちゃんおよび大吾のどちらとも面識はないが、チーム莉子の思考を人工知能にぶち込まれており、その中核は六駆くんのデータ。

 「大吾」と聞くだけで目からオイルが流れて、口からもオイルが垂れるくらい精神的にきつい。


『その時の大吾さんのギラギラした瞳はとても情熱的でしてー。わたし、生まれて初めて体を求められたのですー。周囲の者は全力で止めていましたけど、わたしの決意は固かったみたいなのですー。好奇心に胸が躍ってしまいましたー。うふふふー。バーバラはギャン泣きしておりましたー』


 バーバラ様はピュグリバーの長老的存在。

 明治以前の日本、大名家で言えば筆頭家老な立ち位置であり、それはもう凄惨なギャン泣きだったことが容易に想像される。


『大吾さんはモンスターを倒すにはハッスルしねぇとダメなんだよー! とおっしゃったのですー。ですので、先にハッスルいたしましたー。4打数1安打というヤツらしいのですがー。六駆を授かりましたー。大吾さんはお胸がお好きなようでしてー。わたし、お胸を求められたのも初めての事でしたのでー。何事も経験かと思い、飛び込んでしまいましたー。バブみーとか言うエネルギーが手に入るとかでしてー。バーバラが唇から血を流していたのが印象的ですー』


 晩だか昼だか分からないが、とりあえず打席に4度も立ったらしい大吾。

 結果的にモンスターを討伐しているので許された感はあるものの、それはピュグリバーの倫理観に照らし合わせたからこそ起きた奇跡。


 現在の雨宮王制ピュグリバーの倫理観であれば、バーバラ武闘団によって血祭りにあげられていたことだろう。


『普段は皆さんお若いのでお話しできないのですがー。せっかくなので詳しい事も語っちゃいますねー。まずですねー。服を脱ぐ前にー』


 それ以降の記憶は誰も残っていないという。


 メンタル強者なクララパイセンですら「頭が痛いぞなー」としか言わず、メンタル大強者のノアちゃんは「途中から冬休みの宿題してました! 微分積分について詳しくなりました!!」と語り、瑠香にゃんは「タンポポ……綺麗……」と虚ろな表情で呟いていた。


 なお、この3名が受けた苦行は結果的に潜在的なメンタル強化の荒行となり、今後の戦いにおいて大いに活躍する事になるかもしれないし、ならないかもしれない。


『みみぃ!! ラブソングたくさん聞いちゃったです!! 瑠香にゃんさん、ありがとうです!! クララ先輩の声を聞いてたら、またご飯一緒に行きたくなったです!! ノアさんとは明日また会えるので、お土産持って行くです!! ……みー?』


 そして、芽衣ちゃまボイスで全員が嫌な記憶を消去して「やっぱ芽衣ちゃんなんだよにゃー」というどら猫の鳴き声に2人も「確かにそうかもしれん」と応じた。

 彼女たちの戦いは恋愛乙女がいる限り終わらない。


 つまり、第二、第三の出番があるかもしれないということ。

 日常回が終わってからが本当の闘いなのに、日常回がやって来ても戦いが待っている。


 これは、ラブコメ結界から逃れた乙女が背負う業なのかも知れなかった。

 そんな業があってたまるか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 クララパイセンからの報告を瑠香にゃん通信で受領した京華さん。

 端末の前で「ふぅ」と大きく息を吐き、南雲さんの挽いておいたコーヒーを淹れて香りを楽しみ、一口含むと苦みが広がり、二口目の優しい甘さが脳を落ち着けた。


「……悪い事をしたな。だが、誰かがこれをやらねばならんのだ。この時空がもたん。そんな時がすぐそこまで迫っている。そして私にはその資格がない。出産したら、もう1度孕む気満々だからだ。今度は三つ子がいいまである。許してくれ。クララ。芽衣。ノア。そして瑠香にゃん。……ヤツらの口座にそれぞれ300万ほど振り込んでおこう。これで可愛い服を買って、パンケーキとか食べてくれ。女子だけで。私にできるのはこのくらいだ。重ねてすまん。……産婦人科では敢えて子供の性別を聞いていないが、どっちか娘だった場合。絶対に退役しよう」


 京華さんはもう1度コーヒーを淹れる。

 妊娠時に過度のカフェイン接種は推奨されていないが「こうでもせんとな。私にだって罪悪感はある」と、コーヒーの苦みで苦い感情を呑み込む。


「ん。実に美味いな。……はて。修一のコーヒーが美味いと何かあったような気がするが……。思い出せんな。まあ、コーヒーが美味いのは良い事だろう」


 そう呟いた京華さんは、瑠香にゃん通信で送られて来た報告書を厳重に封印して「見るな。危険。その1」と名付けたフォルダに格納した。


 その1とは?


 日常回がとても綺麗になったので、我々観測者も褌を締め直して戦いの場へと向かいましょう。

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