第858話 【地獄。あるいは楽園。・その2】逆神大吾、死す ~今季1号(1月4日・呉コロッセオ球場)、今年もタイトル独占か!!~

 身体の半分が喜三太陛下に造られたフレイザードの出来損ないみたいなヤツだったと発覚した増産のアイボ。

 だが、呉人力バーチャム100万は繰り返すがとても強力。


 呉で煌気オーラ砲ぶっ放せば、色々と消滅させながら宮島に到達する規模の威力を誇る。


 宮島では平成中期くらいまで鹿せんべい売ってたのに、2007年に鹿せんべいの発売を禁止され、「ほー。ほいじゃったらええわ。観光客に貰うけぇ。おら、角で突くで。ミニスカの姉ちゃん重点的に突くで。ほれ、お礼になんぞ食い物よこさんかい、そこのガン見しちょるぼん!!」とハングリー精神を爆発バーストさせていたが、2022年に改正自然公園法が施行され、鹿さんに餌やること自体が違法行為となった。


 宮島の鹿さんは野生動物にカテゴライズされているので「てめーで食い物探して、自然の摂理に従えや。この鹿野郎」という位置付け。

 「じゃけぇワシら、くれるもん貰いよっただけじゃろが!! ライオンの群はメスが仕留めて来た生肉みんなで食うちょりますが? ワシらは貰うっちゅう相手の違いこそあれ、これも自然とちゃうんか? のぉ!!」と憤慨していたところ、コロナ禍真っ只中に「こいつら森の中でいろんなもん食うて困るんで、餌やり禁止はもちろん芝草地の造成も中止しますわ。どうせ食われるんで」とお国が決定。


 つまり何が言いたいかと申し上げれば、である。



 呉人力バーチャム100万は宮島にいる鹿さんたちと同程度のヤベーパワー。

 メンタル勝負のスキル使い。


 鹿さんがスキルを覚えたら、サミットだって無事じゃ済まなかったかもしれない。



 「ほいじゃあ言わせてもろうてもええかいのぉ!! 厳島神社と一緒にワシら鹿がにっこりしちょるシャモジとかぁ!! ご当地キティちゃんは鹿の被りものしちょりますがぁ!? シノギ貰うてもええんじゃないんけぇ!? おおん!? なんか言うてみろや、観光協会ぃぃ!!」と猛り狂っているので、大吾の80倍は強いかと思われる。


 なお、これらは鹿さんの主張であり、拙作は一切関知しておりません。

 ご了承ください。


 耳をすませば鹿さんの声が聞こえるんです。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「くそぉぉ!! できない!! スキルってどうやるんだ!?」


 現状は3宮島鹿なんじゃおどれの使い手なアイボ。

 これまで煌気オーラ放出のみで圧勝してきた戦績が物語る、慣れたあとに戦法を変更する難しさ。


 しかも十数年にわたって八鬼衆の地位にあり、戦地でただの煌気オーラ砲をぶっ放して完封勝利を飾り続けていたため、慢心というよりは「これでええんや」という慣れが生まれた末の「いかに効率よく煌気オーラ砲を撃つか」のみに特化したアイボの戦い方をすぐに劇的ビフォーアフターさせるというのはなかなかに酷。


「ぐへへへっ! なんか知らねぇが!! おめぇー!! スキル使えねぇんだな? スキルってのはこうやるんだよぉ!! 『煌気極光剣グランブレード』!! 一刀流!! 『伸び伸び虎突きスティングトラッキー』!!」

「鬱陶しい!!」


 ダンッとアイボが地面を踏むと、大吾の伸びる煌気オーラ刀が粉々になった。



「ふーん。やるじゃん」

「私はこれより劣っているのか!!!」


 見てらんねぇ戦いになってきた。



 ここが呉でなければ、あるいは48時間耐久鬼ごっこなどに巻き込まれれば、アイボの心が折れて大吾の心がっていたかもしれない。

 が、ここは戦いで健康づくりと老後の楽しみを兼ねる血風漂う地の獄の楽園。


 オーディエンスばあちゃんたちは判官びいき。


「ねぇ? メカドックかわいそうじゃなかろうかぃね?」

「分かるねぇ。あたしらも最初はスキル全然できんで、みつ子さんに八つ当たりしよったもんねぇ」


「ねぇー。それでみつ子さんにお手本見せられてねぇ!」

「地面が割れて、ごめんなさい言うて! 懐かしいねぇ!!」


 戦争体験に匹敵するヤベー話をもう懐かしいに分類できるオーディエンスばあちゃんたち。

 スキル覚えたの、ここ10年くらいのはずなのに。


「メカドックぅ! こっち見ぃさん!!」

「メカドッグじゃって言いよるのに!! まあええけど、早う見いさん!!」


 メタリックな楕円形の顔が泣き顔の絵文字みたいになっていたアイボ。

 名前を呼ばれたらとりあえず振り向く。


 それが生涯最後に呼ばれた自分の名になるかも知れぬと思えば、半分メカかろうが半分、青かろう朝ドラ面白かったが、是非に及ばず。


「土属性は手でひっくり返す感覚よ!! こねぇな感じ!! 『血染めの開墾グリードコンティブ』!!」


 ガゴッと音がして、音と同時に地割れが走る。


 それを見ていたよし恵さんは「……まったく。……仕方ないねぇ。……玉ねぎさん」とだけ言った。

 どうやら審判的には「インプレーではない」と判断。


「ああ! はいはい、任せてくださいねー!! すんまっせん、皆さま! おばちゃん、地面戻しますさかい! あ! まだ撃たれます!? ええ、ええ! 遠慮なくやってもろうて! はい!!」


 コロッセオの整備担当玉ねぎ、ペヒペヒエス。

 しっかりとお仕事中。


 そろそろ二つ名が貰えそうな気配を感じる。


「あたしの方がシンプルじゃけぇ!! ええかね? あんたぁ煌気オーラ強いんよ! じゃったら1か所に集中させぇさん! 水の勢い弱い時にホースの先キュッてやったら、ビューなるじゃろういね?」

「なーっはは! あんたぁ、説明下手じゃねぇ!!」


「ええんよ、見せるからぁ!! はい! これよ!! 『血陣デス一突クラック』!!!」


 地面に突き刺された指から煌気オーラが走り、少し離れた地点で爆ぜた。

 だいたい広島市民球場の内野くらいの広さの穴ができる。


「なーにしよるんよ! 集中できてないねぇ!」

「そねぇに笑うことなかろうに! あたしゃ皆の中でもスキル下手くそなんよ! 一番下手かもしれんのじゃからぁ!!」


「ああ、ごめんごめん。はぶていじけんでもよかろういね。玉ねぎさん! かき揚げちょうだい!! あたしご馳走するけぇ!!」

「はい! かき揚げ! 喜んでー!! 2分ほど待ってもろうて! はい、お嬢様!!」


 なお、このばあちゃんたちは名無しのモブばあちゃんである。

 逆神亜流は煌気オーラ総量に頼らぬ、独自技術と新機軸の構成術式によって放たれるワンオフ流派。


 継承する気もないので、アナスタシアゾーンの中で勝手に進化させた超のつくオリジナルスキル使いなばあちゃんたち。

 だが、逆説的に考えれば、「ただのばあちゃんでも習得できるスキル構成」とも言えるのではなかろうか。


 それを見ていたアイボ。

 縋るものには糸目をつけない。


 藁だろうとマロニーだろうと、どんなにか細いものにでも手を伸ばす。


 溺れてんだ。アイボは。もう鼻先が浸水するところまで。


「年寄りにできて! この私にできんはずがないのだぁぁ!! ぬぅあぁぁぁ!!」

「バーカ! そんな適当に煌気オーラ放出してスキル発現できてりゃ世話ねーっての! ぎゃははははhおぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」


 逆神大吾の足元が爆ぜた。

 マツダスタジアムの外野スタンドを全てクレーターに変える事のできる威力の煌気オーラを一点集中。


 アイボが『血陣デス一突クラック』を習得した。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 きっかけを掴めば、後は慢心せずにただ実直な努力を重ねるだけ。

 元から煌気オーラぶっ放すだけで完封して来たポテンシャルを持つアイボが、今、真の猛者への階段を。



「ふ、ふはははははは!! できる!! 私にもスキルができるぞ!! これで勝った!!」


 上り始めたりはしなかった。

 現状で満足できる男。増産のアイボ。


 向かう先はペッパーくんの隣か。ファービーの隣か。



 大吾も起き上がる。


「うっせぇ! バーカ!! オレは20年前から使えるわ!! アナスタシア、オレを導いてくれよぉ……!! 戦が終わったら、久しぶりに乳繰り合おう。もちろん、アナも忘れねぇ!!」


 めぐりあい宇宙ゴミスペースデブリ


 先に動いたのは大吾。


「ぎゃはは! こいういのは先に動いた方が負ける……!! とか通ぶって動けず仕舞いなのが愚策なんだよ!! 二刀流!! 『あの頃の輝き斬りスターダストメモリー』!!!」

「どうしてこんな単純なことに私は気付かなかったのか。いや、見渡す限りの化け物に囲まれて冷静さを失っていた。部下はかき揚げ食ってるし。……こうすれば良かった!!」


 『瞬動しゅんどう』から急接近ののち、二刀流剣技を叩きこむ逆神大吾の必勝パターン。



 必勝の意味を考えさせられる現代国語への挑戦。



 その大吾の煌気オーラ刀をあえて粉砕せず、アイボは掴んだ。

 スキルが使えなくても煌気オーラに干渉はできるのである。


 じゃあ、捕まったらもう逃げられない。


「あ゛あ゛あ゛!! なんでお前ぇぇ! 熱いハグしてくんの!? やべぇぇぇ!! この感じ、なんか記憶にあるヤツぅぅぅ!!」


 アトミルカ殲滅作戦の際に五楼隊をドン引きさせた、VS4番ロブ・ヘムリッツ戦でまったく同じシチュエーションの自爆攻撃を喰らっている。

 やられて思い出すのが逆神大吾流。


 そしてアイボは自爆するつもりがない。


「このまま離さなければ!! 先ほどのスキルを足で応用!! 『血陣デス踵突クエイク』!!!」


 元から100マイルのストレートを投げていたアイボが、回転させる事を覚えた。

 土属性という回転はストレートをジャイロボールに変化させ、地中から凄まじい爆発と共に2人を光と粉塵が覆い尽くす。


 1分ほどだっただろうか。


「……………」

「は、ははははは!! やった! やったぞ! おい、見ろ! 年寄り! 目が悪いのか、老いぼれ!! くそババア!! 殺したぞ!」


 よし恵さんが静かに大吾もところへ向かう。

 背中に手を当てて「……うん。……死んじょるねぇ」と死亡確認。


「はーっはははは! YATTA! YATTA!!」

「……ほいじゃあ、次の戦士を呼ぼうかいね」


「約束が違わないか?」

「……ババアにババア言うのは勝手じゃねぇ。……ババア言われたババアが仕置きするのも勝手じゃろういね? ……これは約束が果たされた後にできた、新規のやり取り。……あたしが相手しちゃろうねぇ」


 地獄の釜の蓋が開いた。


 BGMは平井堅の名曲『楽園』でお楽しみください。

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