第796話 【新たな災禍】バルリテロリ、始動 ~日常回やり過ぎた~

 多くの者が恋を紡ぎ、愛を囁き合った聖夜。

 それが終わると仕事がヤバいのは現世の常識。


 そもそも別にクリスマス何もしてねぇし、何なら仕事してたしな社畜戦士にも平等にヤベー仕事量が襲い掛かってくる。

 年末進行。未達業務。既に有給発動させていなくなってる上司。


 なお、この悪魔は3月にも年度末とか言うそっくりさんのふりして忍び寄って来て、やっぱりヤベー仕事量を発動させる。


 年単位で区切れ問題。

 年度単位で区切れ問題。


 こいつの寿命は恐ろしく長く、爆誕したのはなんと明治19年。

 それまで「年貢じゃ、年貢ぅ! 米を寄越すんだよぉ!!」と尻を叩かれまくっていた税のシステムが「は? 米? いや、邪魔なんだけど。貨幣制度整ってんだから、現金で納税してくれる? は? 米売らねぇと金がない? ちっ。じゃあ、4月まで待つから。4月までにぜってぇ納めろよ!!」と変化した事が一因とも言われている。


 また、そこから派生して「お役人様。税金、どう割り振ります?」「えっ? ……ちょっと時間ちょうだいよ」と、予算を決める期間をたっぷり確保したゆえに4月が新年度になったという説も存在する。


 会計年度のスタートが4月になったことで、県への補助金が「おらよ」と渡されるのも4月へ、ならば補助金で運営されていた当時の学校も4月入学。

 そうなると卒業して来る若者は3月に出現する訳で、入社するのも4月。


 あかん。これもう変えられへん。


 諸説あるうちの1つだが、割と有力なものとしてこんな内情があったりする。


 「今からはグローバルな時代や! 世界単位で1月から12月、これを年度に統一するやで!!」という声をなんだか平成の頃に聞いた気もするが、年号が遠い未来で天晴あっぱれとかに変わってもこちらは何も変わっていない気がする。


 話が逸れたのもだいたい全部が国のせい。


 みんなが年末年始のお休み目指して仕事のラストスパートをかけ始めていた頃。

 ついに危険視されていた異世界が動き始めようとしていた。


 もうきっと、諸君は忘れているだろう。

 おさらいから始めましょう。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 異世界・バルリテロリ。

 異空間を隔てた場所にあるのはこれまでの異世界と同じだが、その空間がちょっと良くない感じに乱れているせいで、どこの異世界に行くにも凄まじい時間と労力と燃費がかかる、異世界の僻地と言うちょっと分かりそうで分からない、とにかく隔絶された場所。


 そこに現世へ先遣隊として出撃していた、バルリテロリ八鬼衆が帰還した。


 ちょっと計算よりも早いじゃないかとお思いの方はその記憶力をもって、姫島幽星のサポートをしてあげてください。

 その時間を算出したの、あいつです。


「こちらセヤカテ! セヤカテ、モロタデ、ムリポ!! 帰参いたした!!」


 どう頑張っても「だってやったと思ったらダメだった」と和訳されそうな3名が、デカい土産を抱えて帰って来た。

 彼らが計算よりもずっと速く異空間を航行して本国へと戻れた理由は、3人の乗船している異空間別荘・ハンペンが原因。


 ダンク・ポートマンの隠れ家兼住居だった、ペヒペヒエス製作の別荘。

 別荘を異空間に設置するためにはデトモルトで建造されたものを移動させる必要がある。



 ハンペンにはバッチリ、強力な煌気オーラエンジンが搭載されていたのである。



 移動速度に難のあった敵に、移動できる別荘をくれてやったストウェアチーム。

 現在、かの反逆集団の頭目はダンク・ポートマンとされているので、彼の罪がまた増えた。


「管制官? こちらセヤカテ。どうした?」

『こちらバルリテロリの新首都・オンドレェ。旧発着場、および主要戦艦は全て大破したため、修復不可と判断し放棄。現在は更地になっております』


「なんと……。モロタデ。ムリポ。これはどうしたことだ?」

「セヤカテ。……このムリポ。心当たりがある。しかし、口に出すのはムリポ」


 モロタデが代わりに答えた。


「けけけっ! ムリポの『メントゥス』でストウェアの牛型煌気弾ワチエ氏のおんなを山ほどこっちに転移させたからじゃねぇのか!? あれはすげぇ威力だったからな!!」

「……このムリポ。……皇帝陛下に謁見するのはもうムリポ」


「落ち着け、ムリポ。セヤカテ思うに、仕方なかったことだ。まさか、宣戦布告もしていない国の民間人を危険に晒す訳にはいくまい」

「……セヤカテ。……しかし、その代わりに我らの母国の者が結構な勢いで犠牲になっておるゆえ。……現実直視するの、結構ムリポ」



 人道的見地を重視する方針で本国の軍事拠点がぶっ壊れたバルリテロリ。



 「とりあえず接収したこのハンペンでお許し願おう? な? このセヤカテ、一緒にごめんなさいしてやる所存」とムリポを宥めていると、通信が入った。

 ハンペンはペヒペヒエスが建造しているので、デトモルト仕様。


 通信ひとつ取るのも技術が必要であり、つまりバルリテロリにもちゃんと技術者はいるという事。


『こちら、八鬼衆がひとり。電脳のテレホマン。貴官らのせいで軍事面の稼働率が4割低下した。ひとまず、首都オンドレェの発着場へナビさせる。皇帝陛下には貴官らの口で弁明せよ』


 バルリテロリの技術者。

 電脳のテレホマンです。


 ふざけていません。


 遷都先のオンドレェは1ヶ月の間で山があっただけの場所に安土城みたいな要塞を築城、国の首都と呼んでも良いかなくらいの発展はしている。

 テレホマンがやってくれました。


 発着場に接岸したハンペンから、3人がうな垂れて出て来た。

 出迎えるのは、なんだか全体的に四角いフォルムのテレホマン。


「……どれだけ落ち込んでいるのだ、貴官ら。皇帝陛下には私からこっそりと取りなしてある。せめて落ち込んだ感じで謁見するな。御気分を損ないかねん」

「しかし、このセヤカテ。先遣隊の指揮を賜りながら、実に不甲斐なき結果」


「まあ待て。貴官ら、敵の転移スキルを喰らったと報告してきたな?」

「けけけっ。しっかりモロタデ。あいつはすげぇ規模のものだった! オレたちにゃない技術だな!」


「貴官らの目は節穴か?」

「……このムリポ。近頃いささか遠くのものが霞んで見える」


「すまなかった。皮肉を言ったのだが、伝わっていないと私もなんだかちょっと罪悪感に襲われる。掌の方だ。眼で、転移スキルを捉えたのだろう?」

「なるほど! 確かに!! 我ら3名、いずれもしっかりと眼を見開いておった!!」


 テレホマンが3人の掌の眼に何やら機械を装着させると、すぐにニヤリと笑みを見せた。


「いやいや、貴官ら。これは結構な先遣っぷりではないか。……敵の転移スキル!! 奪ったぞ!! これをすぐに解析に回せば、転移スキルを持つ兵団がいくつも作れる!! もろたで!!」

「けけけっ。なんだ?」



「いや。貴官を呼んだわけではない。もらったぞと言うところ、テンションが上がった次第」


 ダンク・ポートマンさん。

 相当なやらかしをしていらっしゃった模様。


 バルリテロリ、転移スキルをゲットする。



 これにより、移動に伴う時間的な制限がすべて解消された訳ではないが、「侵攻する」という点においてデカい戦艦でえっちらおっちらやって来るよりも、転移スキルで瞬時に移動する方が何百、何千倍と優れているのは明白。


 テレホマンは研究所に向かうと言い残して去っていく。

 先遣隊を務めた3名はこれより皇帝に謁見するため、城の中へと入って行った。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 城の奥座敷に皇帝と呼ばれる男は住んでいる。

 その隣には、ユニコーンのように一本鋭い角が額に生えた女性が待機。


「陛下。先遣隊が戻りました」

「ふははは! そうか! 既に報告は聞いたぞ! セヤカテ、モロタデ、ムリポ!! よくやった!! 褒美を取らせよう!!」


「陛下。バルリテロリの財政面はひっ迫しております。侵攻作戦に対して、既に予備費に手を付けている状態。褒美は差し上げられません」

「…………貴様ら! 褒美はなしだ!! オタマが怖い! ただ、ワシは大変満足している!! この笑顔で勘弁してくれるか!!」


 3人は「ははっ!」と膝をつき、頭を下げる。


 皇帝の隣にいるのは代々秘書官を務める一族の当代。

 オタマと言う名前のバルリテロリ人の乙女。23歳。


 リクルートスーツのような服を着ており、一般的な礼儀作法としてブラウスのボタンは3つ外し、毎日ストッキングのデニールを変えている。


「テレホマンが言うにはな! わずか1週間で侵攻が可能になるらしい!! 八鬼衆はそれぞれ、養生し、力を蓄えておけ!!」

「陛下。養生されては困ります。仕事させてください。スキル使いがそもそも我が国にはほとんどいませんので」


「…………仕事してくれ!! 心だけでも臨戦態勢にしておけ!!」

「はっ!! このセヤカテ、賢しげにもご忠言、よろしゅうございますか!!」


「よし、言ってみろ!!」

「ははっ! 陛下のお言葉で、御命じくださいませ!! 現世を我が物にするため、我らの命を使うと!!」


 皇帝は立ち上がると、大きく頷いた。



「ならば宣言しよう!! このワシ! バルリテロリ第2代皇帝! さかが」

「陛下。それはまだ早いので、おヤメください。困ります」


 困ります。



「…………まだ早かった!! では、貴官ら! 頑張って色々働きながら、良い感じにモチベーションを高めておけ!! 時が来ればまた、ピッチで呼ぶ!!」

「はっ!!」


 ついに動き出した新たなる災禍。

 

 敵の目的は。

 首謀者は。


 日常回やり過ぎたせいで、何かが始まる感じで章が終わる。

 このモニョっとした空気には覚えがある。


 またこの世界線に来てしまったのか。


 戦いが始まります。

 次章の冒頭から。




 ————第11章、完。

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