第780話 【五楼家で聖夜・その1】南雲京華の里帰り ~実家に帰ると大人しくなる普段は強い女子ってなんか良いよね~

 あっくんが聖夜に男を魅せていた頃。

 竜人と背中に乗ったご夫人はなんかちょっと嫌な中年みを見せていた。


 なお、2人して電話中である。


「私だ! 同時通話になっているな? 阿久津がやったぞ! いや、正確にはヤっていないのだがな! だが、もう限りなくヤった!! むしろ、ヤったよりもヤった感が強い!! ふふっ、なかなか伝わらんか! 安心しろ! 音声データは確保している!! この日のために私はノアに盗聴スキルを学んだからな! あの娘は将来大物になるぞ!! ああ、ではまた明日にでも!」


 京華さんはかつて、完全無欠の女帝として監察官を束ねていました。

 雨宮さんを痴れ者と呼び、木原監察官を一喝して黙らせ、どれほど不利な状況でも冷静さを失わず、ただ勝利を目指し、勝利を確信して行動する日本本部を統べる人だったのです。



 嘘じゃありません。本当です。信じてください。



 一方、旦那もお電話に忙しい。

 こちらは着信があったため対応しているところであり、竜人が飛行しながら通話する事が何かしらの法に触れるのかどうかは判然としないが、将来的に『古龍化ドラグニティ』が一般的になれば然るべき措置が取られるかと思われる。


 国土交通省あたりが頑張ります。


「水戸くん。落ち着いて? まずさ、私じゃなくて雨宮さんに相談した方が良いんじゃないかな? 私、恋愛経験とか豊富じゃないし。知ってる? 山根くんには干支が1周する間に女抱いてないならもうそれ童貞に戻ってますね、とか言われてたんだよ? ああ、うん。そうなんだ。雨宮さんには繋がらなかったんだ。はい。了解したよ」


 なんだか面倒な相談が飛び込んできているご様子。


「まあ、何というかね? そういうのはタイミングだからさ。人それぞれだと思うの、私。ほら、雨宮さんとかはもう初日にアレしたりするらしいし。ああ、はい。ごめんね。雨宮さんは関係なかったね。うん。いや、ダメだよ? 相手の合意は得ないとね。うん。特に君、監察官だから。相手は副官だよ? もう、ハラスメントが山ほど重複するケースだから、本当にね。うん。あ、ごめんね。なんだかこっちはクライマックスらしいから。え? いや、どうかな。私もこれから田舎に行くからね。電波がアレじゃないかな。え? いやいや、私のスマホ、格安のキャリアだから。えっ? 名前? ……うっふんモバイルだったかな? あ、ごめんね。ちょっと充電が……」


 ナグモさんはスマホを胸ポケットにしまって「よし」と呟いた。



 本当に良しなんですね?



 それから2人は久坂家にて師匠にご挨拶。

 大変ご機嫌の様子だったので、早々にお暇することにした。


「いや、良いものを見たな!! 修一? 今は何時だ?」

「21時を過ぎたところです」


「そうか。では、行くか」

「このままですか!? 私、スウェットなんですけど!? 一旦家に戻りましょう!?」


「時間がもったいないだろう! 私の両親は既に準備万端だと連絡が来ている!」

「それ教えてくださいよ!? こんなとこで油売ってないで、すぐに支度しに帰ったのに!!」


「だから言わなかった!!」

「……久坂さんにスーツ借りてきます」


 五十五くんが快くスーツを貸してくれて、南雲さんは彼の事がより好きになった。

 駐車場に戻ると、京華さんが【稀有転移黒石ブラックストーン】を用意している。


 こちらはちゃんと申請をしている、真っ当なルートの監察官権限の使用。

 監察官は多忙のため、私用でも【稀有転移黒石ブラックストーン】を使うことができる。

 当然、用途を本部に報告する義務はあるが、かつて雨宮さんなんかは活きのいいおっぱいがあるお店に転移していたりするので審査はかなり緩そうである。


「大丈夫ですか? 私が代わりますよ?」

「ふふっ! 阿久津の観察で煌気オーラは充分に循環している! さあ、飛ぶぞ!!」


 2人の姿が光の柱に消えていった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 こちら、青森県のどこか田舎の方。

 京華さんの実家がある、本州最北端の県である。


 南雲さんは2度ほど訪れており、2度ともコンビニに行くと言って反応がロストした経験を持つ。

 結構な過疎地域であり、山の中であり、最寄りのコンビニまでは車で20分ほどかかる。


 「転移座標作っておいてよかった」とは、監察官一の知恵者が心の底から思う半年前の自分への賞賛であった。


「どうした? 修一。行くぞ」

「ああ、はい。私が先に。やはりご挨拶を最初にするのが筋ですから」


「まったく。律儀なヤツめ」


 南雲さんは深呼吸をしてから、玄関の戸に手をかけた。

 嫁さんの実家に行くのは何回こなしても緊張すると世の中の夫の7割が感じるらしい。


 インターネットに書いてあった。


「夜分に押しかけてしまい、申し訳ございません! 南雲修一でございます! ご無沙汰しております!!」


 玄関には既に五楼パパと五楼ママが待機していたので、南雲さんはさらに恐縮した。


「あああ! 申し訳ございません!! こちら、贔屓にしている店の羊羹です!!」


 よく謝罪で使われているものが、珍しく贈答品として仕事を果たす。


わいはわぁー! どんだばびっくりした!! 修一さ! 変わんねあずましぃ人なぁ相変わらず気持ちの良い人だなぁ!!」

「…………! ああ! すみません、むしろお気遣い頂いてしまいましたか!! ぜひ、お義父さんとお義母さんに食べて頂きたくて! 京華さんも好物なんですよ!!」


めやぐだばってすみませんねぇ! おめだぢぬうぬうしてらっきゃ二人とも急いでないかい?」

「…………………………。………………。……はい!!」



 えー。主審です。

 軽々に青森を京華さんの実家にした事を後悔しております。

 できる限り全力で調べて五楼家の皆様には会話をしていただいておりますが、何か間違いがございましたらご指摘ください。


 言い訳ではないのですが、転移してきてからの尺で既に1時間弱使っております。

 以上、言い訳でした。



「あー。ちょっと、修一義兄さん困ってるじゃん。お父さんもお母さんも、あたしがお相手するって言ったっしょね!! こんばんはー!」


 殺伐とした青森の田舎に、救世主が。


「なんだ、野々花。お前、その格好……! ジャージがヨレヨレだと!? 朝から着替えていないだろう!!」

「姉ちゃ、さしねぐなぁうるさいなぁ!!」


「ええい! 都合が悪くなったら方言で逃げるな!! お前、まだニートしているのか!? もう仕事を辞めてから2年だぞ!!」

「ま、まあまあ! 京華さん! 野々花さんも自分探しの時間は必要ですよ!!」


 この娘っ子は五楼野々花ののかさん。

 京華さんの従妹で、27歳。

 幼い頃にご両親が早世されたため五楼家に引き取られ、娘として暮らしている。


 京華さんにとっても親が違うだけで妹同然の存在。


 14歳差の妹であり、勤勉さを姉が全て担当したせいか自堕落な生活を得意とする、干物系の乙女である。

 最寄りのコンビニでバイトしていたのだが、「時給安いし! しかもさ! 交通費出なくなったの!! これ無理くない!? 辞めるでしょ!!」とのこと。



 車で毎日往復40分。交通費なしはちょっと無理かもしれない。



 京華さんは両親にのみ仕送りをして、「野々花のためにならないから、絶対に小遣いをやらないように!!」と言いつけており、実際に両親も「んだなー」と応じていたのだが、そこにやって来たのがこの優男。


 普通に「野々花さん、お仕事見つからなくて大変でしょう? お年頃だし、何かとお金かかるだろうし」と無許可仕送りを始めた、修一さん。

 結果、野々花さんが死ぬほど懐いた。


 一見するとクララパイセンと同じどら猫属性のように思えるが、野々花さんは何もしたくないわけではなく、仕事もやる気はある。

 ただ、機会に恵まれなければ積極的に探そうとしないだけの家猫属性。


「さーさー! 上がってくださいな! 修一義兄さん!! お姉ちゃんの卒業アルバム! 全部揃えときましたよ!!」

「えっ!! それはぜひ見たいなぁ! 京華さん、20代の頃の写真も隠しちゃうんですよ! 照れ屋なんだから! 拝見させてください!!」


「お、おい! 修一!? お前! 妻の妹と親密になって!! 知っているんだからな、私も!! クララから借りた薄い本で、そういうのをいくつか読んだぞ!!」


 クララパイセンの布教活動により、どこもかしこも薄い本が蔓延るようになった昨今。

 「クールジャパンだにゃー」と鳴いておりました。


 普段は隙を見せず常に強者として君臨するかかあ天下の妻が、実家に帰った途端ちょっとか弱くなって可愛くなる。

 これは大変に良いものだと思われ、賛同される探索員の諸君にはお手元のへぇボタンを連打して頂きたい。


つらすずすちらし寿司つぐっだからよ、かましてがらかきまぜて食べへ!!」

「くっ! 母さん! そこをどいてくれ!! ちらし寿司は食べるから!!」


「遅いよ、お姉ちゃん!! 妊娠してスピードが鈍くなってる今がチャンスですよ、義兄さん! 実は、高校時代の制服もご用意しております!!」

「ええっ!! それもぜひ見たい!! 京華さん、コスプレするくせに自分にゆかりのあるものは一切今の住まいに持って来てくれないので!! 行きましょう!!」


「あ! おい!! 野々花、余計な事をするな!! 修一もサラッとコスプレについて情報共有するな!!」

「京華ぁ! つらすずす!! つらすずすぅ!!」


「食べるから!! その前にヤツらを止めさせくれ!! 母さん、また力が強くなったな!? というか、結婚式の時には標準語を頑張って喋っていたではないか!!」

んだらそれがねぇただでねなぁ難しくてねぇだはんでそういう訳でどもなねなぁどうにもならないね! はっはっは!!」


 なお、五楼家の両親は平凡だと結婚式の際に語りましたが、京華さんの腕を掴んで動きを封じられる程度のフィジカルをお持ちです。

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