第750話 【チーム莉子の冬・その2】小坂莉子、旦那に絶望する(失望はしない) ~「ふぇ!? 進学するの!? う、嘘だよね!?」~

 日本協会本部。

 南雲監察官室では、今日も嫁さんがこれもんな筆頭監察官と、嫁さんがママ友に触発されて子供欲しくて震えているオペレーターが仕事をしていた。


「南雲さん。ピースの所属名簿が上がってきたっすよ。……くっそ多いんすけど。全部照会するんすか? いや、元探索員の人は自動で済むんすけど、たまに異世界人とか一般人が混じってて、自動作業止まるんすけど。端末ぶっ壊したくなるっすね」

「こっちだって結構面倒な仕事が多いんだよ。雨宮さんが単独の司令官になったから、私もついに次席になっちゃったし。久坂さんに相談しても、辻堂さん押し付けたせいでいじけちゃってて電話無視されるし……。調律人バランサー以上の子、復隊させる基準が国によってバラバラなんだよ……」


 日本本部はピースの後始末で連日大忙し。

 なにせ、いつものように日本が中心になって対処したものだから、まず日本が作業を済ませないと他国がフォローすらしてくれない。


 監察官も減ってしまって、仕事の量もガンガン増える。


「そういえば、ゴリ門さんルベルバックに移送されたらしいっすよ」

「ああ。今日だっけ。逆神くん忙しいし、四郎さんは腕を複雑骨折してるからねぇ。とりあえず、ルベルバックの技術で分離してくれると良いんだけど」


 雷原善光泣きゴリラ融合監察官、未だ合体中。

 六駆くんが「進路について考えたいので!」と放置したため、とりあえず本部でいろいろやってみたがダメ。

 結局、キャンポム少佐の厚意に甘えることになった。


「そういえば、南雲さん」


 そういえばで済まされる男たち。

 どっちも監察官です。


「なにかね?」

「春香さんがまた、すごい量のバナナぶち込んだケーキ作ったんで、持ってきたっす。どっすか? 京華さんの調子」


「ああ、ありがとう。お礼言っといてね。つわりはないんだけどさ、先週から食欲なくてね。……良い子供を産むには体力だ!! とか言って、お肉食べまくるのを止めなかった私が悪いんだけど。産婦人科の先生に怒られたよ」

「うっす。嫁さん通信で春香さんに伝わってます。なんかバナナ良いらしいっすよ? ……このバナナは健斗さんよりも立派ですね! きっと赤ちゃん作ってくれそう!! とか、火の玉ストレート投げてくるようになったんで、残業あると助かるっす」


 旦那たちの愚痴とともに、仕事の消化が進む。

 午後4時を過ぎてコーヒーブレイクと相成った。


「逆神くんの推薦決まったんすね」

「そうなのよ。まさか大学行くなんて言われると思ってなかったけど、動機はどうあれ4年間現世にいてくれるのは助かるよ。どこかの異世界で隠居生活されるより、何かあった時すぐにお金持って交渉に行けるからさ。ガッツリ忖度しといた」


 突如、監察官室の空間が歪み、穴が出現した。


「こちら、平山ノア隊員です!! 南雲先生! ボクを今すぐCランクにしてください!!」

「……平山くん。『ホール』の扱いだけは上達したね。雷門さんも天国で喜んでるよ。そして何度言われても無理だよ」


「ぶーぶーですよ! せっかく莉子先輩が勝手に進学決めた逆神先輩にガチギレ……はせず! 推薦した南雲先生にガチギレして、学校終わったら本部行くから……。とか、テンション低めに呟いていたご報告をしたのに!!」


 南雲さんと山根くんが同時に立ち上がる。

 時計を見ると、もう5時前。


 高校はとっくに終わっている。


「私ね! ちょっとコーヒー買ってくる!!」

「何言ってんすか!! 今、クソみたいなオリジナルブレンド飲んでんでしょうが!! 自分、トイレ行ってくるっす!!」


「部屋にあるじゃないか!!」

「南雲さんが死んだら、協会の遺族年金とかの処理やっときますから!!」


 見苦しい脱走合戦が始まったが、それはすぐに終わる。

 再び空間が歪み、今度は門が生えてきた。


「どうもー! 南雲さん! すみません! 莉子がなんかお話があるとかで!!」

「……こんにちは。……小坂莉子です」


 この瞬間、南雲監察官は協会の未来を次世代に託したという。

 「平山くん、Cランクならゴリ押しで上げられるかな?」とも思った。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 山根くんがコーヒーを淹れるという大義名分で早々の離脱をキメて、テーブルには六駆くん(笑顔)、南雲さん(絶望)、莉子ちゃん(憤怒)の地獄の三者面談が出来上がっていた。


「……ええと。逆神くん? 小坂くんに話してなかったの?」

「すっかり忘れてました!!」


「……だ、ダメだよ? このうっかり屋さん!! は、はははっ」

「南雲さん。わたしも大学行くので、推薦ください」


「……あのね。期限が昨日の夕方までだったんだよね。うん。そのさ。決まりってやっぱり守らないと、ほら。組織の上の人間がルーズだと、良くないから、ね?」

「わたしも大学に行くので、推薦ください」


 南雲さん、立ち上がる。

 山根くんがやって来てコーヒーを強めにテーブルにダァンした。


「なに逃げようとしてんすか!!」

「仕方ないじゃない!! 一旦撤退して、出方を考えるのが定石だよ!! 小坂くんのデータ見たでしょ!? なんかヤバいステージにまた上がってるんだから!!」


「あ! 大丈夫ですよ! 南雲さん!! 莉子の『万国眺めても哀しみのおっぱい』は僕が封印スキルで発現できなくしてますから! あれは危なっかしくて! 僕がいないとこじゃ、使わせられないですね!!」

「そうなの!? 逆神くん、仕事が早いねぇ!! ……小坂くん!! 私じゃないよ!? 今の失礼な名称のスキルを付けたの!! 君の旦那だよ!!」


 莉子ちゃん、涙目になる。ウルウルしていて可愛らしい。

 良かった。


 こんな乙女っぽいリアクションの莉子ちゃんをまた見られるなんて。


「ふぇぇぇぇ! だってぇ! 六駆くん、絶対に探索員に専任するか、もう隠居するかのどっちかだと思うじゃないですかぁ!! だから! わたし、勉強とかしないで、大学受験とか無視して!! 花嫁修業に集中してたのにぃ!! 大学生活とか、ラブラブカップルの理想郷ですよぉ!? わたし! 大貧民に負けてマジキレとかしたいんですぅ!!」

「この調子なんですよー! 南雲さん!」



「逆神くん! 君ぃ!! それ私のところに持って来てもどうしようもないことくらい、今の狡猾なおじさんになった君なら分かるでしょ!!」

「うふふ! だって! 莉子が学校でずって抱きついて泣くんですもん! 困ったなって!!」


 山根くんがログアウトしました。



 莉子ちゃんの制服のスカートがゆらゆらと揺れ始める。

 当然だが、監察官室の空調は足元から風が吹き出すハプニングバー仕様ではない。


 南雲さんはコーヒーを飲んで、心を落ち着ける。

 無糖なのに甘く、ミルクを淹れたようなまろやかさが口の中に広がった。



「もぉぉぉ!! わたし! 計画通り、これから雨宮さん捕まえてぇ! 日須美大学に入れてもらいますからねっ!! もぉぉぉぉぉ!!」

「ぶうぅぅぅぅぅっ!! クーデターじゃないか!! いや、計画通りって言ったね、この子!? 逆神くぅん! 止めてよ!? うわっ、すごく穏やかな煌気オーラ爆発バーストしてる!!」


 今回は計画的犯行なので、スカートの下に短パンを穿いてきた莉子ちゃん。

 飛び散るコーヒーの雨を防壁展開して防ぐ六駆くん。


 準備万端。やる気です。



「はははっ! 女の子って難しいですね!!」

「笑ってんじゃないよぉ、君ぃ!! せっかく戦争回避したのに、組織のトップを武力で制圧しようとしないで!? しかも小坂くん、煌気オーラコントロールの練度上がってる!! 修業してたんだ! 偉いなぁ!!」


「そうですよぉ! 六駆くんと無敵のカップル探索員としてデビューするためにぃ!! けどぉ! 六駆くんだけ大学デビューするとかぁ! ひどいですよぉぉ!!」

「見てください、南雲さん!! 莉子の煌気オーラ!! バニングさんの本気くらいの出力を安定して出せるようになったんです!!」



「ここで出す必要はなかったよね!? 山根くん、こうなったら緊急アラートを、いない!? やぁぁぁぁまぁぁぁぁねぇぇぇぇ!! 逃げたな、くそぅ!!」


 南雲さんは「子供の名前、決めておけば良かったな」とテーブルに飛び散ったコーヒーを見つめて後悔した。



 その時、扉が開いた。

 やって来たのは組織のトップ。雨宮上級監察官。


 ターゲットである。

 逃げてください。


「あららー。ダメだよー。逆神くん。彼女とのコミュニケーションは密にしないと」

「しまった!! 標的来ちゃった!! こうなったら、私も変身を!!」


「戻ったっすよー! 福田さんに頼んで、日須美大学にハッキングかましてきたっす! 今なら改ざんし放題っすよ!」

「そうなんだねー? じゃあ、やっちゃいなよー。私、許可しちゃう! だってねぇ? やっぱり彼氏とキャンパスライフ楽しみたいもんねぇ?」


「ふぇぇぇ! 雨宮しゃん……!! ありがとうございますっ!! 南雲さんも! 責任取ってくれるなんて、わたし、南雲監察官室の所属で良かったぁ!! みんな大好きですっ!! えへへへへ!」



「え゛っ!?」

「あ。これ、うちの誤作動ってことで明日の朝には報告しとくんで。南雲さんは菓子折り持って謝罪よろっす。やー。この部下思い!! 理想の上司っすねー!!」



 こうして、莉子ちゃんも大学進学が決定。


 翌日、高いどら焼きを持って日須美大学の学長に謝罪をキメた南雲さん。

 帰り道に空を見上げて呟いた。


「……そうか。こんな感じで、ピースに賛同する管理職が結構出たんだね。分かる」


 莉子ちゃん回なのに南雲さんが地獄を見た。

 つまり、莉子ちゃんはまだ日常回で暴れる可能性がある。


 諸君らにはその点、留意していただきたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る