第735話 【ダンジョン大衝突・その7】父と息子 ~時々、乳~

 これまでピースの人間が『煉煌気パーガトリー』を使用すると、だいたい出力に耐えきれず一撃を放って機能停止していたが、そこは辻堂甲陽。

 現ピースの最上位調律人バランサーにして、日本探索員協会の初代上級監察官。


 重ねて来た戦いの数は皮肉にも彼の得意とする属性と同じく、次元が違う。


「かっかっか! 金玉はいてぇが動けるな!! 良い感じに体温めてたからかねぇ? おっしゃ! いくぜいくぜぇ! 最終ラウンドでぇい!!」

「……速いですわ! それに重い!! くぅぅぅっ!!」


 辻堂は超過煌気オーラを放出せず、体内に宿した。

 多発的な煌気オーラ爆発バーストであり、こんな頭のおかしいことをすると爆発四散してお亡くなりになるの者が99パーセントを占めるはずだが、この男はきっちりと1パーセントを奪い取る。


 必然的に身体能力も向上し、移動速度、攻撃威力、いずれも上限を突破。


「姉上!! 『ローゼン・シルト』!! 一点特化発現!!」

「悪かねぇが! 力任せでどうにかなるレベルだぜ!! そぉぉぉらぁ!!」


「確かにそうかもしれん!! だが、私にとってただ一人の姉だ!! 手をこまねいて見ていられるほど私は冷静になれない!!」


 さらに煌気オーラを放出する五十五くん。

 数秒ほど耐えたが、やはり圧倒的な力に吹き飛ばされる。



「お、おうふ……! わたくし、わたくし……!! 何なんですの、この胸の高鳴り……!! あっくんさんとの婚約を五十五さんにお伝えして、姉上に相応しいか試させてもらう!! とかいう、そういうのありますの!? お姉ちゃん、困りますわよ!! わたくし、みんなの小鳩ですわよ!! あっ。鼻血止まりませんわね」


 小鳩さん、しっかりしてください。



「ほおぉぉぉぉぉ……。お主ら、下がっちょれ。このバカタレとは腐れ縁でのぉ。腐っても縁は縁じゃけぇ。結んでしもうた以上、断ち切るのもワシの役目じゃろうて」


 弟子たちが時間を稼いでいる間に、久坂剣友の煌気オーラ爆発バーストが完了。

 燃え尽きそうな光には弟子たちのみならず、逆サイドで戦っているライアン対応チームにも戦慄が走った。


「一撃勝負と行くか? 剣友!!」

「気ぃ利かせるのぉ。年寄りにゃ長期戦じゃあ勝ち目なんぞないわい」


「体力関係なけりゃ勝てるってか! かかかっ! それでこそ久坂剣友よ!!」

「じゃかぁしぃわい、バカタレ。早うかかって来んかい!」


 辻堂は脇差を置いて、刀を鞘に納める。

 彼の斬撃は次元を裂くが、彼の極大スキルは斬った次元を消滅させる。


「……抜刀術!! 『大断絶だいブレイク』!!」


 真横に走った剣閃が煌気オーラも物質も吞み込んでいく。

 対して、久坂剣友は両手を重ねた。


「ぬぅぅぅぅぅ!! 『灰燼かいじん』!!」


 久坂御大が選んだのは、煌気オーラ抹消系の極大スキル。

 この老兵には選択肢などなかったのである。


 辻堂の一閃は広範囲に及ぶため、自分が抹消しなければ部隊メンバーの大半が危険区域に含まれる。

 全滅まではいかずとも、何人かは命を落とすと分かっていれば、久坂剣友にとって最強の矛は護りのために存在する。


 彼にとって全ての探索員は家族。

 「家族を守れん年寄りなど、何のために長う生きて来たか分からんわい」と笑う。


「おめぇらしいな!! 手加減はしねぇぜ!!」

「望むところじゃ!! 負けて泣くのはおどれじゃい!!」


 久坂老人が立っている地点で剣閃は止まり、せめぎ合いが続く。

 だが、老兵に分の悪い戦いであることは明らかだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ライアンも『煉煌気パーガトリー』を使った極大スキルの威力を確認するために、少しばかり爆心地に目をやる。

 その隙を見逃さなかったあっくん、指示を飛ばす。


「小坂ぁ! 無い乳の必殺の出番なんだよなぁ!! 久坂のじい様が死ぬぜぇ!!」

「ふぇ!? や、やってみます!!」


 あっくんも苦渋の決断。

 だが、スキルはメンタル勝負。


 急に「やってね」と言われて「はい。やります」とオーダーが通るなら、元から苦戦などしていない。

 その上、眼前にはライアンが迫っている。


 莉子ちゃんを一時的に完全な戦力外にする決断は、自軍の壊滅に直結しかねない。

 それでも久坂剣友を助けたいと皆に思わせるほど、かの老人は多くの遺産を築いていた。


「え、ええと! やぁぁぁぁぁ!!」

「げふぁ! 小坂さん……」


「ふぇ!? 和泉さん、大丈夫ですか!?」

「とあるシリーズの……御坂美琴さんですが……。逆神くんが好きだと……」


 和泉さん、何の話でしょうか。


「あっ! そうなんですよぉー!! 一緒にアニメ見ました!!」

「……逆神くんは。げふぁ。……あれ? この子、莉子より結構あるな……と……」


 和泉さん、命がけで莉子ちゃんを煽る。

 その意を汲むのはズッ友。


「あぁ! 小坂はちっとボリューミーさが足りねぇって言ってたなぁ!!」

「へー。……そーなんですかー」


「莉子先輩! それ言ってたの、あの侍先輩です!!」


 ノア隊員はこれまで莉子ちゃんを良い感じに煽って来た実績があるものの、いくらなんでもここまであからさまな冤罪がまかり通るはずがない。


「へー。……悪い人だね。……お仕置きしなくちゃだよ」


 黒い煌気オーラが発現された。

 乳へのディスはだいたいまかり通るのが小坂莉子ちゃん。


「む。させるか!」

「平山ぁ! 青山さんもよぉ!!」


「水戸先輩! ゴーです!!」

「ぐぬぬっ。水戸さん! この戦いが終わったら、う、海! 海に行きましょう!!」


 虹色に光る水戸信介、きりもみ回転しながらライアンへ突貫する。


「うぅぅぅぅみよぉぉぉぉぉぉ!! 自分のうぅぅぅみよぉぉぉぉぉぉ!!」

「ぐぁっ!! こいつ!! なんだこの出力は!? 水戸監察官! 日本は今、冬だろうが!! 海に行っても乳は見れんぞ!!」


 ライアンさん、論理的に攻撃を制止する。

 だが、今の虹色レインボー水戸信介マリオネットに論理は効かない。


「だったらぁぁ!! ハワイに行きますよぉぉぉ!! 貯金はぁぁぁ! あるっ!!」

「がぁぁぁっ! くそっ!!」


 この時、奇跡的に全てのタイミングが良い方に重なる。



 ライアン・ゲイブラムへの水戸ミサイル着弾。

 莉子ちゃんの静かなる簒奪者への覚醒。

 ノアちゃんがそこら中に出した穴たち。



「……『煌気搾乳ミルスポイル』!!」


 漆黒の煌気オーラが穴の中に潜ると、辻堂の最寄りの穴から喰らいつく。


「おおおお!? なんじゃこりゃあ!?」

「莉子の嬢ちゃんか……! ええのぉ! 甲陽、このままワシと逝くか!!」


 莉子ちゃんの簒奪は辻堂の煌気オーラと同時に、接触している久坂剣友の煌気オーラも吸い尽くす。

 だが、この少しばかり年を取った父親は、最初から自分だけで辻堂甲陽を倒す算段など整えていなかった。


 父の後ろでは、静の煌気オーラ爆発バーストで充分にチャージを終えた久坂五十五が立つ。


「父上。私はあなたの息子として! 正しき選択を取る!!」

「ひょっひょっひょ! 甲陽! 相手に勝てん時は2人で戦え言うても、お主は聞きゃあせんかったのぉ! 『灰燼かいじん葬送そうそう』!!」


 穴からは乳憎しの黒い光閃が煌気オーラを喰らい、久坂剣友の究極スキルは煌気オーラを抹消する速度と量を飛躍的に上げた。

 辻堂の剣閃が途絶える。


「……我が父、久坂剣友より賜りし極大スキル!! うおぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「おお、やっちゃれぇ! 五十五……!!」



「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 『五十五刻ごじゅうごこく剣友シュベアト』!!!」


 55本の薔薇の棘が剣となり、友のため敵を一斉に貫く。

 久坂五十五の極大スキルである。



 煌気オーラ吸収と煌気オーラ抹消の同時攻撃を受けていたところに襲い掛かって来た薔薇の剣は、55本全てが辻堂甲陽の体に突き刺さった。


「かっかっか!! こりゃあ、たまげた!! なんでぇ! 剣友!! おめぇらしくもねぇ! トドメを人任せにするたぁ! 老いたかぁ?」

「バカタレが……。お主も家族を持ったら分かるわい。息子に背中預けられりゃあ、そうするのが1番ええに決まっちょろうが……」


「ほーん。家族ねぇ。……よく分かんねぇが、そりゃあ随分と強ぇんだなぁ。……参ったぜ」


 崩れ落ちる辻堂甲陽。

 久坂親子の完全勝利であった。


 だが、その父親の命も燃え尽きようとしている。

 煌気オーラ枯渇の状態でさらに究極スキルの発現。


 老体には厳しすぎる酷使。


「小坂ぁ!! ……いや、違ぇ! 平山ぁ! 青山さんよぉ!!」


「莉子先輩!! 久坂先輩がヤバいです! 久坂先輩は逆神先輩との結婚式で仲人をしてくれる人です!! 結婚式、潰れます!! 南雲先輩に任せたら、チャオチャオうるさい式になります!! 結婚式の大ピンチです!!」

「ふぇ!?」


「莉子ちゃん!! これ食べてぇぇ!! さっき作ったの! ノアちゃんの魔ミルクティーに漬け込んだ、バームクーヘン!! カロリー計算したら、これだけで1500超えてる!!」

「あむっ!! ……おいしー!!」


 莉子ちゃんの脳内にカロリーが駆け巡り、六駆くんとの結婚式の想像図が完成した。

 そこにいるはずの久坂御大がここで死んでいいはずがない。


「モグモグ。やぁぁぁぁぁぁぁ!! 『煌気授乳剣ミルジェクロン』!!!」


 この緊急時ですが、確認だけさせてください。



 名前はそれで良いんですね。



 禍々しい色をした魔剣が具現化され、久坂剣友の胸に突き刺さった。

 直後、ドクドクと心臓の鼓動にも似た、授乳音が響く。


「……かはっ。……五十五」

「ここに! 父上!!」


「ようやったのぉ。お主はまっこと、自慢の息子じゃわい……」

「父上! 私にとってはあなたが自慢の父親だ!!」


「ひょっひょっひょ。……ワシ、死を覚悟したんじゃけどのぉ。どがいして、なんぞ乳房の形した剣を突き刺されて、甲陽の煌気オーラぶち込まれよるんじゃ?」

「母乳を啜っても生きながらえて欲しい!! 息子のエゴかもしれん!!」


「……ほぉか。……ほいじゃあ、仕方がないのぉ。……今、母乳ぶち込まれよるんか、ワシ? 嘘じゃろ?」


 久坂一門VS辻堂甲陽。


 決着。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る