第643話 【反逆のストウェア・その3】ピースVSストウェア ~おっぱい男爵、義のために立つ~

 ストウェアもコピー戦士の起動実験が始まった事をすぐに察知した。

 が、ここで判断が割れる。


 繰り返すが、ピースの調律人は同階級ならば優劣がなく、指揮系統も存在しない。

 この場にいるのは姫島幽星、ダンク・ポートマン、ナディア・ルクレール、ライラ・メイフィールド、バンバン・モスロン。


 全員が上位調律人バランサー

 命令を下す者がいても従う義務はなく、指示を待とうにも誰も命令を出さない。


 残るはレオポルド・ワチエ。

 彼の階級はリア充死ね死ね団。


 建設的な意見が出て堪るか。


「おい! どうする!? あれ獲るか!? なあ!? いっちゃう!?」

「バカハゲ!! こういうのって一発目はなんかしょぼいヤツから始めるんじゃん?」


「うぇーい! せめて臨時指揮官を決めるべきだったのでは? と、私は昨夜からずっと思ってましうぇーい!!」

「あー。それねー。わたしも思ってたー。けどねー。面倒だったので言うのヤメましたー」


 烏合の衆の見本市が出来上がっていた。


 ワチエ氏が悲しみに暮れた表情で川端監察官を見る。

 続けて彼は、絞り出すように彼に問う。


「川端さん。最期に教えてください。おっぱいって、柔らかいんですか?」


 苦悶の表情の寡黙な仕事人。

 彼はこうなる事を予測していた。


 お忘れかもしれないが、川端一真は日本探索員協会の監察官。

 指揮官職がメインの職務を日々送っていた。

 おっぱいソムリエではない。


「くくっ。どうする? 川端? 貴殿なら、どうにかできるのではないか? というか、貴殿が何もしなければストウェアが落ちるぞ」

「貴様……! この変態サドルペロペロ野郎!! こうなる事を見越していたな!?」


「どうかな? ただ、次の一手は某にも見える。貴殿はおっぱいと、おっぱいに憧れる者を見捨てられるほど非情にはなれぬ。くくっ」


 姫島が口元を歪める。

 川端監察官は拳を握りしめた。


 監察官として正しい選択は。


 熟考どころか、反射的思考で充分に足りうる愚問。

 ストウェアは既に探索員協会の手から離れているのだから、ピース本隊に接収されても大勢に影響はない。


 むしろ、ストウェアの乗員である5人の上位調律人バランサーをこの内輪揉めで戦力から除外してしまえば、ピース全体の戦力を著しく弱体化させる事ができる。

 川端監察官の命も失われる可能性は高いが、彼はそれを「必要な犠牲」として受け入れられる高潔な精神の持ち主である。


 川端一真、決断の時。


 彼は穏やかな口調でワチエ氏に教えた。


「ワチエくん。おっぱいはとても崇高で、尊く、私たちの母になってくれる存在だ。おっぱいに善悪などない。良いおっぱいも悪いおっぱいも、元をただせば人類の希望。それが失われるのをむざむざ見過ごすほど! この川端一真!! 愚かではない!! ワチエくん! おっぱいはとても柔らかい!! 生き延びて、直接触るのだ!!」


 川端一真監察官は、たった今からおっぱい男爵へ。

 おっぱい男爵の所属は世界おっぱい協会なので、日本探索員協会も国協もピースもストウェアも関係ない。


 ただ、手の届くおっぱいに優しく手を伸ばす。

 それだけである。


「総員!! 静かに聞け!! あのコピー戦士は日本探索員協会所属、雷門善吉監察官がベースになっている!! 先ほどから聞こえる不愉快な怪音波は泣き声だ!! どうやったのかは知らんが、3体全てが雷門監察官と同等以上の煌気出力! つまり、既に我々は捕捉されている!! 攻撃に備えろ!! つぁぁぁぁぁっ!!」


 男爵は飛び上がると、両手を広げた。


「防壁スキルは専門外だが!! 数秒程度ならば時間も稼げる!! 『水柔揺揺壁ウォルタラプルプルガード』!!!」


 おっぱい男爵が水の防壁を展開した数秒後。

 コピー戦士・号泣アァァァΛ型は一斉にスキルを発動させた。


「ウッグウェンナァァァァァッフ!! 『土器土器爆発工作物ドキドキボムボムクラフト』!!」

「イッグブゥゥゥン!! エ゛ンナッフ!!」

「ウッヒィィィィィヤンスゥ! メチョリキィィ!!」


 3体の号泣するコピー戦士が放つ大空襲。

 地獄絵図であった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 カマボコ要塞で観察していたペヒペヒエスが「なんや?」と訝しんだ。

 号泣アァァァΛ型には「オレンジグラード諸島のイドクロア製人工島の爆撃」を命じたはずなのに、何故か局地的な空襲を仕掛けているからである。


「ええ……。もう初手から全然制御できてへんやん」

「ペヒさん。あそこに何かありますな。号泣アァァァΛ型が遮二無二爆撃しているので、シルエットが……。あれ、ストウェアじゃありませんか?」


「あー。ほんまやね。なんでここにおるんやろ? というか、味方やんな? うちの号泣ちゃんたち、酷いことしとらん? コンプラ的に問題あらへん?」

「コピー戦士には敵勢力に対して無条件で攻撃する仕様で、今回は固定したと言うお話でしたね?」


「せやで? 煌気オーラの攻撃とか防御とか、その辺の種別を判断してな? 迎撃の意志あり思うたら勝手に戦闘モードに移行するんや。すごいやろ?」

「確かに。すごいですね。ストウェアは反逆が濃厚と言う情報を私とサービス殿は共有しております。つまり、我々の起動実験を何らかの方法で知った上で、ちょっかい出してきたのでしょう。まあ、このシチュエーションならばコピー戦士の奪取と想定するのが自然かと思いますが」


 玉ねぎ頭が揺れる。


「ほんま? それやったらむしろ逆に助かるわー。いきなり探索員協会にぶっこむのも不安やってん。ちょうどええやん! 上位が何人おるん?」

「確か、5人です」


「ええデータ採れるやん!! オペレーター! 号泣アァァァΛ型3機、全てのリミッター解除! 自律行動の許可出してええで! 好き勝手にやらせてみよかー!!」


 ペヒやんの指示を受けて、技術者たちが端末を操作する。

 号泣アァァァΛ型の頭に取り付けられていたヘッドギアが外れると、彼らは泣くのをヤメた。


「ところでさ、ライアンちゃん?」

「はい」



「聞いてへんで? ストウェアがヤンチャしとる話。なぁ? 聞いてへんけど?」

「すみません。……あの。こちら、日本のお菓子で八つ橋と言うものです。よろしければ」



 ライアンは心の中で嘆いた。

 「サービス殿が、ペヒペヒエスには伝えておくっておっしゃったのに」と。


 恐らく、練乳キメるのに忙しくて失念したのかと思われた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「あっぶねぇ!! マジかよ! バレてたのか、吾輩たち!!」

「うぇーい! 川端さんがいなかったら、全滅してましたうぇーい!! 大変お世話になりました。この上は、生きて帰還したのち改めて御礼申し上げる次第です」


 偶然にも、ダンクとバンバンが現状の対応に最も向いた戦士であった。

 男爵は指示を飛ばす。


「感想は後で聞く! ダンクくん! 次が来るぞ! 転移スキルで捌けるか!?」


「全部はキツいぜ!」

「では、私も協力しまうぇーい!! スキル掴んで投げるんで、ダンクさんは転移用の空間構築ヨロでうぇーい!!」


 このタイミングで号泣アァァァΛ型の自律モードへの移行で、数秒の空白が生まれる。


「ライラさーん! 草生やしてー!! 煌気オーラ吸い取る草ー!!」

「あっ! そうか!! 川端の防壁消えてるもんな! 『吸収大茂草草草スポイラー・シバハエル』!!」


 ライラの生やした草である程度の煌気オーラは無効化できる。

 バンバンがスキルに干渉し、ダンクが転移空間を維持し続ける事で防衛ラインは及第点の強度へ。


「やー。川端さんー。さすがだよねー。わたしたちアレだもんねー。みんなが監察官とか理事とかだったからねー。しかもそれから時間経ってるしー。指揮官するのも、命令聞くのも下手くそなんだよー。川端さんがいなかったら本当に危なかったねー」


 男爵。今回ばかりは苦渋の決断だったため、表情が優れない。

 ナディアさんはそんな男爵の気持ちを理解する。


「んー。川端さんさー。自分を責めちゃダメだよー? 正しいと思ったことを正しく行使するのが監察官の基本的理念だからねー。気にしない、気にしないー」

「……ナディアさん。……しかし、これで私は明確に探索員として反逆行為に加担してしまった。もう、生きて帰ったところで、良くて退役。普通に考えれば裁判ののち、ウォーロスト送りだろう」


 ナディアさんは「そっかそっかー」と頷いて、川端男爵の手を取った。

 そして、そのまま自分の右のおっぱいに押し当てる。



「はーい。これはわたしが個人的に出すお礼でーす。ありがとー。川端さんー。あなたのおかげで助かったおっぱいはここでーす」

「ワチエくん!! 君にも働いてもらうぞ!! 戦場でぼさっとするな!! 勘違いされては困るがな!! 私は目の前の命を救うために探索員を志したのだ!! 柔らかいぃぃ!! あああああ!! はぁぁぁぁぁぁ!!」



「わー。ツンデレさんだねー」

「ナディアさん。あなたとあなたのおっぱいは私が命を賭けて守ろう。久しぶりの良いおっぱいだった。ふっ。もはや迷いなどない!!」


 やっている事も言っている事もギリギリアウトな男爵である。


「くくっ。川端。貴殿は実に有能なツンデレだ。胸を張れ、ツンデレ」

「黙れ、変態。お前はさっさと最前線に出ろ。ついでに足滑らせて死ね。遠距離攻撃もできんド変態が。今すぐ海に蹴り落とすぞ、腐れ外道」


 ストウェアとピース、本格的な交戦状態へ。

 総司令官はまさかの川端一真男爵。


 もうおめーの席ねぇからの可能性が高いですが、生きて帰って来て下さい。

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