第594話 【ちょっとラブコメ・その1】六駆くんと莉子ちゃんのドライブデート

 ミンスティラリアの荒野では、ここ数日凄まじい煌気オーラ爆発バーストが観測され続けている。


「ダメダメ! もっと集中しないと! まずは体の一部分に煌気オーラを集約させる一連の動作を完璧に思い出そうね! まだまだ次のステップには進ませないよ!!」

「ふぇぇぇ。難しいよぉー」


 逆神六駆。

 久方ぶりの師匠ポジションに戻り、弟子を鍛え直していた。


 と言うよりも、「莉子がダメな成長したの、割と僕のせいなんだよね!! 主に昔の僕!!」と、六駆くんも反省していた。

 彼は莉子ちゃんと出会った当初は「この子、性格良いし! よぉし! 僕の隠れ蓑に育て上げちゃうぞ!!」と言う、割と最低な発想で彼女を鍛えていたのだ。


 とりあえず人の目を引くド派手なスキルを覚えさせる事を優先し、その最たるものが逆神家三代による魔改造スキル『苺光閃いちごこうせん』である。

 当初は「こんなダサい名前のスキルやだ!!」と理性的な反抗をしていた彼女だったが、恋に落ちた途端に理性と知性がグラニュー糖のようにサッと溶けた。


 その後はご存じの通り、「えへへへへっ! 六駆くんが作ってくれたスキルっ!!」と、ウキウキでどこに行っても苺色の悪夢で戦場を染め続けていた。

 結果、せっかく鍛えたスキル使いとしての基礎の大半を忘れてしまった乙女。


「はいはい! もっと気合入れて! 右手に煌気オーラを凝縮するイメージだよ!! あー! 4割くらいしか集約できてないよ! 何故か半分くらい足から出てるし! 莉子の太ももは魅力的だけど、煌気オーラ纏わせる必要はないからね!!」

「ふぇぇぇぇ。六駆くんがスパルタに戻ったぁ……。けど、これはこれで幸せ! えへへへへへへっ」


 その後も煌気オーラコントロールの修行は続く。

 とにもかくにも、膨大な煌気オーラを操れないとスキルを撃たせるのが危険である事は、あっくんが「逆神ぃ。てめぇ、これ10回は読み返せよぉ!?」とガチギレで送って来たヴァーグル制圧任務のレポートを読んだ六駆くんも把握していた。



 「うわぁ! 僕が思ってる7倍くらい深刻だったなぁ!!」とちょっと驚いたらしい。



 だが、そろそろ日が暮れて来る。

 お腹が空いた師匠は弟子に適当なアドバイスをした。


「よし! 次が最後ね! 僕はここから動かないから、『太刀風たちかぜ』を当ててみて!」

「えー!? 50メートルくらい離れてるよぉ!? 無理だもん……」


「僕に当てられたら、明日はドライブデートだよ!」

「ふぇっ!? やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!! ふぅ……。集中……。『太刀風たちかぜ』!!」


 巨大な上に煌気オーラが完全に集約された風の刃は、六駆くんのちょうど中心目掛けて飛んで行った。

 最強の男が思わず『鋼泥外殻グラニットミガリア』を発現させたのは、その威力と正確なコントロールの証明である。


 こうして、次の日に2人はデートへ行く事に。

 なお、逆神六駆師匠はこのトレーニング方法を、魔人ブウ編でベジータさんがトランクスくんに「顔殴れや」と言って本当に殴られたらガチ反撃したエピソードを参考にしております。


 反撃してない分、六駆くんの方が師匠としては優しいまである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 翌日。朝ごはんを済ませると2人は魔王城の格納庫へと向かった。

 そこでは最近白衣をあまり着ない南雲監察官の代わりに、ベスト白衣ニストに名乗りをあげようとしているシミリート技師が待っている。


「すみません! 急に無理言ってしまって!!」

「いやなに、英雄殿の頼みだからね。それに、2ヶ月ほど動かしていなかったからちょうど良いのだよ。是非ともたくさん走らせて来てくれたまえ」


 そこにあったのは、移動要塞。

 アタック・オン・リコである。


 ルベルバック戦争の際に六駆くんが構築スキルで創り出し、軍事拠点デスター急襲作戦でも活躍した、「タイヤはないけど、車だよ!」と製造者が言い張るので、今日は車なミンスティラリアの起動兵器。


 ちなみに煌気オーラを地面に噴射してホバークラフトのように稼働するので、車の境界線を越えたか超えていないかの議論に決着はつかないだろう。


「むぅー。これ車じゃないよぉー」


 これには莉子ちゃんも不満顔。

 だが、六駆くんが常識的な事を言う。


「だって、僕たち免許持ってないじゃない! 車の運転はできないよ!」

「そうだけどぉー」


 なお、2度の出動の際には「運転免許持ってないから」と言って操縦をクララパイセンに譲っていたのだが、今回は「まあ、私有地の中ならオッケーだよ! ミンスティラリアって実質、僕の庭みたいなものだし!!」と、最近はあまり聞かなくなったおじさん暴論を吐いて強引に法律の壁をぶち抜いた。


 と言う訳で、六駆くんの運転によるドライブデートへ出発である。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 時速80キロで快走しているアタック・オン・リコ。

 だが、そもそも移動要塞なので窓がない。

 周囲は装甲で覆われており、フロントもほんのわずか外が見える程度。

 視認はメインモニターによって行われる。


 ムードなど存在しない。

 これはそろそろ莉子ちゃんが唸り始める頃合いか。


「えへへへへっ! 男の子の運転する姿ってカッコいいねっ! もうずっと見てられるよぉ! あっ! 今の片手でハンドル切るところとか、すっごい良かった! ねね、六駆くん! もう1回やってよぉ!!」



 むちゃくちゃご機嫌だった。諸君、これが恋である。



 その後も爆走するアタック・オン・リコ。

 だが、運転は安定しており、まるで熟練ドライバーのようなコーナリングを魅せる。


 種明かしをするまでもなく、それはアタック・オン・リコの動力が煌気オーラによる事に起因していた。

 本来はチャージして運転するが、六駆くんは直接煌気オーラを注ぎながら走らせている。


 つまり、ここでも登場するのが煌気オーラコントロール。

 あっくんなどもよく使うが、「スキルに行動プログラムを付与する」テクニックの応用である。


 ハンドルを握っているだけで、実のところアタック・オン・リコは自動走行状態。

 29年も1人で戦ってきた六駆おじさんにとって、移動要塞の1つや2つ、自在に操る事など造作もない。


 しばらく走って、大きな湖に着く。

 ちなみにここは、かつて莉子ちゃんに「あのデカい神獣とか言う魚、独りで倒すんだよ!」と六駆くんがドSな指示を出した場所。


 『苺光閃いちごこうせん』実戦デビューの地でもある。


「ふわぁ! 六駆くん、ここに連れて来てくれるつもりだったの!?」

「懐かしいよねー! あれから1年経ったんだからさ!」


「そうだねー! ……わたし、全然成長してないけど。体もスキルも」

「何言ってるの! 莉子は毎日成長してるよ!」


「嘘だもん。六駆くん、優しいから慰めてくれてるんだもん」

「そんな事ないってば! だって、1年前より、半年前より、先月より、昨日より! 僕は莉子の事が好きだよ? 明日はもっと好きになる! 見る度に莉子は可愛くなるからさ!!」



 世界よ。これがモテおじの力である。

 もはや覚醒した六駆くんに敵など存在するのだろうか。



「ふ、ふぇぇぇっ!? しょ、しょんなことにゃいよ……!?」

「あははっ! 昔は莉子が僕を引っ張ってくれてたのになぁ! お弁当にしようか! 実はね、ばあちゃんとお袋に習って作ってみたんだよ! サンドイッチが限界だったけど! お尻汚れないように煌気オーラを敷いてと!」


 レジャーシートを敷かず、煌気オーラを敷くのが逆神家のやり方である。


「あーむっ! ふわぁぁぁ! 美味しいよぉ! もぉ、わたし! 幸せ過ぎてバカになりそうだよぉ!! えへへへへへへへへへへへっ!」

「ははっ! 明日からまた修行するからね! 莉子は育てがいがあるから、僕も楽しいんだ! いつかは僕を追い越すくらい強くなって欲しいな!」


「えぇー? そんなの無理だよぉー。わたし、六駆くんの次に強い女の子になるもん! えへへへへへへへへへっ!!」

「そうかー! それも良いね! 一緒に隠居してもきっと退屈しないや!!」


「えへへへへへへへへっ! ふへへ、うへへへへへへへっ!!」


 ちなみに莉子ちゃんは幸せ過ぎて本当にバカになったらしく、せっかく覚えた煌気オーラコントロールのほぼ全てを忘れました。

 「気のせいかもしれないけど、もしかして莉子。少しずつ弱くなってる?」と六駆くんが真実に触れる寸前まで迫りましたが、煌気オーラ爆発バーストを見て「うん! 気のせいだな! ミンスティラリアを半日で滅ぼせるもんね!!」と、大きく頷いたのであった。


 莉子ちゃんの修行のゴールは未だ遠すぎて距離さえ判然としていない。

 次の任務には六駆くんがついて行くと思います。

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