第581話 【雨宮順平は放浪中・その3】ピュグリバーの新たな平和の立役者! それはまたも現世のおっさん!!

 オレンジ色の光の中からエヴァンジェリンが現れた。

 が、活性化前と姿に変化が見られた。


 身長は10センチ近く伸びており、羽衣が窮屈そうにしている。

 特に胸部装甲がついさきほどまでは莉子ちゃんサイズだったのが、一気に小鳩さん一歩手前くらいまで成長していた。


 これには雨宮氏も目を輝かせる。

 失礼しました。訂正します。


 目を見開いて驚く。


「あらららー! ちょっと想定外だねー!!」

「あれ? あれれ? 私、なんだか少し大きくなりましたか? 雨宮様?」


「いやいやー。大変たわわに実っちゃってねー。ごめんねー。煌気オーラ感知するねー。んー。なるほど、なるほどー。あばあ様。あなたが煌気オーラに干渉する異能の機能不全に陥られたのって今から何年くらい前です?」

「そうですなぁ。7年ほどになるでしょうか」


「質問続けちゃってごめんなさいねー。アナスタシアさんの煌気オーラ力場が弱くなって、効果が失われたのは?」

「そちらは4年ほど前でしょうか。雨宮様? それとエヴァンジェリンに何か関係が……?」


 雨宮上級監察官の推測はこうである。


 エヴァンジェリンは元から他者の煌気オーラを強化する異能を発現させていた。

 煌気オーラの活性化が伴っていなかったため効果が現れていなかっただけであり、しっかりと日々異能は使われ続けていた。


 活性化前の煌気オーラを過剰に供給し続けた結果、煌気オーラに依存するピュグリバーの王家の血族エヴァンジェリンは肉体の成長と引き換えに効果の乏しい異能を発揮し続けていたのだと。

 それが今回、『橙色が新鮮な橙グングンオレンジ』によって煌気オーラ供給器官が発達、活性化を果たした事により、4年分の肉体的成長が一気に押し寄せて来た。


 氏はそう結論付けた。


 続けて、エヴァンジェリン本人と周囲の者たちに同様の説明をする。


「なんと……! エヴァンジェリンにそのような枷を……!! 許しておくれ、私が不甲斐ないばかりに……!!」

「とんでもありません、おばあ様! 私、全然気にしていませんもの! それに! ふふっ。雨宮様が来てくださいました! きっとこれは運命だったのです!! 私たちをお救いになられる!! ね、雨宮様っ!!」


 エヴァンジェリンが雨宮氏の右腕に抱き着いた。

 だが、問題ない。


 雨宮順平上級監察官のストライクゾーンは二十歳から。

 エヴァンジェリンは18歳。

 何の問題もなく、彼は紳士である。



「あららららららー!! これはもう! あららららー!! 大変だねー!! どうしようかなぁ、おじさん!! あと2年ここで暮らしちゃおうかなぁ!! あらららー!!」


 雨宮さん?



 笑顔のエヴァンジェリンだったが、少しずつ顔色が悪くなっていく。

 色香に酔いながらも雨宮氏はすぐに気付いた。


「これはいけないねー。とりあえずエヴァちゃん、寝室に戻ろうか。なにせ、一気に体が成長しちゃったからさ。まずは体内と体外、両方のケアをしないとだよ。私の再生スキルで色々と気持ちよくしてあげちゃう」

「も、申し訳ありません。重ねてご迷惑を……」


「子供がそんな気遣いや遠慮しなくていいんだよー? 困ったときは大人を頼りなさいな。おじさん、若い子に頼られると嬉しくなっちゃうからさー」

「はいっ! けど、雨宮様? エヴァンジェリンはもう子供ではありません!!」


 上目遣いで再生おじさんを見つめる童顔のおっぱい強者。

 大丈夫。

 雨宮順平は子供相手にどうにかなる男ではない。


「もう私ねー。仕事辞めようかなー!!」


 大変危険な状況であった。

 もはや認めよう。


 雨宮順平のストライクゾーンが広くなったことを。

 彼はローボールヒッターのスキルをゲットした。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その日は結局、夜になるまで『新緑の眩しい緑モリモリグリーン』による治療が続けられた。

 エヴァンジェリンは安心してスースーと寝息を立て始めている。


 近くには侍女が3人控えているのでご安心頂きたい。


「雨宮様。お食事ですが。いかがされますか?」

「ありがとうございますー。けど、忙しいのでねー。手が空いたら頂きますよー」


「いけませんわ。お昼もそうおっしゃったではありませんか。私どもが食べさせて差し上げます。ご無礼と無作法をお許しください」

「あららららー! なんだろう、この異世界!! おじさんにものっすごく優しいんだよねー!!」


 侍女たちは全員が20代前半の女性。

 もはやど真ん中に打ち頃の緩いストレートが次々に投げ込まれている。


 バットを振らないで頂きたい。

 その世界でホームラン打ったら大事です。


 それから夜が明け、エヴァンジェリンが目を覚ます。

 そこには椅子にもたれかかり仮眠をとる雨宮上級監察官の姿があった。


「雨宮様……。本当に、お優しい方ですね……。ふふっ」


 30分ほどで「ふがっ」と声を出した雨宮氏は背伸びをした。

 目の前で少女が起き上がっているのを見て、まずはご挨拶。


「おはよう、エヴァちゃん! 気分はどうかな?」

「はい! とてもいいです! ですが……」


「あらら? どこか具合が悪いところとか、違和感があるところがあるかい?」

「は、はい。その……胸が……。なんだか重くて……」



「私が支えようか!? いや! ダメだ!! 頑張れ、私!! けど、ダメじゃない気もする!! そっちが今、割合8くらい!! ダメな気は……!! 辛うじて1だね!!」


 雨宮さん。数字が合いません。欲望に1ほど食われております。



 食堂に2人で向かい、バーバラと3人で朝食をとる。

 その席で、雨宮氏は見解を述べた。


「あのですね。おばあ様。エヴァちゃんも。隠すことでもないのでお伝えしておきますと。エヴァちゃん、スキル使いの素養がありますよ。しかも結構強い」

「そ、そうなのですか!?」


 エヴァンジェリンが両手を胸の前で合わせて喜ぶ。

 雨宮さんはその様子を見て喜ぶ。様子です。胸は見ていません。


「なんと……! まことですか……!? アナスタシア様以来の……!! ああ、これは天の助け!!」

「もぉ! おばあ様! 助けてくださったのは雨宮様ですよ!!」


「あ、ああ、そうでした。雨宮様……なんとお礼を申したら良いか……!!」

「いえいえ、お気になさらずー。で、どうしましょ? スキル、覚えます? 私も一応仕事があるので、あまり長居はできませんが、基礎くらいなら教えますよ?」


 バーバラの意見を待たずに、エヴァンジェリンが「是非!!」と立ち上がった。

 勢いで椅子が倒れ「あわわ、失礼しました!!」と慌てて頭を下げる。


「うんうん。じゃあ、3日ほどで基礎を覚えようねー。あとは暇を見つけて時々来るからねー。おじさん、意外と仕事デキるのよ! 暇くらい、いつでも作っちゃう!!」

「はい! 嬉しいです!!」


 その日の朝から、雨宮氏久方ぶりのスキル指導が始まった。

 エヴァンジェリンはやる気があり、覚えも悪くないと言う優良生徒であり、3日が経つ頃にはEランク探索員の習得必須スキルを全てマスターするに至ったエヴァンジェリンちゃんである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「行ってしまわれるのですね……。雨宮様……!!」

「あらららー。エヴァちゃん、泣かないの! ここに転移座標作ったし、本部に戻ればいつでも来られるから!」


「はい……! はい……!! 私、雨宮様が来られるのを心待ちにして、修行しておきますね!!」

「可愛い弟子ができちゃったねー!」


「大人になったら、私も雨宮様について行きたいです!! 外の世界を見てみたいです!!」



 緊急事態。逆神大吾パターン発動の危機、ピュグリバーに再来する。

 こいつら揃いも揃ってカリオストロの城ムーブをキメ過ぎである。



「あらららー。まあ、それはおいおい考えようねー」

「もぉ! また子ども扱いですか!!」


 王宮にある現世に通じる転移穴に雨宮順平上級監察官は歩みを進めた。

 なお、数週間後、ピュグリバーの各地に新しいおじさんの像が山ほど建造されたのは言うまでもない事である。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 転移穴を抜けると、そこは海風の心地いい海岸沿いだった。

 ピュグリバーは逆神アナスタシアの故郷。


 彼女はたまにお忍びで帰郷しており「あらあらー。次世代のみんなの邪魔はできないですねー」とひっそり煌気オーラ力場を再構築していた。

 だが、この4年ほどはご無沙汰であり、その間に今回の惨事が起きる。


 うっかりとおっとりを兼ね備えた彼女なので、これはもう諦めるしかない。

 そんなピュグリバーを救った雨宮順平上級監察官が出現した現世は。


「あららー? なーんか、すっごい煌気オーラに満ちてるねー。この辺。これ、アトミルカの本拠地だったヴァルガラどころの騒ぎじゃないよー? どこだろうねー? スマホ、スマホ……」


 しっかりモバイルバッテリーを持参していた雨宮おじさん。

 GPSが指示した場所は広島県にあるとある街。


 おわかりいただけただろうか。

 雨宮順平上級監察官の放浪はもう少しだけ続く。

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