第544話 【逆神家追放編・その8】軍事拠点・ミンスティラリア!! ~もうこの戦力で攻め込んだら良いのに~

 ミンスティラリア魔王城では、逆神家が。


「ごめんねぇー。急に来てしもうてねぇ! ファニちゃんって言うたかいねぇー! ばあちゃん、お菓子持っちょるけぇ食べぇさんや!!」

「すまぬのじゃ! みつ子!! このよく分からぬが、四角いゼリーみたいなお菓子!! 美味しいのじゃ!! 何という名前なのじゃ?」


「あたしゃ知らんねぇ。お父さん、知っちょるかいねぇ?」

「ワシも知りませんのぉ。昔からあるんじゃがの」



 名前が分からないばあちゃん御用達のお菓子で、ロリっ子魔王を手懐けていた。



「六駆。お前のおじじ殿とおばば殿。ファニコラ様よりも若いことをお教えせずに良いのか?」

「いいんじゃないですか? ファニちゃん、僕が初めて転生した時からあんな外見でしたし。今も全然変わってないですし。多分、ずっと幼女のままなんですよ」


 そんなことはない。

 ミンスティラリアの魔族は成長が緩やかであり、同じ背格好の時期が長い。

 あるタイミングで急激に変化すると、再び長らく同じ形態を維持する。


 サイヤ人のライフサイクルと同じである。


 そもそも、この世界は他の異世界と時間の流れが違ったため独自の生態系を築いていたのだが、ある時、謎のエネルギーを大気に混ぜてしまったがために時間の経過が現世と同じになったという過去がある。


「ファニちゃんって、ずーっとあのままなのかなぁ?」

「んー。そうなんじゃない? 少なくとも、僕たちが生きてる間は幼女だよ! ここの人たち、3桁の年齢のお尻1桁を切り取って僕たちの年齢と同じ扱いになるからさ! 今って多分、120いくつでしょ? 僕たちが頑張って70年生きたとしてー。19くらいになるのかな? まあ、多分幼女だよ!!」


 19歳は幼女ではない。


「そっかぁ! おっきいファニちゃん見られなくて残念だよぉー」

「ねー。見たかったよねー。いやぁ、残念!!」


 仕方がなかったとは言え、ミンスティラリアの大気にリコニウムぶち込んだのはこの2人が原因である。

 責任を感じろとは言わないが、少しくらいは何かを思って欲しい。


「多分だけどね。ファニちゃん、200歳になっても幼女だよ!」

「えー! もぉ、六駆くんてばぁ! それはさすがにかわいそうだよぉ!! きっとおっぱいくらい膨らむってばー! あははっ!!」


 責任を感じろ。

 そして莉子さんは笑っていると多分ブーメランが背中に刺さる。


「む? 煌気オーラ反応……! いや、これは。なるほど。六駆と莉子は得難き友人を持ったな」


 バニング・ミンガイルが急速転移してきた煌気オーラに一瞬の警戒を見せるが、すぐに腰を下ろす。

 ミンスティラリアをよく訪れている反応はバニングほどの使い手になれば暗記に近い形で、肉体が記憶している。


 すぐに彼女たちはやって来た。


「にゃはー! 莉子ちゃん! 元気かにゃー?」

「みみみみっ! 六駆師匠! 莉子さんと2人の分の装備持って来たです!!」

「今回はまた、とんでもない面倒に巻き込まれましたわね。ご無事ですの?」


 チーム莉子。全員集結である。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 それから30分。さらに魔王城には来客が増えていた。


「六駆殿! 照り焼き食べますか!! 鳥の照り焼きです!!」

「バッツさんは照り焼き好きですよねぇ! うわぁ! 美味しい!!」


 久しぶりに登場。

 元アトミルカナンバー8。バッツ・ホワン・ロイである。

 得意なスキルは肉体強化と煌気爆発。

 食べ物はとりあえず照り焼きにしてから考える。


「クララ様。私は麻雀のルールこそ知っておりますが、あまり得意ではなく……!」

「それは良いこと聞いたにゃー!! あたしが育ててあげるぞなー!! ささ、座ってにゃー!!」


 どら猫の遊び相手として捕捉されたのは、バニングの弟子。

 元アトミルカナンバー10。ザール・スプリング。


「バニング。どうして帰って来ぬのか。妾はほとんど下着のような部屋着で待っておったというのに。風邪を引いたらどうしてくれる。そなたが温めてくれるのか?」

「……六駆。頼む。私を『生命大転換ライフコンバート』で、お前のようなメンタル強者に作り変えてくれ。最近、本当に心臓が痛いのだ。アリナ様が、隙あらば薄着をされる。頼む。助けてくれ。私はまだ、死ぬわけにはいかん」


 最愛のパートナーに迫る事で、最愛のパートナーの寿命を削る恋愛初心者。

 中身は妙齢。見た目は19歳。アトミルカの元首。アリナ・クロイツェルさん。


 逆神家の親父抜き。

 チーム莉子のフルメンバー。

 元アトミルカの猛者たち。



 多分、これだけでピースが潰せると思われる一大勢力が集結していた。



 とはいえ、今回の敵はただ潰せば良いというだけではない。

 国協をはじめ、多くの機関にその悪手を伸ばしており、それらの問題を解決しないうちに壊滅されるとむしろ倒さない方が良いまである、強い弱いは置いておいても実に面倒な相手。


「バニングさん。アリナさん。異世界で、若返りとか煌気オーラ強化ができるところ、知りません?」

「む。ずいぶんと限定的な質問だな。六駆。お前には既に敵の輪郭が見えているのか? ……アリナ様。お願いですので、自然な形で私の手に小さく柔らかい御手を重ねないで頂けませんか? 動悸が止まりません」


 ちなみに、アリナさんの恋愛の師匠は莉子ちゃんとクララパイセン。

 おわかりいただけただろうか。



 このままだとバニングさんが、遠からぬ将来天に召すだろう。



「じいちゃんに聞いても分かんないんですよ。でも、多分そんな異世界があれば、ピースさんたちは見つかると思うんですよね」

「すみませんの。ワシも周回者リピーターじゃったのに、孫の役に立てませんでしたじゃ」


 ちなみに、現在謁見の間では「第1回・ミンスティラリア主催! この一手に全てを賭けろ! チキチキ麻雀リーグ!!」が開催されており、2卓同時でみんなが打っているため、作戦会議に加わっているメンバーが限定されております。


「おじじ殿が謝られる筋でもありますまい。ザール。……いなかったか。では、バッツ。知っているか? 2番時代はあまり積極的に異世界へは出向いていなかったからな、私は」

「私も詳しくはありません。すみません。照り焼きの美味しい異世界ならば知っているのですが。バオバオボランデなど、バオルスパイダーの足を照り焼きにしておりまして。絶品です」



 莉子蜘蛛さん、ここでも存在感を発揮する。君ら、可食部があったのか。



「妾は記憶にあるぞ。確か、3番……いや、4番? ……3番か4番。うむ。科学者の男が書いた報告書に記載されていたはずだ。あやつなら知っておるかもしれぬ」


 ちなみにアリナさんの言っているのは、最終階級がナンバー4の方。

 かつては3番だった事もある、ロブ・ヘムリッツ。


 残念ながら、彼は既にその異世界でハーパー部隊と言う、地獄の中でも最もホットな地獄に所属しているため、連絡もうは取れない。永遠に。


「なるほど。まだその書類ってありますかね?」

「六駆。気を持たせるのもお前に悪いからハッキリと言うが、ヴァルガラに行っても無駄だと思うぞ。あの地は探索員に明け渡した。ハナミズキの館の結界も解除した上で。さすがに、そのトップが現在の敵対組織に通じているのならば、わずかでも道しるべになるような痕跡は残しておらんだろう」


「そうですよねー。んー。ミンスティラリアでもダメですかー。これは、やっぱり適当にあちらさんの刺客を捕虜にして、聴き出すのが手っ取り早そうですねぇ。……ハーパーさん。また来ないかな?」


 安心して欲しい。割とすぐにまた来ます。


 なお、ハーパー氏の名前を出した途端に莉子ちゃんが「ガルルルル」と唸り始めたため、六駆くんはその話題を終えた。


「六駆くん、六駆くん! 卓が空いたぞなー!! 次はあたしと六駆くんとバニングさんとアリナさんのカードだにゃー!!」

「おっ! やりますか!! まあ、答えの出ない議論を続けるのも詮無きものですからね!! よし!! 僕の必殺、七対子三面待ちをご覧に入れますよ!!」


 疎開中の逆神家と集った最強戦力たち。

 だが、現状取り得る手段は見当たらず。


 彼らはひとまず数日にわたるリーグ戦を消化する事を今後の指針と定めた。

 ちなみに、莉子ちゃんは鳴きまくって「白のみ!」とか「タンヤオ!!」とか言って場を荒らすため、大会コミッショナーのクララパイセンから出場権をはく奪されました。


 ここは特命を帯びている彼らに情報収集は任せるとしよう。

 現場の様子はどうだろうか。

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