第507話 【戦いの後その2】実は色々考えて来た監察官の知恵者、南雲修一 ~今こそ、協会本部の本気を見せよう!!~

 チーム莉子、久しぶりに全員集合。

 六駆が腹痛で離脱してから実に7時間。


 この世界の7時間は半月以上の長さすらあると言っても過言ではないのだが、その話はヤメておこう。


「にゃっははー! やっぱりおばあちゃんのお好み焼きはウマウマですぞなー!!」

「クララちゃんはええ食べっぷりやねぇ! そりゃあスタイルも良うなるわ!! ばあちゃんも嬉しいけぇ、もっと食べぇさん!!」


「おおー! おかわりまで!! もうおばあちゃんの孫になっちゃいたいにゃー!!」


 莉子さんのセンサーに触れるどら猫さん。


「クララ先輩……? それって、もしかして六駆くんと……?」

「……パイセンはやってしまったにゃー。うっかり地雷を踏んづけたぞなー。小鳩さーん! 助けてー!!」


「ええ……。嫌ですわよ。そのくらいご自分でどうにかさないませ」


 今度はどら猫パイセンの目が光った。


「莉子ちゃん、莉子ちゃん!! こんなところにメジャーがあるぞなー!! これで小鳩さんのおっぱいサイズを把握するのはどうですかにゃー?」

「わぁ! クララ先輩、さすがです! 準備がいいんですからぁ!! 小鳩さん! 身体測定させて下さぁーい!!」



「クララさん……。秒でわたくしを売りましたわね……」

「みみみっ。芽衣はお好み焼きを静かに食べておくです! それが最適解です!!」



 莉子さんによるおっぱい研究が始まったチーム莉子。

 そんな様子を「あんなにはしゃいで。やっぱり女の子同士だと楽しそうだなぁ!」と目を細める六駆くん。


 君んとこの嫁がご乱心なんだから、せめて止める仕草くらい見せたらどうなのか。


「おお、修一! 来ちょったんか!!」

「久坂さん。今回もお疲れさまでした。すみません、敵の本拠地決戦の指揮官をお任せしてしまって。本来ならば私の仕事だったのですが」


「いやいや、構わんで。それに、ワシもたいして役にゃ立っちょらんしのぉ!」

「とんでもありません。もう既に国協の理事とコンタクトを取ってくださったと聞きましたよ」


「ほぉ! 耳が早いのぉ! さては山根のの仕業か? あやつ、監察官の通信も迷わず傍受するからのぉ。とりあえずじゃが、ワシの古い知り合いのオンドレ理事は協力してくれるらしいで!」

「本当ですか! それは心強い!!」


「まあ、代わりに理事の子飼い探索員の臨時講師を2か月もさせられることになったがのぉ。安い取引じゃったわい! ひょっひょっひょ!」


 久坂剣友監察官、国協の理事を1人ゲットする。


「あららー! 久坂さんに先を越されちゃったー!! おじさんも頑張ったのにさー!!」

「雨宮さん。もうお体はよろしいんですか?」


「心配ありがとねー、南雲くん。アナスタシアさんのおかげで、前より元気になっちゃったよー! いやー、逆神家の人たちは本当にすごいねー!!」

「雨宮の。さてはお主もええ結果を出して来たんじゃな?」


 雨宮は親指をグッと立てて、歯を見せる。


「オボンマン理事も期限付きで私たち、日本探索員協会を支援してくれるってさ! 打算的な人だから、1年経ったら全部ヤメるって言ってたけどねー。まあ、ないよりはマシでしょ!」

「オボンマン理事と言えば、相当に偏屈な性格をされていると噂のなのに……! どんな手を使ったんですか?」


 親指を立てたままの雨宮は、功労者を呼んだ。


「なんでしょうか。雨宮さん」

「こちらのおっぱい男爵がですね。世界7か国をはしごするおっぱい弾丸ツアーを企画してくれまして! おっぱい星人のオボンマン理事もノリノリでしたよ! いやー! 私も同行しないといけないからなぁー!! あー!! もう、面倒だなぁ!! うふふふっ!!」


 雨宮順平上級監察官。

 川端一真監察官を実に有効な形で活かし、国協の理事を1人ゲット。


 本部で依然奮闘中の五楼京華上級監察官が仮にオリビア理事を味方につけられたとすれば、これで3人が日本探索員協会への協力を表明したことになる。


 9人いる国協の理事。

 過半数には届かないものの、3人が異論を唱える以上はかなりの時間、少なくとも半年程度は手出しをして来ない時間が確保できる。


「よし。いいぞ! これだけの条件が揃えば……!!」

「あらー? 南雲くんも何か秘策ありって感じだねー?」

「修一は昔から頭がええからのぉ! 年寄りとしちゃあ、頼もしい限りじゃわい!!」


 南雲は六駆を呼んだ。

 割と重要な説明をするためである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 六駆はお好み焼きを食べながらやって来た。

 本当に、何枚食べれば気が済むのか。


 さすが中身はおっさんでも胃袋は17歳。

 ちなみに再来月で18歳になる。おめでとう。


「逆神くん。君にはDランク探索員を辞職してもらう」

「あ、はい! どうせ辞めるつもりなんで!!」


「うん。待ってくれる? これから私さ、一生懸命考えて来たね? とっておきの作戦を披露するの。そんなさ、爽やかな顔で、辞表出す手間が省けますよ!! みたいなこと言われると、すっごく話がしづらいの」

「でも、南雲さん。僕が辞めるしか丸く収まる方法ってなくないですか?」


 南雲は「いや」と言って、首を横に振る。

 すると、雨宮が肩を叩いて「こうですよ」と言ったのち、南雲の親指を立てさせた。



 南雲修一。ダサいおっさんのポーズ仲間に加えられる。



「……ええと。逆神くんにはDランク探索員を辞職したのち、私の監察官室の特務探索員として日本探索員協会に所属し直してもらう。内密にね。特務探索員と言うのは、監察官の権限で探索員の資格を持たない者を例外的にAランク待遇で雇える方法で。……あれ、逆神くん?」



「すみません! 何を言っているのかさっぱり分かりません!! もう戻って良いですか!?」

「小坂くぅぅぅん!! ちょっと来てくれるー!? 君の旦那の将来の話してるのにね! 旦那さんに全然内容が伝わってないのよ!!」



 莉子さん、「旦那」と言うキーワードを聞くなり『瞬動しゅんどう三重トリプル』で駆け付ける。

 いつの間に『三重トリプル』クラスのスキルを習得したか。


「プーケットの新婚旅行のお話ですかぁ!?」

「……違うよ? 小坂くん、ちょっと会わないうちに。……いや、何でもない」


 久坂が助け船を出す。


「うちの監察官室で四郎さんを特別顧問としてお迎えしちょるじゃろ? 要は、その親戚みたいなシステムじゃ。つまりの、一回六駆のの存在を日本探索員協会から消してのぉ。そのあと、こっそり再雇用しちゃろうって言う裏技じゃ」

「へぇー。そんな事が出来るんですかー」


「逆神くん? なんかリアクション薄くない?」

「だってですよ。僕ね、気付いたんです。バニングさんとアリナさんは移住して、3番さんは出頭したじゃないですか? ……僕のゲットする予定だった懸賞金が全部なくなってるんですよね。はぁ。こんなのモチベーション上がりませんよ……」


 南雲修一。切り札を取り出す時。


 彼は、五楼から「何をしてでも逆神と小坂を引き留めろ」と言われていた。

 六駆に効果的なものは何か。


 考えるまでもない。


「逆神くん。特務探索員として、君に支払う報酬についてなんだけどね」

「あー。はいはい」



「1年で2000万円をベースに考えている。ぶっちゃけ、私の年俸より高いぞ!!」

「南雲さん!! 僕、まだ探索員としてやり残したことがあったみたいです!! これからもお世話になります!!」



 アトミルカの懸賞金をほぼ取り逃がした六駆くん。

 ここぞとばかりに繰り出した、お金と言う名のフィニッシュブロー。


 南雲修一の知恵者として講じた策が見事にハマった瞬間だった。


 が、莉子さんは首を可愛く傾げて上官に聞いた。


「あのぉー? 六駆くんの肩書が変わるって事はですよ? チーム莉子はどうなるんですかぁ?」

「ああ、うん。逆神くんには抜けてもらうしかないかな」



「……わたし、やっぱり探索員辞めます」

「……モルスァ」



 現金と言う逆神六駆対策フィニッシュブローは用意していたものの、対恋愛脳決戦兵器は持って来なかった南雲監察官。

 果たして旦那よりも1000倍面倒な嫁を攻略できるのか。


 多分無理である。

 それでも頑張れ、南雲修一監察官。

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