第416話 深夜の会議 ~まだ稼げそうなので隠居はしない逆神六駆~

 監獄ダンジョン・カルケルから引き揚げて来た探索員および監察官は、各々の監察官室に戻り惰眠を貪り尽くす事に精を出した。

 実に長い1日を戦い抜いた彼らには、3日くらい寝続ける権利があるかと思われる。


 だが、深夜になっても仕事をしている者たちもいた。


「と言う訳でして。逆神くんがいてくれたおかげで被害は最小限に抑えられましたが、結果としてこちらが捕縛できたアトミルカの主要な構成員は5番だけ。カルケルは復旧までに半年はかかると言う計算が出ています」


「なるほど。つまり、ギリギリ引き分け、痛み分けのように見えるが。その実はアトミルカ側に得るものが大きかったと言う事か。これは、国際探索員協会の老人どもがまた煩くなるぞ。考えただけでも気が滅入る。すまんがナグモ。コーヒーをくれるか」


 南雲修一監察官と五楼京華上級監察官は、2人とも疲れているだろうに今後の方策について話し合っていた。

 なお、古龍の戦士を2度も見たせいで五楼は意識せずに「ナグモ」と呼んでいる。



 南雲は気付いているが、心で泣いて顔では笑っていた。



「南雲さん! 逆神くん連れて来たっすよ! ほらほら、若者に夜更かしさせてるんだから、クソみたいなコーヒー出してあげてくださいっす!」

「ああ。逆神くん、すまないな。監獄生活から1日を通しての大活躍。さぞかし疲れているだろう。さあ、コーヒーを淹れた。飲んでくれ。……ねえ、山根くんさ。また私のコーヒーをクソみたいって言った?」


 山根健斗オペレーターが、逆神六駆アドバイザーを連れて会議室へとやって来た。

 もはや協会のかじ取りに六駆の存在は欠かせない。

 下手をすると、将来的に空席の監察官の椅子に座る未来があるかもしれない。


「僕なら平気ですよ! 疲れが溜まっている時って、逆に寝付けないので!」

「ああ、それ分かるなぁ。若い頃はベッドに入ったらすぐに爆睡できてたのにね。おじさんになると、むしろ目が冴えるんだよね。あれって何なんだろう」


 おっさんトークに花が咲きそうになったので、五楼が除草剤を撒く。


「その話は後日だ。逆神。貴様を呼んだ理由は分かるな?」

「はい! もちろんですよ!!」



「……金の話じゃないぞ?」

「えっ!?」



 六駆の手から、南雲のクソみたいなコーヒーの入った紙コップが転げ落ちた。

 「僕、戻って寝ても良いですか?」と、彼は露骨に態度を変える。


「この痴れ者が。分かった。話の最後に金についての時間を設ける。それでいいな?」

「う、うひょー! 南雲さん、コーヒーください!!」


「君、たった今さ、私の白衣にぶちまけたのがね。私の淹れたコーヒーだよ? ……まあ、熱いヤツを淹れ直すけどさ」

「あ、南雲さん! 自分にもくださいっす!!」


 4人はとりあえず、静かにコーヒーを啜った。

 その味は疲れた心に優しく、ほのかな甘みがささくれたハートを修復したと言う。


「逆神。貴様に聴きたい事は他でもない。……アトミルカの本拠地についてだ。貴様の事だ。2番との戦闘で、『基点マーキング』を付けたのではないか?」

「うわぁ、五楼さんさすがだなぁ! そうなんですよ、お金の種になるかと思って!」


「動機は最悪だが、やっている事はファインプレー以外の何物でもないのが腹立たしい。それで、場所は特定できそうか?」

「それがですねー。2番さんはやっぱり強いし賢いですね。転移の最中に削ぎ落されちゃったみたいで、インド洋の辺りを僕の煌気オーラが漂っています」


 協会本部襲撃事件の際は、相手が下柳則夫だったため上手くいったこの策。

 さすがにバニング・ミンガイルに同じ手は通用しなかった。


「困りましたね。八方ふさがりですか。ですが、手をこまねいていると再びあちらから攻め込んでくるかもしれませんし。日本が襲われるのならばまだ良いですが、他国の探索員協会が襲われたら、確実に我々の責任を追及されますよ」


 カルケルの被害がこの程度で済んだのは日本探索員協会が防衛任務を担当したからだと言う事は、国際探索員協会も分かっている。

 だが、何かが起きればその責任の所在を明らかにしなければならないのが、悲しいかなこの世の社会システム。


「ちょっと良いですか?」

「どうしたんだね、逆神くん。良いけども」



「ふぅぅぅぅんっ! 『ゲート』!!!」

「おおおい! 会議室の天井がぁぁぁぁ!! ちょっと良いかって言ったじゃん、君ぃ!! 会議室に『ゲート』出すのは、ちょっとじゃないよ!? 具体的に言ってよ!!」



 天井を突き破った門から出て来たのは、正義のサイボーグ。


「グランドマスター。お呼びでしょうか」

「ごめんね、01番さん! さっき僕に見せてくれたデータを出してくれる?」


「了解しました。モニターに出力します」

「おい。なんだ、これは」


 そこには、世界各地にあるダンジョンが4つピックアップされていた。

 これこそが六駆の求めていたお金の種である。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 六駆は端的に説明をした。


 01番の中には、アトミルカのデータが残っていたのだ。

 それをシミリートが復元した結果、割と重要な機密事項である事が判明した。


「多分ですけど、この中のどれかがアトミルカさんの本拠地だと思うんですよね。ダンジョンの先にある異世界。あっちは01番さんが壊れたと思っているし、改修した姿は見たでしょうけど、データまで復元できるとは思ってないでしょう」


 五楼が「やれやれ。貴様は本当に味方としては心強いな」とため息を吐いて続けた。


「つまり、この4つのダンジョンを攻略し、拠点を攻めろと言うのだな」

「ですね! どれも何かしらの基地とかがあるんじゃないですか? だから、同時に攻めるのがベターだと思います! そうなれば、アトミルカさんも各所に人員を割かざるを得ませんし!」


 五楼は少し黙ってから、南雲に命令を出す。


「ナグモ。私は一応、国際探索員協会にこのデータを提示してくる。老人たちにも筋を通しておかねば、後が面倒だ。貴様は」

「分かっています! すぐに作戦立案に移ります! この4か所の同時侵攻で、アトミルカとの戦いも終わりにしましょう!!」


 いよいよ、アトミルカとの因縁もクライマックスへ。

 相手の家に土足で上がり込んで、ボコボコにして再起不能に追い込むのだ。


「山根くん。明日の朝一番で日引くんと福田くんを招集するから、このデータを元にダンジョンの情報を洗い出してくれ。見たところ、まだ発見されていないダンジョンが多そうだ」

「うーっす。ところで、南雲さん。打ち上げは?」


「うん? 何の話?」

「いや、打ち上げっすよ。作戦終了の。さっき逆神くんとも話してたんすけどね。一仕事終えた後に打ち上げもしてくれないところでは働きたくないなって!」


「いや、しかしだね。事は急を要するんだよ!?」


 六駆と山根がアイコンタクトで以心伝心。

 まず六駆が動いた。


「01番さん! 僕が焼肉を食べて満足するまで、全情報を凍結!!」

「イエス。了解しました。グランドマスター」


「南雲さん。自分は焼肉が食べられないのならば、労働組合を作ってストライキに打って出る構えっすよ!」

「君たち、本当にタッグを組むとろくな事がないな!! ……分かった! 分かったよ!! 五楼さん、よろしいですか?」


「ああ。致し方あるまい。何より、命を賭して戦った者たちを労うのも我々、上に立つ者の仕事だ。費用は私が出すから、精々好きなだけ食わせてやれ」

「うひょー! あ、あと! 報酬の確認させてください! 今すぐに!!」


 逆神六駆は当初の約束の1500万に久坂と木原からの追加報酬を加え、下柳爆弾を未然に防いだボーナス、さらに重要情報の提供も功績と見なされ、無事報酬をゲットした。

 その額、2150万円。


 だが、彼はまだ隠居する気はないらしい。


 逆神六駆の「何不自由ない隠居生活」のための戦いは続く。

 なお、本章は締めるみたいな空気になっているが、明日は焼肉なのである。


 もうちっとだけ続くんじゃ。

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