第385話 アトミルカの秘密兵器【転移白石】 ~ラスボスがいきなり現場に来るパターン~

 アトミルカの本隊は、カルケルのある孤島の東、20キロの地点に到達していた。

 3番の建造した人工島を海上に展開し、そこを本陣にしている。


 ストウェアと違い、この人工島はただの海に浮いているだけ。

 ならば、適当な2桁ナンバーの構成員が3人ほど集まり放出する煌気オーラで充分維持ができる。


 そこに撤退して来た10番と、同じく中央制御室の奪取に失敗した5番が転移して来る。


「申し訳ございません! 2番様!! せっかくのご信任を裏切る形となってしまい……!!」

「何を謝る。お前が言った通りだ、10番。私はお前を信任した。つまり、計画の失敗の責は私にある。それともお前は、この私の責を追求するか?」


「い、いえ! 申し訳ございません!! あっ!」

「ふっふっふ。これは意地の悪い言い様だったな。許せ、ザールよ。そもそも、探索員どもの注意を引き付ける役割はしっかりと果たしている。及第点だ」


 もう一度「ははっ!」と頭を下げた10番。

 彼に代わり、5番も2番の前に歩み出る。


「私は言い訳のしようもない。たかが監察官1人にてこずり、結果として重要拠点の制圧に失敗した。2番様。どのような罰も謹んでお受けしよう」

「なに。お前は潜入任務からこっち、長らく働いている。満足な用意もないまま次々と任務を与えた私にも反省点はある。一度の失策は一度の成功で取り返せ。しばし休息を取り、煌気が補充されたら再び前線へ赴いてもらう」


「これは……。寛大な処置に感謝します」


 2番は数秒目を閉じ、現状の戦力図を頭の中に描いた。

 探索員協会の奮戦によって少しばかり計画にズレはあるものの、修正するほどではないと彼は判断して、次のフェーズへと進めることにした。


「3番。準備はできたか?」

「もちろんです。私の最高傑作と呼んでも良い、素晴らしい仕上がりですよ! 777番くん。持ってきなさい」


 777番の手には、白い塊があった。

 これこそが、今回の作戦におけるアトミルカの決戦兵器。


 【転移白石ホワイトストーン】である。


「実践テストが長引いてしまったせいで、装備の名前が仮称のままなのが残念です。探索員どものイドクロア加工物を参考にしたと言うだけでも屈辱なのですが」

「名前などはどうでも良い。座標煌気オーラは固定できたか?」


「そこは抜かりなく。座標のカルケル司令官ズキッチョ・ズッケローニは予定通り、第11層で半死半生の身。5番くん。煌気オーラのサンプルをありがとう」

「貴様に礼を言われる筋合いはない。2番様のご命令に従ったまでだ」


 3番の発明能力はアトミルカの全構成員が認めるところだが、非人道性の強いものも多く、その点で彼を軽蔑する者は多い。

 5番もそのうちの1人。


 だが、生粋の研究者である3番は他者の評価など気にしない。


「いつでも転移可能です。ただし、同時に転移できる者は事前にご報告した通り、3名が限界でした。数も3つしかありませんので、使いどころは2番様のご随意に」

「結構。では、10番と3番。そして私が転移する。目標は当然だが、カルケル第11層。異界の門だ」


 【転移白石ホワイトストーン】は、位置座標を固定して転移する探索員協会のイドクロア加工物【稀有転移黒石ブラックストーン】を参考にして研究が進められ、このほど完成したアトミルカの秘密兵器。

 オリジナルとの違いは、「位置座標ではなく、特定の人物煌気オーラを座標として定める事が出来る」点であり、その結果、煌気オーラのサンプルさえあればそれを目印にして空間転移する事が可能。


 あとは2番のセリフをお聞きになった通りである。

 ぶっちゃけた表現をすると、準備が面倒で人数制限のある『ゲート』に近い。


 いきなり目的地へアトミルカのナンバー2と3が転移できる。

 これは、どの側面から見ても驚異的なアドバンテージであり、アトミルカ側が揺るぎない自信をもってこの作戦に臨んでいた根拠でもあった。


「では、3番。【転移白石ホワイトストーン】を発現させよ」

「はっ! かしこまりました! 留守は任せましたよ、777番くん」


 海上拠点から飛び立つのは、アトミルカの出し惜しみなし、全力の悪意であった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その頃、逆神六駆は。


「あった! やっと見つけましたよ! 山根さん!! これで次は13層ですか!?」

『お疲れっすよ、逆神くん! ちなみに4回ほどその入口を通過したっす。ついでに、次は最下層の第11層っすけど。まあ、着いちゃえば何でもいいっす!!』


 祖父の大活躍を知らないまま、主人公なのに随分と出番を失っていた彼。

 だが、ようやく監獄ダンジョン・カルケルの最下層へと到達しようとしていた。


 長い旅路であった。


 道に迷う事、約100回。

 癇癪を起してダンジョンの床を破壊しようとした回数は7回。


 それらに耐え抜き、六駆はついに迷宮を走破したのである。


 彼が道中で何度も考えた事は、仲間のありがたみだった。

 特に、莉子の存在の大きさを再確認していた。


 道に迷えば行き先を照らしてくれる。

 ダンジョンの中での知識は歩くリコペディア。

 さらに、割と簡単に挫ける心を、その度に嫌な顔一つせず鼓舞してくれる。


 この作戦が始まる前は「僕抜きのチーム莉子がいよいよ始動するぞ」と考えていた六駆だったが、今では「やっぱりチーム莉子って最高だよ。すぐに戻りたい!!」と考えを改めていた。


 隠居するまでは絶対に手放さないと決意も新たにしている。


「よし! ついに辿り着いたぞ!! ドル箱階層!! うわっ! ちょっと山根さん! なんか防御壁が構築されてますけど!?」

『ホントっすねー。誰かが囚人を上の階層に逃がさないように頑張ったみたいっすね』


「ふぅぅぅんっ!! 『豪拳ごうけん二重ダブル』!!」



 誰かの頑張りを数秒すら迷わずに破壊する男、逆神六駆。



「……おいおい。俺の『結晶防壁群シルヴィスシールド』破壊してくれてんのはどこのどいつだぁ?」

「マジかよ! あっくん頑張ったのにな!! 最低だな! 野郎、オレがぶっ飛ばしてやる!!」


 第11層では、大吾と阿久津のコンビが奮戦中であった。

 もうほとんどの囚人を倒しており、残す敵はアトミルカの構成員が数人と言ったところ。


 その残党が六駆に駆け寄る。


「お、おお! お前、囚人だな? さては上からの救援か!? 困っていたところなんだ!! アトミルカに協力するなら、1万ドルの報酬をくれてやる!!」

「えっ!? 本当ですか!? すぐに振り込んで下さい! 御滝銀行の預金口座にお願いします!!」


「バカを言うな! まずは我らを守れ!! この愚か者が!!」

「せっかく騙してお金が貰えると思ったのに!! あなた、僕の心を弄んだなぁ!?」



「ふぅぅぅんっ!! 『花火拳連打スターマインラッシュ』!!」

 ここまで理不尽な被害妄想ができるのは、逆神六駆を置いて他にはいない。



 ナンバーさえ判明していないアトミルカ構成員をぶっ飛ばした六駆。

 そのまま第11層に駆けこんだ。


「くははっ! てめぇかよ、逆神ぃ! 久しいなぁ、おい!」

「ああっ! あなたは! キラキラして綺麗な人!! お久しぶりです!!」


「阿久津だ。阿久津浄汰。お前、全然変わってねぇなぁ? にしても、逆神ぃ! お前にも親を心配する心があるとは、意外だったぜぇ?」

「阿久津さん。何言ってるんですか? 頭がおかしくなりましたか?」



「お、おう。お前、そんな心の底からキョトンとされると、親父がさすがに気の毒になるぜ?」

「あ! 本当だ! 汚い生き物がいると思ったら、親父じゃないか!!」



 一応同じ家で生活しているはずの大吾よりも先に、一度しか会っていない阿久津を認識した六駆。

 大吾は当然抗議の声を上げるが、それはカットされる。


 アトミルカの10番、3番。そして2番がこの階層に転移して来たからである。


 果たして、大吾の次のセリフは悲鳴か。

 それとも断末魔か。

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