第383話 それぞれの役割と怒りの加賀美政宗

 探索員協会のカルケル防衛部隊が監獄ダンジョンに到着した。

 時をほぼ同じくして、アトミルカの本隊の一部もカルケルの上空に飛来していた。


 彼らは3番の作ったアトミルカ装備『噴射玉ホバー』を身に着けており、煌気オーラを器用に吐き出させて自在に空を飛ぶ術を確立させていた。

 諸君には、木原久光監察官の『ダイナマイトジェット』の大人しい版と言えば伝わるだろうか。


「総員! 第二射の用意!! 『刺突玉スパイク』を展開させろ!!」


 先陣を務めるのは10番。

 名はザール・スプリング。


 2番バニング・ミンガイルによって才能を見出された、今アトミルカで最も勢いのある若手の1人である。


「四郎さん! 山嵐くんの傷は深いですか!?」

「落ち着いてくださいじゃ、加賀美さん。いや、これは失礼。部下がやられて落ち着いていられる人間にはなりたくないですの。安心して下され。ワシの作ったこれがお役に立てますじゃ」


 アトミルカに3番がいるのなら、探索員協会には南雲修一がいる。

 そして、野良のイドクロア技師である、逆神四郎はここにいた。


「久坂さんや。これは投与した者の煌気オーラを活性化させて、自然治癒力を高めるものなんですじゃ。使用しても良いですかの? 副作用として、後日に反動が来ますじゃ」


 久坂は即答した。


「やってくださって構わんですけぇ! 山嵐の小僧も、何もせんで退場するよりゃあ、リベンジの機会を与えちゃった方が良かろう! まあ、後払いの苦痛は気の毒じゃけどのぉ。死ぬよりはええじゃろ」


 老兵たちは判断が速い。

 くぐり抜けて来た修羅場の数だけ彼らは知恵を授かる。


 それを若者たちに還元していくと言う、世の中の規範にしたいじいさんたちである。


「では! 『白い粉の回復ハッピーターン』!!」


 四郎が山嵐の腕に注入型のイドクロア装備をぶっ刺した。

 名前からそこはかとないギリギリ感を覚えるのは何故か。


「これで良いですじゃ。15分もすれば回復しますぞい」

「こりゃあ早速お手間を取らせてすまんかったのぉ、四郎さん! 加賀美の小僧! 聞いた通りじゃけぇ! この場はお主に任せるで?」


 加賀美は黒いイドクロア竹刀・ホトトギスを一振りして、答えた。


「お任せください。自分の不注意で、隊員を危険に晒してしまいました。その責任を取る機会を与えてくださり、感謝します!!」


 普段は穏やかな青年である、加賀美政宗。

 だが、何をしても怒らない人間などいない。


「ほいじゃあ、チーム莉子はワシについて来てくれぇ! 川端の小僧が厄介なのと交戦中じゃ! とりあえず、中央制御室をワシらで確保するけぇの!! 四郎さんはここで小僧どもの支援をお任せするけぇ!! よし、55の! ちぃと加賀美たちのためにけん制しちゃれぇ! あっちが先に不意打ちして来たんじゃけぇ! 遠慮せんでええぞ!!」


 55番は頷いた。


「確かにそうかもしれん!! ぬぉぉぉぉ!! 『のこぎり・ローゼントルナード』!!」


 55番のスキルは日々進化している。

 探索員の生き字引である久坂剣友と寝食を共にし、常時指導を受けているのだから当然と言えばそうなのだが、55番の頑張りがあってこその成果。


「ぐあぁぁぁっ!! 10番様ぁ!!」

「あっああ、うわぁ!! なんだ、このスキルは!?」


 ギザギザの刃を備えた巨大な薔薇の花びらが竜巻となって上空の敵を襲う。

 対空迎撃に優れたスキルのチョイスは、55番の才能の片りんを見せた。


「よっしゃ! ええで! 3割くらい地面に落ちたのぉ! よし、仕舞いじゃ! いつもの嫌がらせしちょけ!!」

「確かにそうかもしれん!! うぉぉぉ! 『ローゼンクロイツ・花満開はなまんかい』!!」


 薔薇の花束が十字を描きながら、大量に飛び交う。

 このスキルは攻撃力も極めて低く、実用性の観点から見ると外れスキルである。


 が、直前に薔薇の花びらによる強力なスキルを受けている事と、花束をクロスさせて撃ち出すと言う意味の分からなさは初見の相手を混乱させる。


「な、なんだぁ、これは!?」

「うごぉ! 叩いたら花びらが舞い散って幻想的です! 10番様ぁ!!」


「何をやっている!! バカどもめ!! そんな攻撃、無視しろ!! スキルの特性も分からないのか!!」

「うわぁぁぁ! 親戚の結婚式を思い出すぅ!!」


 充分な嫌がらせを完遂した55番は久坂に「ようやったぞ!」と背中を叩かれ、照れながら最後尾を走る。

 チーム莉子は川端一真監察官のピンチに間に合うのだろうか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 戦線の維持を任された加賀美隊。

 まだ山嵐助三郎Bランク探索員は回復しておらず、実質3人で約30人の敵を相手にしなければならない。


「あのぉ、加賀美さん。質問なんすけどぉ。このキツツキって竹刀の使い方ってぇ、どこに書いてあんすか?」

「坂本くん。君は仕様書を読んでこなかったのかい?」


「あー。自分、ゲームする時とかぁ、説明書読まないでやるタイプなんでぇ!」

「うん。分かった。君は山嵐くんの様子を見ていてあげてくれ」



 2人で30人を相手する事になった。



「土門さん。一撃、大きな攻撃を頼めるかな? そのあとは、自分が切り込む! 久坂さんたちのおかげで相手の小隊長は分かったからね」

「了解しました! やぁぁぁっ! 攻勢・六式!! 『はがね翡翠カワセミ』!!」


 土門佳純は土属性を得意としており、かつては対抗戦で髪の毛を鋼の蛇に変化させて塚地小鳩と戦った事もある。

 そんな彼女だったが、「正攻法での攻撃も覚えたい」と加賀美に弟子入りし、加賀美式剣道を学び始めたのはキュロドス急襲作戦の始まる前の事であった。


 元から才能のあった土門が積極的に努力をすれば、スキルの習得速度も増すばかり。


 彼女の土属性を活かした『はがね翡翠カワセミ』は、無数の青い宝石のように光る鳥が敵に襲い掛かる、広域攻撃を目的としたスキル。


「ありがとう! 土門さん!! 四郎さん、装備をお借りします!」

「ええ、ええ。是非ご活用くださいませじゃ!」


 【黄箱】から出て来たイドクロア装備『浮雲フリーター』が、空中に煌気オーラの足場を創り出していく。

 空を飛べない加賀美だが、彼ほどの使い手となれば足場さえあれば問題ない。


「あれが探索員どものリーダーか! よし、全隊!! 引き付けてから『刺突玉スパイク』を斉射せよ!!」


 10番の判断は正しかった。

 ただし、相手が怒れる加賀美政宗でなければ、と注釈が付く事を忘れてはならない。


「つぅぅぅりゃあぁぁぁぁ!! 攻勢壱拾四式!! 『みずち』!!」


 加賀美政宗、一気呵成の初手、最大奥義。

 水を逆巻く竜がカルケルの上空を猛りながら昇っていく。


「しまった! 前衛、退け!! ちぃ!! 手遅れか……!!」


「うぎょえぁあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「再就職先間違えたぁぁぁぁぁ!! ちっくしょおぉぉぉぉ!!!」


 加賀美の放った奥義は、実に9割以上の敵を戦闘不能にした。

 その中には、20番台も含まれている。


 どう見ても先発隊を率いて来た10番の大失態である。

 が、ザール・スプリングは意外と冷静であった。


「このような時、2番様ならば一時撤退を選択されるはず……! 14番! 回収可能な兵を率いて、戦線から離脱せよ! これ以上の被害を出しては、2番様の計画に支障をきたす!!」

「了解しました!」


 10番はこの侵攻に備えて、異世界ヴァルガラで常に2番と行動を共にして来た。

 その成果は実る。


 敵ながら見事な引き際だったと逆神四郎は評価した。


「よし! 土門さん! 引き続き自分たちは上空を警戒する! 山嵐くんが戻るまで2人で頑張ろう!!」

「はい!!」


「山嵐さん、マジがんばっす! つか、マジでぇ。山嵐さんいないとオレにも負担がかかるんでぇ!」


 加賀美政宗をもってしてもなお、坂本アツシBランク探索員は芽吹きの気配すら感じさせていなかった。

 育成の雷門監察官室でこの体たらく。


 彼はもうダメかもしれない。

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