第79話 弟子たちの新スキル 日須美ダンジョン第11層
第11層は日須美ダンジョンの序盤を思い出すような迷路の構造になっていた。
攻略するには面倒だが、通路が狭い分、モンスターに囲まれる危険性は低い。
スキルに関するあれこれの説明をこなすにはうってつけだった。
「クララ先輩。すみませんが、見張りと迎撃をお願いします」
「まっかせてー! パイセンとして、後輩たちの壁にあたしはなるのだ!!」
クララは張り切って巨大な鳥型のモンスターと交戦を始めた。
弓スキルと飛行タイプのモンスターの相性が良いのは戦闘の常識。
ダンジョンのいろはを忘れていても戦闘知識ならば脳に刻まれている六駆おじさん、安心してクララに背中を任せる。
「さて。それじゃあ、リングをはずしてみようか!」
「ふぇぇ……。この瞬間が怖いんだよね。痛くないかなぁ?」
「え。リングってはずす時も痛いです? 痛みが快感とは言え、芽衣にも許容と言うものがあるです。ビンタくらいならまだ気持ちいいレベルです」
芽衣ちゃん、自分から妙な道に進むのはヤメてくれないか。
君には真っ直ぐに成長して欲しい。お願いだから。
六駆は「スキル習得に
彼にとって渾身のウィットに富んだジョークは、2人に無視されて虚空を彷徨い、やがて寂しそうに消えていく。
「わたしからいくよっ! たぁぁぁっ!! ……あっ! 痛くなかったぁ!!」
「本当に!? 正直、『
「……六駆くん? 今、わたしは激痛の危機をスレスレで回避したんだね? 一応聞くけど、『
「ああ、それはまだまだ! あれは高等スキルだから! 今はずそうとしても痛いだけだよ! 芽衣ははずれたかな?」
「はずれてしまったです……。これでまた戦いに
芽衣は現在ネガティブを発動中。
そんな時は、莉子お姉さんに任せるに限る。
「芽衣ちゃん、頑張ろー!! おじさんのコネだって言ってた人たちを見返すんだよ!!」
「そ、そうです……! 周囲の評価を覆して、惜しまれつつも探索員を引退するのが芽衣の目的だったです!! 小坂さん、ありがとです!! 元気出たです!!」
六駆はポケットからリングと3連リングを1つずつ取り出した。
先に莉子から3連リングを回収しておくべきだったと気付いたのは、昨夜の事。
リングにスキルを込めるのと同じ要領では、3連リングにスキルを込める事ができない。
四郎の作った台座で作業を行う必要があり、そこまで考えの及ばなかった六駆は、新たに40000円の製作費を投じて2つ目の3連リングを祖父に作らせたのだ。
「まずは芽衣から。とりあえず、芽衣は戦闘に慣れる事を最優先する。で、攻撃スキルも考えたんだけど、芽衣のモチベーションは身を護る事の方が上がるっぽいので、回避スキルにしておいたよ。その名も『
「逆神師匠。ありがとうございますです! やっぱり師匠を選んで正解だったです!!」
「まずは防御を固めてから、攻撃スキルを覚えようね!」
「芽衣は一生回避し続けるだけで満足です!!」
絶妙に噛み合わない師弟の会話。
六駆はスキルの説明に移る。
「『
芽衣はいつになく幸せそうな表情で六駆の説明を聞いていた。
だが、忘れてはならない。
六駆の計画だと、芽衣はチーム莉子の前衛担当。
この笑顔は、やがて曇る予定なのである。
さらにその向こうには真の喜びが待っている事を我々は切に願う。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「六駆くん! 師匠! わたしの新スキルは!? はーやーくー!!」
「はいはい。落ち着いて。とりあえず3連リング渡しとくから、今付けてたヤツは返してね。40000円の浪費はこれっきりにしたい」
六駆は莉子から受け取った3連リングをポケットにしまう。
もう我慢できないと散歩に行く前のワンコ状態な莉子さん。
これはこれで結構可愛いので30分くらい放置しておきたいが、そうもいかない。
「今回も3つ用意したよ。1つ目は『
「わぁ! なんかすごそう!!」
「注意すべき点は、うっかり味方を巻き込まないようにする事かな。例えばクララ先輩がいる辺りに広域展開で使ったら、先輩はこんがり焼けるからね」
「……なんか、嫌な具体例が聞こえてきたにゃー。莉子ちゃん、信じてるよ!?」
「任せて下さい! わたし、頑張ります!!」
六駆は続けて2つ目のスキル、『
これは脚力特化の身体能力向上スキル。
莉子をオールラウンダーとして育成する方針の六駆は、戦場で俊敏な移動方法を与えるべきだと考えた。
戦いに慣れるまではむやみに移動するとむしろ危険であるからして、敢えてこれまで教えてこなかったが、そろそろ頃合いだと判断した師匠。
ちなみに、名前の由来は蛙のジャンプから来ている。
命名は六駆。なるほど、納得のネーミングセンス。
「最後は『
「ほわぁ! すごい! わたし、ついに回復スキルまで覚えられるの!?」
「パーティーに回復役がまるでいないのはまずいからね。莉子は器用だし、使えるかなって。ただ、今回の3種類は前のものよりどれもレベルが高いから、頑張らないとなかなか習得できないよ」
「はいっ! 頑張ります、師匠っ!! えへへー。また強くなれちゃうのかぁ!」
これで、六駆師匠による新スキル進呈の儀は終了。
彼は普段の5倍くらい丁寧な説明をしたため、しばらくはサボる事を決意する。
それは普段と同じじゃないかと思われるかもしれないが、彼のサボり方にも色々と種類があるので、目をつぶってやって欲しい。
「ちょっとー? クララパイセン、そろそろ疲れて来たよー? みんなー? ねーねー。モンスターはどんどん来るし、助太刀して欲しいにゃー? みんなー?」
一方、六駆おじさんのスキル講座の裏で孤軍奮闘していたクララ。
その様子を描かれもしない辺りに、クララの個性が躍動する。
ぼっちスキルはさすがの六駆も作った事がないので、彼女の存在が稀有なオンリーワンなのは間違いなかった。
莉子さん、早いところ助けてあげて。
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