第29話 小坂莉子をレベルアップさせよう 逆神家家族会議

 予定よりも1日早く、逆神家の屋根の修理が終わった。

 まさひろ工務店の皆さんに頭を下げる逆神家三代。

 料金に色を付けるのも忘れない、じいさん1人、おっさん2人。


 やっと塞がった屋根の下で、逆神家の家族会議が始まろうとしていた。

 上空には厚い雲が存在感を放ち始め、台風による風も強くなってきた。

 だいたいの段取りは既に2日前からついていたので、あとは本日の主賓をお出迎えするだけである。


「こんにちはー! 小坂莉子です! 六駆くーん!」


 待つこと2時間。

 莉子が逆神家にやって来た。

 今日の議題は何を隠そう、逆神六駆の愛弟子、小坂莉子について。


 まずは六駆が玄関で彼女を出迎え、客間へと案内する。

 そこで彼は神妙な面持ちで莉子に打ち明けた。


「あのね、莉子。今日はすごく重要な事をいくつか話したいんだけど」

「へっ!? あ、うん! な、なんだろ!? ドキドキしてきたよぉ!」



「とりあえず、ピザの注文の仕方が分からないから、教えてもらえる?」

「ドキドキしたわたしがバカだったよ! 六駆くんはもっとバカ!!」



 何故か莉子が逆神家の代表として、シーフードピザを注文させられた。

 彼女の偉大な功績をたたえて、サイドメニューで焼き立てアップルパイの進呈が逆神家の満場一致で決定される。


 配達のバイクが到着し、出来たてのピザを囲んだ逆神家三代と莉子。

 安心して欲しい。今回はピザを食べるだけでは終わらない。

 建設的な話がこれから行われる予定である。


「さあ! 食べよう! うわぁ! ピザなんて30年ぶりだよ!!」

「オレたちは少ししか食べないから、若い者はどんどんやってくれ!」

「そうじゃ、そうじゃ。なにせワシら、胃もたれするからのぉ!」


 ただし、予定はあくまでも予定なので、このままピザを食べ続けるが続いたとしても、いきどおらないで頂きたい。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「あのぉ? それで、わたしはどうして呼ばれたんでしょうか?」

「莉子、もしかしてピザ嫌いだった?」


「好きだよぉ! でも、急に来いって言われて、ピザの注文させられて、そんなに仲良くもない家族とピザを囲むわたしの気持ちにもなってよぉ!!」


 莉子の言う事はもっともであり、逆神家三代も「なるほど、確かに。自分だったら絶対嫌なシチュエーションだなぁ」と頷いた。


「じゃあ、食べながら本題に入るね。莉子の修行の強化を図ろうと思ってあっつ! あっつい!! ちょ、ごめん、莉子! コーラ取って! コーラ! 舌火傷した!!」

「……はい。どうぞ」


 莉子の不信感が2割増しになった事に、この場の誰一人として気付いてはいない。


「ああ、死ぬかと思ったよ」

「異世界で最強になった人ってピザで死ぬんだね。ふーん。勉強になるなぁ」


「莉子さん? なんか冷たくない? ピザはこんなにも熱いのに! なんつって! あっはっは!!」

「六駆、上手いこと言ったな! ピザも美味いけどな! がっはっは!」

「なんじゃおぬしら! ワシ、年じゃからそんなすぐに思い付かんぞ、上手いこと!」


 少しずつ莉子の家に帰りたい気持ちが上昇中。

 逆神家のノリにアレルギー反応を示す者は少なくないと言う。

 諸君は大丈夫だろうか。


「はい、これ。新しいリング」

「ふぇ!? なんか、3つ輪っかがある! なにこれ! わたしのために作ってくれたの!?」


「うん。じいちゃんがね。製作費はなんと40000円!」

「わぁ! おじいちゃん、ありがとうございます! 嬉しいですぅ!」

「ほっほっほ。莉子ちゃんのその笑顔が見たくてのぉ。ワシ、頑張っちゃった」


 莉子に渡したリングは、四郎の特注品。

 異世界で装飾品作りのノウハウを学んだきり、生かす機会もなく年だけ取った彼だが、その手腕がついに振るわれたのだ。


「これはね、3連トロレイリングって言って、同時に3つの源石をはめ込めるんだよ。当然、使えるスキルも3つに増える。その分煌気オーラの消耗は激しくなるけど、莉子は普通の人よりも煌気オーラの総量が多いから、3つくらいなら平気だよ」


「戦いが厳しくなる前に、色んなスキルを覚えないとな!」

「そうじゃよ。聞くところによると、莉子ちゃんは攻撃スキルしか習得しとらんのじゃろ? それじゃあ心許ないからのぉ」


 お忘れの方も多いかと思うので改めて言っておくが、この3人はいずれも異世界の平定を成し得た英雄たちである。

 大吾と四郎は引退して久しいが、それでも戦闘に関してはAランク探索員にだってまだまだ遅れは取らない。


「とりあえず、莉子が次に覚えるスキルは3つ。遠距離攻撃はクララ先輩がいるから、近接戦用の攻撃スキル。で、敵と近づくから危険も増す。そこで2つ目は防御系スキル。それで、最後はピンチの時に逃げるためのスキル。これらはもうリングにはまっている源石に入れてあるんだ」


「おおー! ありがとー! なんだぁ、六駆くん、本当にしょうもない理由で呼びつけたとばっかり思ってたけど、ちゃんとわたしの事を考えてくれてたんだぁ!」


 莉子の六駆に対する好感度が3割増した。

 彼女は「いつも適当だけど、いざって言う時は頼りになるんだから!」と、心の中で六駆を褒めた。


「それでね、今のリングを貸してくれる? 前回の攻略で『旋風破せんぷうは』覚えて、今は空になっているヤツ」

「あ、はーい。よいしょっ。これはもう使わないの?」


「いや、使うよ! 実はね、僕たち3人で知恵を出し合って、莉子の専用、オリジナルスキルを考案したんだよ!」

「えええ!? ホントに!? すごい、すごいすごーい!! 六駆くんだけじゃなくて、お父さんとおじいちゃんまで!?」


 大吾と四郎は、はしゃぐ女子高生を見て「ふへへ」と気色悪く笑った。

 それすらも軽く流せるほど、莉子の興奮は大きかったのだ。


「そ、それで!? 何のスキルが入るの!? カッコいいヤツかなぁ!」


「莉子は風スキルが得意だけど、そっちばかりに偏るとバランスが悪いからね。火のスキルだよ。炎を集束させて、熱線を作り出すんだ。そのままピンポイントで対象を撃ち抜いても良いし、出力させっぱなしだったら射程の長い炎の剣みたいにして、広範囲の敵を薙ぎ払うこともできる」


「わぁ! わぁぁ!! なんかすごそう!!」


「そう、結構すごいんだよ。ただ、煌気オーラの消費も大きいから、当面はここぞと言う時の必殺技にしようね」

「はーい! えへへへ。なんだかもう強くなった気分だよぉ! それで、必殺技の名前は!?」


 六駆と大吾と四郎は全員で「うむ」と声を合わせた。

 「家族会議で名前を決めたんだよ」と六駆が代表して付言した。

 女子高生っぽい、キャッチーな雰囲気を取り入れてみたとも伝える。


 莉子の期待もどんどん跳ね上がる。

 そして、ついにその名前が発表された。



「莉子のオリジナルスキルの名前はね! 『苺光閃いちごこうせん』!!」

「……え゛っ?」



 聞こえなかったのかなと思った六駆は、繰り返した。


「『苺光閃いちごこうせん』! ほら、女の子ってイチゴとか好きでしょ? あと可愛い感じが良いかなって、3人で話し合ってね! 気に入ってもらえたかな!?」

「あ。うん。あはは。すごく良いと思う。あはは」


 莉子は忘れていた。

 三人寄れば文殊の知恵。

 しかし、集まったのが3人ともおっさん、おっさん、じいさんなら、抽出されるのは濃厚な加齢臭漂うエキスなのである。


 自分の師匠のネーミングセンスが酷い事を、彼女は再認識した。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 明けて翌日。

 チーム莉子は新装備を受け取るべく、ダンジョン前の事務所へと再集結する。

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