第18話 小坂莉子、初めてのスキル習得 御滝ダンジョン第6層

 良質のイドクロアを手に入れた六駆。

 彼のテンションはかつてないほどの高まりを見せており、それは莉子の修行へと注がれていた。


 現在、チーム莉子は第6層。

 ちょうど開けた場所に出たところで、これまたタイミング良くプテラバタフライと言う、巨大な羽をもつ蝶のようなモンスターと遭遇していた。


「はい、そこ! ちゃんと羽だけ狙って! 倒すのなら誰にだってできるよ!」

「ふぇぇ! なんで急にスパルタに! やぁぁぁっ!」


「ダメダメ! そのキモい蝶は反撃してこないけど、相手が攻撃してきてたら今頃は怪我してるよ! はい、もう1匹! 頑張って!!」

「もぉぉ! えぇぇいっ!! このぉぉぉっ!!!」


 莉子の『太刀風たちかぜ』の練度が、実はほぼ習得のレベルまで達しようとしていた。

 これは、六駆の指導、リングによる煌気オーラコントロール補助などの影響はもちろんだが、莉子と風スキルの相性が良かったと言う偶然が起因していた。


 世の中、巡り合わせは時の運。

 けれども、その運をたぐり寄せるのは日頃の行い。

 日々清く正しくあろうとする、莉子の心が彼女自身を成長させていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「おおー! すごっ! 莉子ちゃんの『太刀風たちかぜ』さ、もう完璧に『ウインドキラー』だよ! って言うか、切れ味だけなら勝ってると思う!!」


 クララも莉子の修行の協力を自主的に買って出ていた。

 プテラバタフライ以外の小型モンスターを、彼女の弓スキル『フレイムアロー』で引き受ける。

 彼女の弓捌きもなかなかのものだと六駆は思う。


「はぁ、ふぅー。クララ先輩、ご協力感謝です! どうかな、どうかな、六駆くん! わたし、結構使いこなせるようになってきてない!?」

「うむ。よくぞここまでたどり着いた。お主は既に『太刀風たちかぜ』をマスターしておる」


「ほ、ホントに!? マスターってどーゆうこと!? ちゃんと教えて、師匠!!」

「……僕の老子っぽいキャラを無視しないでほしかったな」


 莉子はそのボヤキも無視した。

 『太刀風たちかぜ』をマスターする前に、おっさんのあしらい方をマスターしていた彼女。

 まだ17歳の女子高生。

 なんとも末恐ろしい才能である。


「ええとね、リング外してみてごらんよ」

「あ。うん。……よいしょ! はい。これがどうかしたの?」


「外れたって事は、リングなしで『太刀風たちかぜ』が撃てるって事だよ。だって、習得してないスキルの源石外そうとしたら、むちゃくちゃ痛いからね!」

「ちょっとぉ! ってことは、今、わたし激痛と紙一重だったってこと!?」


 六駆は「まあまあ」と莉子をなだめて、彼女にスキルを使ってみるように言う。

 彼女もそこは師匠の指示に従う。


「ふぅ……。たぁぁぁっ!!」


 ビュンと吹く風の刃が、しっかりとした形を保ったまま、ダンジョンの壁をえぐった。


「やったぁぁぁ!! すごい、すごいよぉ! 六駆くん、ありがとー!! これでわたしも、使えるスキルが! まだ1つだけど、ちゃんとできたよぉー!!!」

「やー! おめでとう、莉子ちゃん! やったにゃー!!」


「はいぃ! これで探索員クビにならずに済みますぅ! 良かったぁー!」

「あ、でもねー。アームガード外してスキル使うのはヤメた方が良いかもだね」


「ふぇ? どうしてですか?」

「あー。やっぱり知らなかったかぁー。探索員の中でも、独自スキルを作り出したり、異世界で覚えて来たりする人はいるんだけど、そんな人はものすごく少数で、この業界ではSランクって呼ばれてるんだけどね」


「おめでとう、莉子! Sランクじゃないか!」

「え、えへへ。そうなんだぁ。困っちゃうなぁ。えへへへ」


 クララが少し気まずそうに言葉を選ぶ。

 嬉しそうな2人に、なるべく水を差さないようにする先輩としての配慮だった。


「あのー。そのね、Sランクになると、探索員協会の本部で色々と事情聴取されるの。ほら、例えば、異世界で洗脳されて、未知のスキル覚えて帰って来た人がテロとか起こすと大変だから。で、すごい細かな調査をされるんだけど。その、逆神流のスキルって、おおやけにしていいものなのかなぁって」


「ふむ。と言いますと?」


 相変わらず、六駆の察しは悪い。

 クララはオブラートで覆っていた真実を明かすしかなかった。


「逆神流って、異世界周回リピートしながら作った超のつく強力なスキルじゃない? しかも、それを一個人が自由に使える状況を協会本部が放置しておくとはとても思えないって言うかー。ハッキリ言ってもいい?」


 六駆も莉子も聞きたくなかったが、心情は無視して聞くしかなかった。

 クララの口から現実が語られる。


「ほぼ間違いなく、危険因子として監視が付くと思うんだよにゃー。もっと言うと、下手したら軟禁されるかも。だって、六駆くん、1人で協会潰せるでしょ?」


「それはまあ。全力出したら余裕だと思います」


「ほらー! そんな危険人物を絶対に放置しとかないって! その力で助けてもらったあたしが言うのもアレだけどさ、隠しておいた方が良いよ! 絶対!!」


 六駆にとっては想像すらしていなかった事実である。

 だが、話を聞いて道理だなとも思った。

 強大な力を持つあまり、異世界でも国家規模で冷遇されたり、追放された事も経験済みな彼であるからして、それが現世で起こらないなどと断定できようはずもなかった。


 むしろ、そうなるだろうなと言う確かな予感を覚えた。


「なるほど。お話は分かりました。クララ先輩助けといて良かった! 僕の隠居計画が水の泡になるところでしたよ!」

「ふぇー。六駆くぅん、わたしはー? わたし、『太刀風たちかぜ』使えないの?」


「ああ。それは大丈夫なんじゃない? 『ウインドキラー』とか言うスキルにそっくりなんでしょ? だったら、アームガード付けときゃ誰も疑わないよ」

「あ、そっかぁ! 良かったぁ!」


「ただ、莉子はアームガードとの相性が絶望的に悪い事がよく分かったから、アームガード式に戻るなら、相当な時間かけないと次のスキルは習得できないと思う」

「え゛っ!? それは良くない!!」


 そう来るだろうなと思って、六駆は既に次の手を考えていた。


「これから撃つ風スキルの中で、2人が見た事ある感じのヤツがあったら教えてくれる?」


 そう言って、六駆は2人がドン引きする種類の風系スキルを5秒に1度のペースで撃っていく。

 このままではダンジョンが崩れるのではないかとクララが心配になってきた頃合いで、莉子が声を上げた!


「ああっ! ストップ! 今の、見た事ある!! 『ツイストクロー』ってスキル! 『ウインドキラー』が切断なら、『ツイストクロー』は捻じ切る感じだよ!!」


 「なるほど」と頷いた六駆は、源石を握りしめ煌気オーラを込める。


「はい。これで今のスキル、名前は『旋風破せんぷうは』って言うんだけど。リングの内容を書き換えたよ。ごめんね、また逆神家オリジナルスキルなんだ」

「あ、ううん! バレないようにするから、平気!」


 こうして共犯者同盟は次のステージへ。

 六駆にとっては留意するべき事の多い新情報がクララの口から語られたが、その半分以上を忘れる出来事が起きる。


「わっ! ああー! 六駆くん、あれ見て! あれぇ!!」

「新しいスキルではしゃがないでよ、莉子もまだ子供だ……め、め、めぇ!!」



「「メタルゲルだぁー!!!」」



 この日の最終ミッションが決まった。

 なんとしても、メタルゲルの外皮を確保しなければ。

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