つきのうさぎ

つきのうさぎ

教室は心痛むほど明るくて、賑やかだった。

ここにいる子供たちは、自分がどうしてここに居るのかも、まだ何も知らない。

運命という檻に囚われた、あの寓話に出てくる小鳥のように。

不意に、と目が合った。

私の考えていることを全部わかって、だからこそ彼は、今日のをこんな疑問から始めたのだ。


夜空を見上げて、こう思ったことはないかい、と。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「皆は、夜空を見上げて、こう思ったことはないかい?」


「どうして月にうさぎがいるのかって」


「え、なになに?」


「本当は月にうさぎなんていない?」


「はは、君たちはずいぶんと夢の無いことを言うんだね」


「でもさ」


「月のうさぎが居たらって妄想するのも楽しいと思うよ」


「耳の飛び出た宇宙服を着て暮らしてるのかな......とか」


「つきたてのお餅に、ニンジンをトッピングしたりするのかな......とか」


「ほら、面白くなってきたでしょ?」


「よし。じゃあ今日は、自分なりの、つきのうさぎを描いてみることにしようか」



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「やあ、初めまして」


「......おーい、聞いてる?」


「そうそう、画面の前のキミだよ」


「物語が始まる前に、キミだけに教えてあげたい事があるんだ」


「あの子たちには言わなかったけど」


「実は、ってのは実在するんだよ」


「ふふ、驚いた?」


「これはボクたちだけが知ってる真実」


「......ってちょっとちょっと!!」


「そんなに怪訝な顔をしないでよ」


「ま、論より証拠」


「これから君に見てもらうのは、自己犠牲に生きる心優しい......」


のうさぎの物語さ」

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