第26話 たまにはガツンと言うのですよ
「はぁ⋯⋯。オルファスさん、用が無いなら邪魔だから帰ってくれない。こっちは見ての通り少人数でこぢんまりとやっているだけなんだから、放っておいてくんないかなぁ」
深い溜め息と共に、ハルさんはそのでっぷりとしたおじさんに静かに言い放ちました。そもそもあのおじさんは誰なのでしょう? 口ぶりから
「フィリシア、あれ誰?」
「オルファスって言って、
「必死?」
「どこでも一番って謳い文句が使えないでしょう、だから【ハルヲンテイム】が目の上のたんこぶになっているのよ。そうそう、確か調教系のソシエタス(組織)もやっているはず。規模はウチと比べ物にならないくらい大きいんだから、放っておいてくれればいいのに定期的になんやかんやイヤがらせに来るのよ、あのデブ、まん丸おやじ、ちょびひげ野郎⋯⋯」
フィリシアの悪口が止まらないので、私はとりあえず苦笑いだけ返しておきます。
「カラログースさん。あなたはぼったくってまで、ここで一番でいたいのでしょうが、そうはいきませんよ」
まん丸おじさんはまた待合のお客様の方に向き直しました。
「私共は新規の販促活動を始めます。皆様に寄り添った金額とサービスできっとご満足頂けると事でしょう。ぜひ一度【オルファステイム】に足をお運び下さい。こんな金の亡者がやっているお店で正しい待遇を得られるとお考えですか? その点、我が【オルファステイム】では親切丁寧、適正価格をモットーに真心のこもった対応をさせて頂きますので、皆様にはきっとご満足頂けるはずです」
さっきから何でしょう? 心がモヤモヤしてとても不快です。フィリシアの目つきもさらに鋭くなって行きます。
「オルファスさん、いい加減にして下さい。ここには治療を必要とする仔もいるのです。イヤがらせに来ただけなら帰って下さい」
アウロさん!
今一つ表情の冴えないアウロさんが力強く言い切ると、口髭を撫でながらゆっくりとアウロさんの眼前へと迫って行きました。下から覗き込むようにアウロさんを眺めると、口元にいやらしい笑みを浮かべます。私の不快感もまたひとつ上がりました。
「ほう⋯⋯アウロ・バッグス。私に指図するとは、あなたも偉くなったものですなぁ。使い物にならないお前を拾ってやったというのに⋯⋯恩も忘れて泣いて飛び出して行ったのは、どこの誰でしったっけ?」
舐るような視線を向けられ、アウロさんは目を逸らします。
私は⋯⋯私は⋯⋯。
これが怒りというやつですね。尊敬するアウロさんを蔑む言動を繰り返すまん丸を私は睨みつけていました。
「まん丸! アウロさんは凄いのです! 何も分かってないクセに勝手な事ばかり言わないで!」
気が付くと私は今まで出した事の無い大声を出していました。途端に恥ずかしくなって、すごすごとフィリシアの影に隠れて行きます。上目で様子を伺うとみんなが口元に笑顔を浮かべていました。フィリシアと目が合うとこちらに親指を立てて見せます。何だか急激に顔に熱を帯びるのが分かって、やってしまったという後悔が襲って来ました。
「何だ! この半端者のガキは! 全く持って無礼なヤツめ、従業員の教育も出来ておらぬのか!」
「あらぁ~? 半端者ってどういう事かしら?」
ハーフ
半端者。
ハーフを侮蔑する時に使う呼称を口にしたまん丸に、ふたりは揃って怒りを見せました。言われた私自身は、良く分かっていないので何とも思わないのですが、まん丸は嫌いです。
「あんたは、ハーフがお客として来る度に心の中で半端者って罵っているのね。最低」
ハルさんの冷静な言葉。
エルフやドワーフを追い出していた人の言葉とは思えませんね。
あ、でも今はちゃんとやっているので問題は無しですよね。
「そんな事を思っているわけないだろう。お客様はひとえに皆平等だ」
「あらぁ? 平等を謳う人が半端者って口にするのかしら? 心のどこかで思っているから、ついつい口から出ちゃったのでしょう?」
モモさんも淡々と言い放ちます。口元に笑顔を湛えていますが、目はぜんぜん笑っていないです。
「たまたまだ⋯⋯。こ、この小娘はお客様じゃないだろうが!」
「ああ!? お客さんじゃなかったら、言っていいのか? さっきから言っている事がグダグダだな」
ハルさんの語気が強くなっていきます。
【ハルヲンテイム】の常連さんは慣れっこですよね。たまに店長が大暴れするお店ですから。
まん丸は、口元を引きつらせながら鼻を鳴らし帰って行きました。
結局何がしたかったのでしょう? あちらのお店の宣伝になったとはとても思えないのですが? アウロさんの元気が無いのも気になります。
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