第280話私の膝を枕にしてソファーに横たわっている

 まだちり紙の方が価値があるだろう。


「恥とは思っていないから謝らないでくれ。 むしろ俺の方が女性であるターニャに恥をかかせてしまい謝らなければならない。 すまなかった」

「く、クロは悪くありません!! けして!!」

「じゃあお互い悪くない。 それで良いか?」


 そう言うクロの表情はただでさえ射抜かれているターニャの心を更に、そして野太い鏃でもって高出力で放たれた一撃により射抜かれてしまい、一瞬呼吸すら忘れてしまう。


 その瞬間物陰から何人かが倒れる音が聞こえた気がしたのだが気のせいだろう。


「ところでターニャはこれから一緒に行きたい場所はあるのか?」

「な、なな……無いです」


 クロに骨抜きにされた上で更に軟骨まで抜かれた直後のため恥ずかしくてクロの顔が見れ無ず顔を真っ赤にしながらクロを見ない様に返事をする。


 行きたい場所などいっぱい有るのだが衣装選びで時間を潰しデートコースなどを選ぶ時間を選べなかったなど決して言えないし悟られてもいけない。


「そ、そうか……じゃぁ俺が行きたい所でも良いか?」

「は、はい」

「じゃぁ行こうか?」

「ふぇっ!? ………は、はい」


 そう言うとクロは満面の笑みで私の手を取り優しく包み込むとまるでカップルかの様に街の中へ進んで行く。


 そんな二人の姿を一部始終見ていた女性たちが「ほぅ……」とため息をついた後自分のパートナーにキスをせがみ始めるのであった。


 その後のこの広場でデートするカップルはキスで始まりキスで終わるのだがそれはまたのちの話である。





 目の前に広がるは本の山。


 時折聴こえてくる鳥の囀り、窓から入って来る風は心地よい。


「…………」


 そして耳をすませば聴こえて来るクロの息遣い。


 その息遣いは今、私の膝の上から聴こえて来る。


 今居るのは学園屈指の図書館にある個室。 そこに備えられている大きめのソファーでクロと二人読書をしていた。


 過去形なのはクロが途中で眠ってしまい、私の膝を枕にしてソファーに横たわっているのである。


 はっきり言って幸せでいっぱいでこの瞬間がずっと続けば良いと思ってしまう。


 意外とまつ毛が長い……髪もサラサラで良い匂い。


 普段ちゃんと見れないクロの顔をここぞとばかり観察し、撫でられているばかりのクロの頭を子供をあやすように優しく撫でる。

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