第238話目の前に現れた少女

 そして何より一連の流れが終わると彼の周囲を囲うように十本の片刃剣が現れており、そのどれもが禍々しいオーラを放ちそのどれもが最低でも国宝級レベルだと分かる。


「対人戦で十本まで出せたのは久しぶりだな……何度見ても素晴らしい」


 そう言うとクロ・フリートは召喚した十振り、そして手に持つ愛刀と合計11振りの片刃剣を携えゆっくりと歩いて来る。


 クロ・フリートが一歩踏み出す度に自分の足は二歩下がる。最早彼を相手にして勝てる想像すら出来ずただどうやって逃げるかという事を必死に模索するのだが、逃げる事もまた想像出来ない。


 ただただ単純に実力の差を確認するだけで終わってしまうのだが、生き残る事だけを考えれば逃げる事しか道は無い。


 逃げられる可能性はほぼゼロに近いのだが、それしか可能性が無いのならそれに賭けるしかない。


 今は無理でも生きてさえいれば一矢報いる可能性もあるだろう。


 神成者としてのプライドはあるが、相手と自分との差を素直に受け止める事が出来なければ他の者と違い特別な能力などを持っていない自分には大鎌一本ではここまで上り詰める事も出来なかったであろう。


 幸いにもクロ・フリートは自分の強さと召喚した片刃剣の姿に酔っている。逃げるとしたら今をおいてこんなチャンス他にはないだろう。


「お父さん、そろそろお父さんの魔力を補充して下さらないかしら。こないだ頂いた魔力がそろそろ切れそうなんですの」


 そんな中、突如二人の間に子供一人通れるぐらいの門が現れゴシック調のドレスを着た少女がその門をくぐり現れる。


 そして俺はその少女に見覚えがあった。


「ま、まさか……いやしかしそんな事が……」


 逃げるとすればこの瞬間こそが最も逃げられる事が出来た場面だったのかもしれない。

 しかし目の前に現れた少女を前にしてそれどころではなかった。


 その少女は幼き頃のルル・エストワレーゼと瓜二つなのである。


 そのルル・エストワレーゼは年齢も少女と呼べる年齢ではなく年齢も姿も淑女として差し支え無い人物である上に彼女の目は普通のソレとは訳が違い、彼女の様においそれと万人に見える様にするべき物ではなく、また彼女もそれを望まない為普段は両の目を眼帯で覆い隠しているはずである。

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