第184話糞虫の言語は理解しかねます

「はい、分かりました。下の者にも告げておきます」

「頼むよ」


 そしてその光景を見た初老の男性がこの後確定した残業を信頼できるであろう女性職員に告げ慌ただしくギルド奥部へと消えて行くのが見える。



「忙しそう……」

「そうね。でもこれが彼ら彼女らの仕事です。ルシフェルがブラックタイガーを討伐するのが初めてであると知りながらの説明不足。いくらミセル達が居たと言ってもミスはミスです……私達が無駄にした時間を時間で償ってもらいましょう」


 当初からこれが目的であると言っている様なセラの発言にミセルとレイチェルは苦笑いをする。


 この御三方はこと主人であるクロ・フリート絡みになると色々と行き過ぎる傾向が見えるので今後抑えてもらうようにして欲しく思うのだが無理なんだろうな……と思えてしまう。


「なあ姉ちゃん達……どういうイカサマ使ったんだ?」


 そしてカウンター前の席で雑談し始めたセラ達に一部始終見ていたのだろう男性が話しかけてくる。


 この男は自分よりもランクが低い冒険者を捕まえ貪るゴミクズとして有名なのだがその顔は明らかにセラ達の身体と今回の報酬目当てである事が伺える。


「どうやってと言われましても……普通に倒してきたとしか……」

「だからそんな訳ねぇだろっ。どうやったら半日でブラックタイガーを200体も討伐出来るのか教えてくれよ?そしたら冒険者ランクBの俺が仲間になってやっても良いぜ?」


 そう言うと男は心底気持ち悪い笑顔をセラ達に見せる。


「糞虫が何を喚こうが糞虫の言語は理解しかねますね」


 ウィンディーネがそう言った瞬間辺りが静まり返り件の男性からは怒気が渦巻き始める。


「そこの姉ちゃん…今俺の事なんて言った?今ならまだ聞き間違いという事で命だけは取らないでやるよ」

「私達との実力の差も弁えず上から目線で私達の仲間になってやるという戯言を言い、その目線は私達の身体を這わせる………糞虫以外にお似合いの言葉があるのかしらね…糞虫」

「こっ……この糞アマがっ!!黙って聞いてりゃ良い気になりやがってっ!!」


 そしてウィンディーネに糞虫と言われ怒りの感情を抑える事もせずその怒りに任せウィンディーネに襲い掛かろうとするのだがウィンディーネからすれば全てが遅すぎる。


 腰に差している剣を抜く動作、その剣をウィンディーネに向ける動作、そして突き技に当たるスキルを発動しようとする動作、その全てが遅すぎる。

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