第113話この私からお兄ちゃんを奪った泥棒猫

 アーシェの問い掛けに答えるクロの顔にはアーシェの手形が赤くクッキリと付けられており、足を組みながら踏ん反り返りソファーに座っているアーシェの前で正座になっていた。


 妻どころか彼女でもない相手に何故ここまでされなければならないのか?そう思うも決して口にはしない。


 何事も命あっての物種である。死にたくはない。


「まあ、今回は私に報告無しで彼女作ったものだと勘違いしたから怒ったのだけど、私にちゃんと一言言ってくれれば何人彼女作ろうが構わないからそこは勘違いしないでね?お兄ちゃん」

「ああ、分かった。お前の気持ちを知りながら彼女を作る事はしないし、今は作るつもりが無い事ぐらい分かるだろ?」

「うん、そうだよね、ごめん」


 歪んではいるが百年単位で一途に想ってくれ、それを伝えてくれた相手を無下にすることは俺には出来そうもないのも事実であるし、妻と娘の事を未だに想っている事もまた事実である。


 俺の言葉に含まれた意味を理解したのか怒りの割合が多かったアーシェの表情が悲しげに崩れ、その口からは謝罪の言葉が紡がれる。


「しかし、あのアーシェが「彼女を何人作っても構わない」なんて言葉が出るなんて意外だわね。あなたのことだから束縛って言葉じゃ生ぬるいぐらいの事を言うと思ったわ」

「なっ!?私はそんな事しないわよ!お兄ちゃんってだけで少しハメ外しそうになるけど束縛なんかしないわよ!監視はするけど…」


 アンナに束縛癖がありそうと言われたアーシェは束縛なんてしないと否定するが、俺的にはもっと言ってやって欲しいと思う。


 監視している時点でアウトです。


 しかしアーシェのいう通り監視はされていたものの今まで行動を束縛されなかったのも事実であるため、一概に否定できないのがもどかしい。


「だって彼には妻がいるもの」

「え?妻?」

「そう、妻よ。この私からお兄ちゃんを奪った泥棒猫がね」

「い、命知らずも居たものね」


 そう言いアンナは身震いする。


 隣で般若の顔をクロに向けるアーシェを出し抜いてクロと結婚する事を想像するだけで恐ろしい。


 この世界ではクロ以外にもアーシェに対抗しうる存在がいるということにアンナはこの世界の広さと深さを思い知らされる気分になる。


「しかし、アーシェに対抗できる方がクロさん以外にいたなんて意外ですね。世界は私が思っていたよりも遥かに広い」

「え?クロの奥さんはそこらへんにいる普通の人間よ?」

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