第85話どれほどの民の血が流れたというのか

 そしてこの竜、バハムートは全く悪びれた様子もなく笑い、次はちゃんと私の名を呼んでくれる。


 もし我々人族がもう少し人族以外に理解を示し、歩み寄る事が出来ていれば今の私と竜みたいなやり取りが別段珍しくもない光景になっていたのかもしれない。


「ところでスフィアよ、お前は我と同種が住む場所を知っておるか?」

「知ってどうする?」

「我が主の戦いを見てから、この世界を自らの目で耳で鼻で指先で感じたくなってな。まさか我以外に我が主に全力を出させる存在がいたとは、我が主に出会った時以上に、世界は広いと実感した」


 どうやらバハムートと名乗る竜もまた、先ほどの戦いに何か感じる物があったのだろう。その気持ちが手に取るように分かってしまう。


 どうあがこうが私も竜も魔王二人からすればちっぽけな存在でしかないのかもしれないし、そう思ってしまう自分に改めて気付き悔しいのだろう。


「教えてもいいが、私の我が儘に付き合ってくれないか?」

「我で出来る範囲なら申してみろ」

「その旅に私も同行させてほしい。私も世界を見てみたいんだ。人族では見れない景色を。それと……」




◇◆◆◇



 グルドニア帝都では見たこともない巨躯の黒竜が突然現れ、今現在その中心部にある王が住む城へと舞い降りようとしている。


 現皇帝、ドミニク・エドワーズ第七国皇帝陛下を守るために結成された近衛兵達が黒竜めがけ魔法や弓などを撃ち放つが、黒竜の鱗に傷一つつけれないでいる。


「何をしておる!? 儂はトカゲ一匹殺せない奴らを今まで近衛兵として抱えていたとでも言うのか!? 使えない奴らめ!」


 近衛兵達の攻撃は、確かに人族の中では高い技術と威力である事が見受けられるのだが、この程度で魔王アーシェに喧嘩を仕掛けたのだと思うと我が父ながらも可哀想に思えてくる。


「使えないのは父上、あなたですよ?」

「す、スフィアなのか?」


 そして私はバハムートの背中から父上の前に飛び降りると目の前にいる父上を睨みつける。


「娘の顔も忘れたのですか?」

「と、いう事は…目の前の竜はお前が隷属の魔法で隷属化に成功したというのか!? でかした!」


 そして目の前の父上は、目の前に現れた人物が私だと分かるやいなや舞い降りた黒竜と私にに向かって称賛の言葉の数々をかけ始めた。


 その態度はまるで世界を手に入れたかのようである。


 その腐った考えでどれほどの民の血が流れたというのか…


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