第33話その顔は不安で溢れていた
そんなたわいもない話をしていると料理ができたらしくミヤコが肉球の手で器用に大皿に入った料理持ってを運んで来てくれた。
あの肉球の手で包丁などを使い料理を作る所を想像すると大きな猫の見た目も相まって可愛く思える。
合計三品の料理と白パンが運び終わり食事に入るのだが、未だに黒パンに出会わないので地味に期待していた分少し残念でもある。
白パンは想像以上に美味しくちゃんとイースト菌などを使っていることが伺えるので不満はないのだが、やはり異世界と言えば剣と魔法、そして黒パンだと思っていたためいつか食べてみたいものだ。
料理の内容はムヌー肉の野菜炒め、ムヌー肉のシチュー、ムヌー肉のステーキである。
ムヌーの肉は昨日食べた、味付けが塩のみでも十分に美味しかったのだが、調理をしたその肉はまた一段と美味しく、実に満足できる食事であった。
晩食後、離れにある小部屋にお風呂があり食事中お湯を炊いてたそうで、久しぶりの風呂に心と身体をリフレシュする。
その後メアとミイアがミイアの妹を寝すついでに一緒に就寝しに行った後、クロはミヤコに呼ばれ縁側ですわる。
あたりは暗く蛙と虫の音色で溢れており、少しの時間その音色に耳を傾けているとミヤコの気配を感じ取る。
「ありがとうございますじゃ」
クロの隣りに腰掛けたミヤコは手に葡萄酒を両手で握り、つぶやくようにクロに感謝を告げる。
「……できた娘さんですね…」
二人の言葉はそれっきり交わすことはなく周りに溢れる音色を肴に葡萄酒を飲む。
日本で生活しているとけして体験しなかっただろう贅沢な時間が緩やかに流れていった。
あてがわれた部屋に戻り就寝しようと布団へ入ると、布団が無駄に生暖かい事に気づく。布団の中にメアが無駄に入り込んでいたのだ。
布団の中から顔を赤らめ上目遣いで見つめてくるメアは無駄に可愛いのだが、俺からすれば無駄だらけである。
「何をしてるんだ…? いやいい。言わずとも解る」
この世界の女性は夜這いが趣味なのだろうか?そう思い一応ミイアの姿も探してみるがいないみたいである。
「ミイアは葡萄酒をいっぱい飲んだみたいでな、寝室に入るやいなや妹達と一緒に眠ってしまったみたいだ」
「…そうか」
そう言うとクロは布団から出ようとするのだがメアに腕を掴まれ阻止される。その顔は不安で溢れていた。
「私じゃ力不足なのはわかっているつもりだ。女性らしくないのは自分が良くわかっているからな」
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