第4話ノックは無い
そして分からない事が一つ。
目の前に広がる半透明のゲーム画面の見慣れたアイコンである。
今時間は余っているというか有り余っているのですることと言えば目の前に浮かぶアイコンに触るくらいである。というわけでまずは慣れた手つきで目の前に広がるアイコンをタッチし、自分のステータスを見てみる。
名前:クロ・フリート
種族:ヴァンパイア(神祖)
称号:魔王
ランク:未定
とだけ書かれていた。
ゲームの表記みたいに強さについて細かいステータスが表示されていないのは自分が生きていて、生きている限り鍛錬すれば強くなり、強くなっても怠ければ弱くなり、そして老いるからなのか?そのへんいくら考えても解らないのでこんなところだろうとそれらしい理由を付けて納得する。まあその内解るだろう。
次にアイテム欄を開いてみる。
中にはゲーム中自分が所持していた各種アイテムとタブレットとスマホ、黒い牛革の長財布、スーツ一式……etc自殺する時に自分が身に付けていた所持品が表示される。
その中からスマホを選択すると何もない空間からスマホが出てきたのでそれを手に取り電源をいれると聞き馴れた独特な電子音とともにスマホが起動し、その画面には待ち受けにしていた妻と娘の笑顔が浮かび上がる。
そんな中、妻子の写る画面を眺めて色々な感情に浸っていると部屋のドアが豪快に開け放たれる。
ノックは無い。
「目を覚ましたのか? なら今ちょうどご飯ができて起こしに来たところだからクロも一緒に食うだろ?なんてったって空腹で倒れたくらいだからな」
入ってくるなりクロが倒れた理由を思いだし「ククク」と笑うメア。しかし目が笑ってない。
そしてメアはクロに近づくとボリュームを落とした声で喋り始めた。
「一つ私と取引しないか?」
「取引? 何をだ? 俺が出来る事なら言ってくれ。行き倒れた俺を見捨てずに村まで運んでくれたんだ。取引という形じゃなくお礼としてできる事はしてあげたいと思ってたところだ」
「そ、そうか! 話が早くて助かるな。取引の内容だが、これからこの部屋をクロの部屋とし、この家に我が家族のように住んでもらってかまわない。その代わりこれから両親の所へ行くのだがクロはただ頷くだけで良い。な? 簡単じゃないか」
なら取引成立だと言わんばかりにそこまで一気にまくし立てるメア。
倒れるまでの道中行く宛ても帰る場所も無いと言っていたのを覚えていてくれていたようだ。
また貸しを作ったなと心の中で苦笑いをするもありがたい申し出である。
野宿なんてまっぴらゴメンであるし、行く宛てどころかこの世界のことすら全く知らないのである。断る理由を探すほうが難しい。
「まあその程度なら全然構わない」
「なら行こう! 今すぐ行こう!」
そういうとメアはクロの手首をガッチリつかむと引きずるようにクロを急かすのであった。
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