第57話 倉庫のコンサート(1)

 倉庫の床にしたたかにオデコを打ち付けた俺は、うずく股間を押さえながら再び顔を上げた。

 しかし、またまた、不思議なことが起こった。

 先ほどまでいたはずの女の子たちが、忽然と姿を消しているではないか。

 幼女に股間を踏みつけられた激痛で一瞬目を逸らした、ほんの数秒の事である。

 どこかに行ったとは到底思えない。

 その証拠に、今だ倉庫の入り口のシャッターは締まったままである。

 そして壁についた勝手口のドアが開いた音など聞こえなかった。

 ということは、まだ、この倉庫の中に、あの女の子たちはいるということなのだろう。

 俺は、あたりを見回した。

 しかし、倉庫の中はがらんとして何もない。

 昨日、この倉庫を借りたばかりなのだ、まだ、什器などありもしないのである。

 したがって、隠れるところなどないはずなのだ。

 それにもかかわらず、女の子たちの姿は見えなかった。


 だが、俺の目の前には、明らかに女の子とは別の何かがうごめいていた。

 まず一つ。お座りをした子犬が、ハッハッハッと息をしながら嬉しそうに尻尾を振っているではないか。

 その子犬の横では、白黒の子猫が前足をなめながら念入りに顔を洗っていた。

 そんな子犬と子猫に隠れるように、子ウサギの赤い目がプルプルと震えながらこちらの様子を警戒しているのが見える。

 その集団の中でもひときわ大きな存在のペンギンが、首を振りながら、きょろきょろと自分の足元を見回している。

 なにが、そんなに不思議なのか、足をペタペタと忙しそうに地団駄を踏むように動かしていた。

 そしてなによりも気になるのは、俺のすぐ鼻の先でレッドスライムが目を吊り上げて偉そうにしていたことだった。

 その様子はとても怒っているようで、すでに顔は真っ赤っか。

 といっても、最初からレッドスライムは赤でしたか……

 というか……どこからが、顔?


 俺は、冷静に考える。

 女の子たちはこの倉庫から出て行ってないとすれば、もしかして、この5匹のペットたちが女の子に変ったのだろうか?


 そんな馬鹿な!


 まぁ、普通の人間ならそういう反応をするだろう。


 だが、俺は違う。


 なぜなら、俺はかつて魔獣戦隊マジュインジャーの隊長だったのだ。

 騎士養成学校にマーカスとして入る前の俺は、母と一緒に森の中で生活をしていた。

 その時に、自分がテイムしたのがヒヨコと子猫とアオダイショウとミドリガメである。

 それらの仲間にピンクスライムを足したのが魔獣戦隊マジュインジャーなのだ。

 森で遊ぶにしても5匹のマジュインジャーと俺はいつも一緒だった。

 そして、魔王【ドゥームズデイエヴァ 】と戦う時も共に戦った。

 そう、俺の血を浴びたマジュインジャーは、強い魔獣へと変身するのだ。

 ヒヨコは、朱雀になって天を舞い。

 子猫は、鋭い爪と牙を持つ白虎へと姿を変える。

 アオダイショウは、青龍となりうね狂い。

 ミドリガメは、相手の攻撃を阻む玄武となった。

 そして、残るピンクスライムは、スライムドラゴンとなり全ての敵を呑み込んだ。

 どうやら、俺の血には、魔獣たちを進化させる能力があるのだ。

 それをすでに知っていた俺は、目の前のペットたちが仮に人間に進化したとしても、別に驚きはしない。


 だがしかし、不思議なことに俺の体はどこも痛くない。

 もし進化したのであれば、俺には血を流した跡があるはずなのだが、それがない。

 いくら体中を見回しても、どこにも傷がないのである。

 ならば、このペットたちは俺の血を浴びて進化をしたわけではないのだろうか。

 ということは、どういうこと……?


 ……………………

 …………

 ……

 まさか…………

 …………

 ……


 いや、今は考えまい……

 とにかく、今、必要なのは現時点の状況を正確に認識することなのである。

 目の前にはレッドスライムを含むペットが5匹。

 そして、俺の着るモノはパンツが一つとズボンが一着。

 あと、俺の部屋から持ち出してきた道具が入ったカバンがあるだけだ。

 当然、金はない……


 まず、優先すべきは、着るモノだ。

 着るモノがなければ、働くことすらできない。

 働くことができなければ、金を手に入れることすらできないのだ。

 やっぱり裸はまずい……

 いくら、ココが海の側だと言っても、やっぱりまずい……

 だって、夕方になってくると、だんだんと寒くなってくるんだモン!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る