第53話 めい探偵ヒイロ(1)

 ヒイロの目がゆっくりと開いていく。

 暗い視線にぼやけた光の線が描かれたかと思うと、それがゆっくりと広がっていった。

 どうやら、ココは倉庫のようだ。

 ――たしか、俺はレッドスライムの一撃を受けて……

 ヒイロはいまだヒリヒリと痛む顎をさすりながら上体を起こした。

 しかし、先ほどから、下半身がスース―する。

 下半身に目をやったヒイロは驚いた。

 ――なんで、俺はパンツを履いてない?

 そう、ヒイロの下半身はすっぽんぽんであった。

 確かに、上半身はオバラに破かれたため、着る物のもなく、裸だった。

 そこまでは理解できる。

 だが、パンツは破れてはいたが、履いた記憶があるのだ。

 まして、ズボンは無事でよかったなどと思いながら、ベルトを締めたのである。

 これは間違いない。

 しかし、今の自分は、何も身に着けずに素っ裸で眠り込んでいたのだ。

 やはり、欲求不満なのだろうか。

 ヒイロは、夢を思い出す。

 今回の夢は、レディースの女の子たちだった。

 しかも、それが猫だか、ゾンビだか分からぬ雰囲気で襲ってきたのだ。

 ヒイロの下半身に向かって。

 その恐怖でヒイロは夢の中であるにもかかわらず、意識を失った。

 そこから先の記憶がないのだ。

 だが、この体の倦怠感……尋常ではない。

 朝、ベッドで起きた時も、だるさを感じていた。

 まだ疲れが取れていないという感じだったのだ。

 そのせいなのだろうか、またもやぶっ倒れてしまった。

 体のだるさは、先ほどよりも強くなっている。

 意識を失っていたのにもかかわらず、まだ睡魔が襲ってくるようなのだ。

 だが、朝から寝てばかり……まだ、何もやっていないのである。

 ヒイロは、そう思うと、ホコリにまみれた床に手をつき、立ち上がった。

 その背とケツは、ホコリで真っ黒になっていた。

 立ち上がったヒイロは、ケツのホコリをパンパンと払う。

 しかし、汗ばんだケツにはホコリが泥のように固まり、落ちない。

 仕方ないヒイロは、パンツを探す。

 しかし、ない。

 どこにもパンツが見当たらないのだ。

 足本には、ズボンがきれいに伸びて落ちていた。

 しかし、ヒイロはそのズボンを取ることができなかった。

 なぜなら、そのズボンの上では、ペンギン、子犬、子猫、子ウサギ、レッドスライムが、体を寄せ合って眠っていたのだ。

 床のホコリで体が汚れるのを嫌うかのように、ヒイロのズボンを敷物にして。

 さすがに、その寝顔を見たヒイロは、ズボンを取れなかった。

 とりあえず、パンツだ……

 もう一度、フルチンで辺りをしっかりと探すヒイロ。

 倉庫の片隅に置かれていたゴミ箱の中から丸まったパンツの端を見つけた。

 なんで、ゴミ箱の中に入っているんだ……?

 ヒイロは、そのパンツの端をつまみ上げた。

 しかし、それはすでにパンツの用をなしていなかった。

 真ん中から真っ二つに裂けた元パンツの白い布。

 しかも、何かを拭いたかのように、若干黄ばんで、ぐじゃぐじゃに丸められていたのだ。

 ヒイロは意味が分からない。

 自分の履いていたブリーフパンツが、今目の前でバラバラ死体になっているのだ。

 これはまさしくミステリー!

 パンツばらばら殺人事件である!

 ヒイロは顎の下に親指と人差し指を押し当てる。

 これは一体どういう事でしょう?

 ヒイロ探偵は、その状況を観察した。

 どう見ても、これは俺のブリーフパンツだ。

 間違いないようである。

 しかし、倉庫の真ん中で倒れていたヒイロからゴミ箱までは、倉庫半分の長さ。

 この距離をパンツが飛んでいくとは思えない。

 ならパンツが自分で歩いて行ったのか?

 たしかに、あの時のパンツはお尻から股間にかけて破けていた。

 ヒイロの大切な部分を隠すことができないように二股に別れていた。

 その形はまるで足のようである。

 仮に、パンツに生命の意思が芽生えたとしよう。

 ならば、パンツが、勝手に歩いていくことも可能なのだ。

 なら、この説に従って、推測を進めみよう。

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