第36話 いきなりアリエーヌ(3)

 国民の不満とアリエーヌの直訴が重なった国王は、まず、マッケンテンナ家を貴族へと取り立てたのだ。

 ドグスにとって、ヒイロとマーカスたんを入れ替えた究極の目的を達成した瞬間だった。

 そして、貴族と言う地位を得たことで、社交界へデビューできるという夢が現実味を帯びてきたのだ。

 いくら大金を積んでも、然う然うそうそう手に入らない名誉である。

 もう、ドグスにとっては、これ以上の幸せはなかった。

 だが、話はここで終わらなかった。


 そう、アリエーヌをはじめ4人の大貴族の公女たちがマーカスに婚姻を申し込んできたのである。


 マッケンテンナ家の応接室で一同に会するメンバーたち。

 アリエーヌ、グラマディ、キャンディ、グラスが一列に並んで立っている。

 その前には、マーカスたんが一人ぽつんとソファーに座って、目の前の美女たちをよだれを垂らしながら眺めていた。

 一方、ドグスはというと、王女と三大貴族の令嬢が来ると聞いて、普段よりも念入りにおめかしを仕込んでいるようで、少々時間が長引いているのであった。


 4人の公女たちは、ソファーに座るマーカスたんを見る。

 だが、その目は点になって唖然としていた。

 魔王討伐後、戻ってきてから豹変したとは聞いていた……

 しかし……

 しかし……どこかおかしい。

 目の前のマーカスは、マッシュルームカットに、だらしなく目が垂れている。

 そして、自分で拭くことができないのか鼻水が垂れているではないか。

 マーカスって、こんなんだったけ?

 その垂れ目の視線が、四人の女を足先から胸のトン先までを値踏みするかのように、ジトーっといやらしく絡みつく。

 時折、指先を広げて、女たちのサイズを測っているのが、ムカつく。

 その締まりのない顔と言ったら……

 たしかにエロい妄想している時はだらしなかったけど、やるときは凛々しい顔をしていたよね、マーカスは……こんなんだったっけ……きっと、魔王討伐の後遺症なんだろう。

 マーカスタンは巨乳のグラマディを見つけると、突然、立ち上がり胸にタッチする。

 悲鳴を上げ胸を押さえて身をよじるグラマディ。

 マーカスは睨む。

「処女じゃあるまいし、きゃきゃ喚くなよ、胸触られたぐらいで!」

 たしかにスケベな目で時折見ていたけど、女の子のこと大切にしていたよね、マーカスは……こんなんだったっけ……きっと、魔王討伐の後遺症なんだ。

 マーカスタンはスルメをかじるキャンディを見つけると、咄嗟にズボンを脱ぎだした。

「僕ちんのスルメをかじってみないかい?」

「貧相やな……少し干からびたか……あんさん……」

 まじまじと見たキャンディはつぶやいた。

 がビーン!

 マーカスの心がブロークンハート!

 みっともなく泣き出した。

 えっ? 確かにウブだったけど、これぐらいのことでへこたれるような奴じゃなかったよね、マーカスは……こんなんだったっけ……きっと、魔王討伐の後遺症なんだ。

 グラスが、そんな泣きわめくマーカスの頭を優しくなでた。

「大丈夫だよ……マーカス……僕が側についているよ……」

 咄嗟に、グラスの顔を見るマーカス。

 グラスは優しく微笑む。

「つらかったんだね……」

「うん、僕ちん、つらかったの……だから、今晩、一緒にしない?」

 左手の人差し指と親指で丸を作り、右手の人差し指をその丸の中に出し入れしていた。

 グラスの顔がみるみると赤くなると、マーカスの顔面をグーパンチした。

 鼻血をだしてぶっ倒れるマーカス。

 あれ? グラスのグーパンチなんて、マーカスにとったら大したことないよね。こんなに弱かったっけ? ……きっと、魔王討伐の後遺症なんだ。

 アリエーヌは、もじもじとしながら、頭を下げた。

「マーカス、ありがとう。ワラワたちを救ってくれて……あの後の戦い大変じゃったのじゃろ……」

「戦い? 僕ちんが? 激しい戦い……うーん激しいプレイの事かな?」

「覚えていないと申すのか……」

「うーん、いちいち相手の女の顔なんて覚えてないしね。僕ちん……もしかして、僕ちんと君たちってプレーした中なのかな?」

「あの旅を覚えていないとは……よほど、つらい戦いじゃったのじゃろうな……」

 ドグスが、遠くから駆けつけてきた。

「マーカスたーん! お待たせや!」

「ママ! 僕ちんここだよ! ここにエロい女が4匹もいるんだ!」

 駆けつけたドグスは驚いた。

 そこにはズボンから何かをはみ出させていたマーカスたんが立っていたのだ。

 いや、あれは立たずにしおれていたけどね……

 とっさに膝をつき、すかさず、マーカスたんの頭を抑え込む。

「これは、アリエーヌ姫様! 愚息が失礼いたしました。愚息の愚息は失礼いたしませんでしたでしょうか」

 アリエーヌは首を振る。

 きっと、今のマーカスは魔王討伐の後遺症で、少々変になっているのだ。

 時間がたてば、きっともとの優しいマーカスに戻ってくれる。

 アリエーヌは、ドグスに言う。

「今日来たのはほかでもない、この四人の中からマーカス様に婚約相手を選んでいただきたいのだ」

 ドグスは四人の女を見る。

【アリエーヌ=ヘンダーゾン】はキサラ王国第七王女

【グラマディ=ボインジェンヌ】三大貴族であるボインジェンヌ家

【キャンディ=ワインハンバーガー】こちらも三大貴族であるワインハンバーガー家

【グラス=エアハート】も三大貴族エアハート家の子女である。

 どの女も、家柄的には問題ない。

 だが、この中でもアリエーヌがずば抜けている。

 なんといっても王族だ。

 王族と婚姻すれば、マーカスたんとの間に生まれた子供には王位継承権が生まれる。

 もし、孫が王にでもなれば、この国のてっぺんよ! てっぺん!

 ドグスはマーカスの手を取り、アリエーヌを指さした。

 不服そうな顔のマーカス。

「えーぇ! この娘? 確かにかわいいんだけど、高慢ちきで、あんまり乱れそうにないんだよね……僕ちん、乱れる女のほうが好きなんだよ。ママ」

 ドグスが耳打ちする。

「結婚したら他に女なんか、なんぼでも囲えばええんや、な! マーカスたん! この娘にしとき!」

 こういうわけで、無事、マーカスとアリエーヌは婚約したという訳なのだ。


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