第11話 決別 ※テレスフィオ視点

『爵位が欲しいのです。この国の』


 実家の伯爵家の名前が通じる家を、頭を下げて巡り、ようやく話を聞いてくれる所を見つけた。


 オリランダを守りたい。

 いつ自国に連れ去られるかもしれない彼女を守るには、やはり権力が必要だった。男爵位だろうと貴族。それが他国に害される事があれば、国際問題になるのだから。

 

 

 


 傷付いたオリランダを支え、新しい生活に導く。更に宿屋の仕事と他国の貴族の爵位を得る為奔走し、メイルティンたちの相手もしながら過ごしてきたこの五年……

 やっと爵位だけでなく、領地に小さな邸と、最低限の生活が出来る程度の定期収入を得られるようになった。

 

 そしてオリランダを迎える最後の仕事をしている最中に、それは起こった。


 彼女が攫われたと火急の知らせを送ってくれたのは宿屋夫妻。

 彼らにはいずれあの宿をオリランダと二人で出て行く事、その為のこちらの事情を最低限話し、協力を仰いでいた。

 お金を支払うべきだと思ったが、彼らはそれにはいたく反発した。……そんな人たちに巡り会えた事にはただただ感謝しかなく……自分に出来る限りの礼を尽くして、あとは死に物狂いで働いた。





 ◇





「裏切り者!」


 叫ぶ国王夫妻に面倒臭く思いながら振り返る。


「何も……俺は五年前に伯爵家を廃嫡となっていますから、本来ならあなた方の国に恩も縁も無いのですよ」


「あ、アタシにその女の情報を流していたじゃない!」


 兵士に後ろ手に縛り上げられながらも縋ってくるメイルティンを一瞥する。


「……先程オリランダ様に話した事が全てです。まかり間違ってもあなた方に乗り込んで来て欲しくなかった……あなたはオリランダ様が他国で平民となり宿屋で働いているというだけでは満足していなかったようだからな。余計な手を出させない為だ」


「な、何よそれぇ……」


 情けない声を出すメイルティンを見ながら神官が首を振り、ぼやくように告げる。


「我々はキエル国王夫妻が聖女の名を穢した謝罪で神殿に伺いたいと聞いていたのです。そうして我々が認めた真の聖女の祈りを国へ賜りたいのだと……人は過ちを犯す者。罪を犯したとは言え、一国の王と王妃の真摯な願いと聞いた故の今回の話ですが……まさかこんな侮辱を受けるとは……」


 ……勿論知っている、神官にその話を持って行ったのは自分だ。ロレンフィオンたちにも同じ事を伝えたが、敢えて誤解しそうな話し方をした。

 どうせ彼らは自分の聞きたい事しか聞かない。


「えっ? 祈りってお金が欲しいって意味じゃないの? でもうちの国はもうお金なんて無いから、だから女を用意しようって言ったのはロレンフィオンよ! ロレンフィオンが悪いのよ!」


 メイルティンはやはりこちらの思い通りの馬鹿を披露してくれている。これを見て神官ももう何も言う気は無さそうだ。


「何を言ってるんだ! 神殿にいる神官なんて皆堕落していて女に弱いって言ったのはお前だろう! 事実我が国に在駐していた神官を誑かしてお前は聖女認定を受けたんじゃないか!」


 ロレンフィオンも負けず劣らずのクズっぷりを発揮する。


「人聞きの悪い事言わないで! あの時神官にお願いしてこいって言ったのはあなたでしょう! 今回だって、どうせなら高位貴族の女がいいって、オリランダなら追放されてるから丁度いいって言ったのもあなたじゃない! 人のせいにするなんて最低だわ!」


 ……二人揃ってどうしようもない……

 テレスフィオは頭を押さえる神官に悪い気がして兵士に声を掛けた。


「もういいから連れて行ってくれ」


「待って! 待ってよ! アタシ本当はあなたが一番好きなのよ! ねえ、助けてテレスフィオ! 何でもするから!」


「テレスフィオ! 母国の王を罪人にするつもりか!」


(……勿論。その方が都合がいいので、ね)


 テレスフィオは内心とは裏腹に神妙な顔を作り、口を開く。


「陛下……もういい加減に目をお覚まし下さい。せめて最後は王らしく国の幕引きを……それがキエル王国の為なのです」


(何でもすると言うのなら、死んで欲しいものだが……)


 青褪めながら兵士に引きずられていく二人を見送り、テレスフィオはようやく胸に晴れやかな風が吹いた気がした。

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