第5話 真実

 オーリーは兵士に睨まれ逃げ出せずに、馬車に乗せられ二人の対面に座らされた。


 キエル王国の国王夫妻は国が滅んだ際に逃亡したと聞いている。確かに慌てて出てきたのだろう、二人の服装は身分を隠す旅装束で、好んで着ていた華美な物とは程遠い。けれど逃亡と言う割には二人は元気そうだ。内心首を傾げていると、二人は何故オリランダを迎えに来たのかを嬉々として話し始めた。


 それによるとロレンフィオンとメイルティンが結婚して直ぐに他国に聖女が現れた事。それがケチのツキ始めだったという。

 

「アタシが聖女って事にしておけば都合が良かったんだけど、まさか本物の聖女様が現れるなんて思って無かったの。正直あんなの眉唾ものだと思ってたし」


「えっ……?」


 信じられない言葉にオーリーは目を剥いた。


「メイリーとの結婚に必要な事だったが、聖なる力を振るう聖女が現れてから、我が国は各国から嘘つき呼ばわりで信用を無くし、国内からの暴動にも耐えられない程に疲弊してしまった」


「なっ! う、嘘……?」


 オーリーは愕然とする。

 こんな話本当だろうか? でもこんな状況の二人がオーリーに聞かせるには理由がある筈……ならばこの話は真実で、自分は嘘に踊らされてメイルティンに嫉妬し虐め、挙句に追放されてしまったのか。

 しかもこの口ぶりではロレンフィオンも知っていた。それはつまり……


 オーリーと別れたかったから。

 けれど実家の公爵家の力は欲しかった。だからメイルティンを養女にしてはどうかと公爵に話を持ち掛けた。


 オーリーは肩を震わせる。


(私は一体……何を見ていたの?)


 自分はどれだけ邪魔で、それでいて都合よくあしらわれたのか……彼らにしてみればオーリーがメイルティンを害した事はただの幸運。

 オーリーを排除する口実を、オーリー自らが作り出したのだから。


「ふふ、あら泣いちゃったわこの子」


「そんな一面もあったのだな、よく見ればあの頃はまだ子供でしか無かったが、もういい大人じゃないか、どれ……」


「っ、触らないで!」


「何だと!?」


 伸びて来たロレンフィオンの手をばしりとはたき落とせばロレンフィオンの顔が怒気に染まった。

 あの頃、婚約者として努力をしてきたし、段々と孤独になっていく寂しさにも耐えても来た。

 なのに、嘘が元で身を滅ぼした自分を卑怯者で醜いとし、全てオーリーの罪として追放した事すら茶番だったなどと……

 恐怖に後退るオーリーを横目に、呆れた様子でメイルティンが声を掛ける。


「ちょっと止めなさいよ~ロレン。手を出すのも殴るのも駄目。どうせなら綺麗なままの方が向こう様も喜ぶでしょう? ね、どうせあなたまだ処女なんでしょう? 乳臭いものね」


「なっ!」


 動揺を見せるオーリーにメイルティンは、くすくす笑いながら、ほらね。と顔を近づける。


「あんたにはあ~、これから偉ーい神官様のところに行って貰って、たーっぷりとご奉仕して来て貰うの。それだけで私は第二の聖女になれるんだからあ。ね? いい案でしょ? 国の為よ? 潰れちゃうなんて国民が可哀想じゃない? 皆毎日飢えて生活とか大変なんだからさあ」


「な、何を言ってるの?」


 メイルティンの言ってる意味がほぼ分からない。

 国が潰れたのは二人の政治手腕が悪かったからだろう。前王が崩御して急な継承だと聞いていたが、こんな短期間で宿屋に聞こえてくる噂話は散財散財と、とにかく酷いものばかりだった。その尻拭いを何故追放された自分がしなければならないのか?


 それよりメイルティンはこんな風だったろうか? ぷるぷると震えた子犬の様な娘だったのに……


 オーリーの困惑を無視してメイルティンは続ける。


「神官様はアタシみたいな可愛い子よりもあんたみたいな野暮ったい女の方がいいって言うんだから仕方がないでしょう? 元公爵令嬢って肩書きだけで価値が上がるのだからめっけもんよね。

 そもそもあんたの罰が平民落ちだけだなんて、アタシは納得してなかったんだから丁度いいわ。ま、気に入って貰えれば大事にして貰えるんだから、精々励みなさいよ」


 いやらしい笑みを浮かべるメイルティンから目を逸らせば、ロレンフィオンは面白くなさそうに馬車の窓枠に肘を突き外を眺めている。


「ロレン、心配しなくても聖女の事は神官様が何とかしてくれるわよ。そうしたらまたお城で暮らせるんだから、いいじゃない」


「ああ……そうだな」


 ……何だか二人の距離感もおかしい。

 五年前は人目も憚らずベタベタとくっついていたのに。今はお互い興味も無さそうに離れてしまっている。

 でも今はそんな事はどうでもいいのだ。

 急いで逃げる算段をつけなければ。

 こんな林の中で一人逃げ切るのは難しいかもしれない。それならいっそ人通りのある場所まで行って助けを求めた方が────


(駄目だわ……)


 そこまで考えて首を振る。


(五年前……誰も助けてくれなかった)


 知り合いの誰もが、両親ですらオーリーを見捨てたのだ。……テレスフィオ以外……

 ぎゅっと両手を組めばメイルティンが楽しそうに口にする。


「あら、そう言えばテレスフィオは元気?」

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