第55話 戸惑う村井


注文を終えると、午後はどこに行こうかという話になった。


俺も少しは行き先の候補を考えては来たけど、この場で探して決めればいいかと考えていて、そこまでしっかり調べてはいない。それに対して、先輩は俺よりももっと色々と調べてくれてきたようであった。


「午後なんですけど、映画を観に行ってみませんか?ほら、この映画。今話題なんですよ」


そう言って見せてくる映画は邪馬台国卑弥呼戦記というタイトルの映画であった。どこかで聞いたことのあるタイトルである。


あ、このタイトルって…。


「先輩、これってもしかして原作って小説ですか?」

「はい、そうなんですよ。これ、原作は小説なんです。あ、もしかして村井くんも読んだことありますか?」


やっぱりそうか。このタイトルこの間図書館に行った時に篠崎にお薦めされた本だ。面白かったので一気に3巻まで読んでしまったタイトルである。

まさか映画になっているとは思わなかった。


10巻まで出ているらしいが、図書館では4巻以降は見当たらなかったので、今図書館で貸し出しの予約をしていたところだ。やけに予約している人が多いなと思っていたが、映画化で話題になっていて借りる人が多かったってことね。

むしろよく3巻までは図書館に置いてあったものだ。


「この間ちょうど借りて読みました。小説はすごく面白かったです。まさか映画化されているとは知りませんでした」


俺がそういうとぱぁっ!と花が咲いたような笑顔を俺に向ける先輩。


「小説も面白かったですよね!私、小説の2巻の邪馬台国を敵の侵攻から守るシーンあるじゃ無いですか、あのシーンがすごい好きなんですよ!」

「あの鬼瓦三郎が活躍する話ですか?確かにあのシーンは熱かったですね」


あのシーンは2巻の最大の盛り上がりと言っていいシーンである。

鬼瓦三郎と卑弥呼のお互いを思いやる感情の動きもよく描写されており、俺もあのシーンはグッときた。


「それと、5巻の…」

「あ。待って待って先輩。俺3巻までしか読んで無いので。俺ネタバレは禁止派なのでそれ以上はやめておいてもらっていいですか?」

「あ、すみません。危なかったです」


慌てて両手を口に当てて口を塞ぐ仕草をする先輩。

…なんか今日の先輩はいちいち挙動が可愛く見える。


「私もネタバレは駄目な派なのでわかります。でもどうして3巻までしか読んでないんですか?」

「いや、今4巻以降は図書館で予約待ちなんですよ。あれば読みたいんですけどね」


「あ、それなら私、家に全巻おいてあるので今度お貸ししますよ!」


…いやどうしようかな、なんか借りにくい。

でも、いい笑顔で今度持ってきますね!と言われるとそれはそれで断りにくく、今度借りる流れになった。


「でも村井くんにもあの小説の良さがわかってもらえてて嬉しいです。まさか村井くんもあの小説を読んでるとは思いませんでした」


まあ、実際篠崎にお薦めされなかったら、読んでなかっただろうからな。


「そうですね。俺もたまたま読んだだけなんですけどね。普通に面白かったです。じゃあ、今日はその映画観に行きましょうか」

「そうしましょう!映画はレビューの評価も高いですし、期待できますよ!」


小説では戦闘描写が秀逸で臨場感もすごかった。これが映画化されているとなるとそれは確かに期待できそうなので、ぜひ見たい。



「じゃあ、ご飯食べたら、2時過ぎになると思うので…ちょうど2時半から映画やってるみたいだから、それに行ってみましょうか?」

「はい、そうしましょう。…私達、狩人モンスターをしていたこともそうですけど、本の趣味も似てそうですよね。…私達、結構気が合うと思いませんか?」


ぶっ!

あ、危ないコーヒーをこぼしそうになった。

今日の先輩は本当にオカシイ。

すごい勢いでぐいぐい来る。俺にどうしろというのだ。


本人は言った後で、みるみると顔が赤くしていく。

この人もしかして自爆覚悟で発言してる?

その反応も普通に可愛いので困る。


こういう時どうしていいかわからない。

…あーもう、これちゃんと俺のことどう思っているのか確かめたほうがいいのだろうか?


とりあえず、無難に誤魔化すことにした。

「あー、そうですね。もしかしたらそうかもしれないですね。あはは、でもあんまり男にそういうこと言わないほうがいいですよ?」


そう思っているとさらに爆弾発言をしてくる先輩。


「…私、他の男性にこういったこと言ったことありませんよ?こういうのいったのは村井くんが初めてです」


顔を真っ赤にしつつもはっきりとそう言ってくる先輩。

俺ももう完全に顔が真っ赤だし、心臓がバクバクいってやばい。


もうオーバーキルです。やめてください…。

ちょうどそのタイミングで頼んでいたパスタが運ばれてくる。


「…料理が来ましたね。早速食べちゃいましょう」



パスタを食べ始めたら食べ始めたで「私のを一口あげますね」と言って自分でフォークに巻いたパスタを俺に食べさせようとする場面もあった。


流石にやりすぎではと思って俺が若干引き気味になると「…なんて冗談ですよ〜」などと言って俺の目の前に出したパスタを自分で食べていたが、茹でたこのように顔を赤くし、手もぷるぷる震えさせていた様子からして絶対に本気であった。


その後も思わせぶりな発言や態度を繰り返し俺をドギマギさせた。

本人も、わかっているのか顔がもう赤いこと赤いこと。


けれど、先輩からは核心的な言葉は出てこないため、本当にそうなのか気になって仕方がなかった。


ただ、俺自身が水城先輩のことをどう思っているかというと…よくわからない。ぶっちゃけ、これまで全く考えたことがなかった。本当に恋愛的な意味で水城先輩のことをどう思っているかは自分自身でもさっぱりわからない。…どうすりゃいいんだ。



そして、最後は水城先輩に食事もご馳走になってしまった…。


「今日は私のわがままに付き合っていただいているので、支払いは私にさせてください」

「いや、ダメですよ!普通に払いますから!」

「絶対にだめです」


結局そのまま押し切られる形で俺は水城先輩に奢ってもらってしまった…。


例の店員さんは俺にだけ聞こえる音量で「ひも野郎…」と呟いていたが、実際に奢ってもらってばっかりだし、色々情けなかったのであまり言い返す気にもなれなかった。



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