第13話 結界に挟まれた侍 2

「それでは独楽、改めて仕事の話をして良いか?」


 賑やかな朝食を終えると、若利がそう切り出した。

 独楽は満腹感いっぱいのまったりとした表情を引き締めて、若利の方に向き直ると「はい」と頷く。


「募集のチラシに書いてあった仕事内容は確か、区画の見回りや護衛、でしたよね」

「ああ、そうだ。きみの言った通り、頼みたいのはイナカマチ区画の見回り防衛、場合によっては俺の護衛と……あと、神雷結界絡みの仕事なんだ」

「神雷結界絡みの仕事ですか?」


 独楽が首を傾げた。


「うむ。イナカマチ区画の神雷結界は覚えているか?」


 そう言われて、独楽は昨日の事を思い出す。

 若利の言う神雷結界とはパオロと対峙中に若利が貸してくれた烏玉の事だ。あの時、独楽が神雷を込めた事によって、神雷結界は発動した――――ように見えたのだが、実際は違う。あれは独楽が烏玉に神力を込めた事によって、弱まっていた神雷結界が本来の役割を果たし始めた、というものだった。


 神雷結界とは、その物によっては多少効果は変わるが、大体は神雷の発動者や、発動者が指定した対象に向けて『悪意』や『害意』や『敵意』などの感情を持ったものを、神雷結界の内側に入れない、というものである。少しでも悪意等を持っていれば、神雷結界を通り抜ける事が出来ないし、万が一中に入っても弾きだされる仕組みである。区画規模で張るにはかなりの神力が必要になるため、イナカマチ区画のような小さな区画で利用される事が多く、逆に大区画では利用される事はない代物である。


 だが、そんなイナカマチ区画の神雷結界は、独楽がやって来た時点ではすでに烏玉に込めた神力の枯渇によってほとんど効力を失っていた。全くのゼロではないが、多少無理をすれば『悪意』や『害意』を持った者――パオロなどのリベルタ区画の人間など――でも入る事が出来てしまう状態になっていたのだ。


「一応は効力を発揮するようにはなりましたけれど、ボロッボロしていましたよね」

「うむ、ボロッボロしているのだ。きみのおかげで何とか持ち直したが、さすがにリベルタ区画のような事が頻発するのは困るのでな。そろそろ張り替えたいと考えている」


 それは確かにそうだろうと独楽は思った。区画の規模は、区画の強さにそのまま比例する。数は力である。大規模な区画には広さの分だけ大勢の住人達がおり、その数で攻め入られてしまえば小規模な区画は手も足も出ない。万が一、小規模な区画に一騎当千の英雄のような存在がいたとしても、一人で大勢に対抗するには限度がある。それ故に小区画では、大区画に対抗する手段として神雷結界運用による防衛手段が用いられていた。


「そうですね。確かにいくら神力を込めたとしても、わたしが行ったのはあくまで神雷結界を維持するための神力の補充に過ぎませんから、神雷結界を張った当初の効力には戻りません。出来れば張り直す方が良いと存じます」

「きみもそう思うか。……それで、先ほどの仕事の話に戻るのだが。その神雷結界を張り直す役をきみに頼みたいのだ」

「わたしですか?」


 振られた役割に独楽は目を丸くした。

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