第797話 出でよ須佐之男!

 準備を終えた藍大は七つの大罪と四聖獣、エルを連れて月にやって来た。


 ゲンとドライザー、エルが藍大に憑依していることにより、今の藍大は戦う魔神フォームとなっている。


 リルの<時空神力パワーオブクロノス>で月まで一瞬で移動し、サクラの<運命支配フェイトイズマイン>で月でも地球と同じように行動できるようにすれば、藍大達が困ることは何一つない。


 月面に既にモンスターが溢れていたとしても、藍大達はそれを気にしない。


「邪魔だゴラァ!」


「消えてくれる?」


「アタシだって戦うのよっ」


「狙い撃つです」


『ヾ(・▽<)ノ ヒャッハー!』


 藍大の嫁が全員揃うとクレーター周りにワラワラとモンスターが集まっていようが一瞬で掃討される。


 (ゴブリンキングとかオークキングとかが雑魚モブ扱いって異常だろ)


 その一方、藍大は舞達に倒されたモンスターがキングと付くモンスターだけだったことに苦笑していた。


 ゴブリンキングとオークキング、コボルドキング、サファギンキング、オーガキングのようにキングばかりがダンジョンらしき穴の周りにいたのだが、舞達は瞬殺した。


『ご主人、オークキングのお肉は回収しなきゃ』


「回収は吾輩に任せるが良い」


 リルが藍大に肉の確保を促せば、ブラドが<完全解体パーフェクトデモリッション>で無駄なく解体して<無限収納インベントリ>にしまった。


「キングの大安売りだったニャ。ミーも1体ぐらい倒しときたかったニャ」


『フィア達が戦う暇がなかったね~』


 ミオとフィアは戦いたかったようだが、ダンジョンに入る前の前哨戦で総力戦をする必要はないので藍大は両方の頭を撫でて落ち着かせた。


 その後ろで舞達が順番待ちをしていたので、当然藍大は舞達の頭も順番に撫でていく。


 舞達を労い終えた後、藍大達は各種キング達が守っていた穴の前までやって来た。


「壁に沿って階段が続いてるってことは、地下からスタートするってことかね?」


『そうだと思うよ』


 リルが藍大の疑問に答えたその時、穴が突然発生した邪気によって塞がれてしまった。


「藍大~、こじ開ける~?」


「いや、ここは俺が道を拓く」


 そう言って藍大は伊邪那岐から借りた天之尾羽張を上段から振り下ろす。


 天之尾羽張から放たれた斬撃によって邪気が消えたため、藍大は伊邪那岐からこの剣を借りて来て良かったと思った。


 しかし、微笑んだ藍大の顔はすぐに曇ることになる。


 何故なら、穴の底から牛の頭部のような兜に全身鎧武者の見た目をした巨人が上昇して来たからだ。


 その巨人の体は霊体であり、アンデッドモンスターのように見えた。


 それでもモンスター図鑑に表示されなかったことから、藍大はリルの<知略神祝ブレスオブロキ>でその正体を見極めた。


大禍津日おおまがつひって迦具土に憑依してた邪気から生まれた災厄の神じゃね?」


『兄貴! ワイを召喚してくれ! 奴と八十禍津日やそまがつひだけはワイが斬らなきゃならねえ!』


 藍大が大禍津日を鑑定してすぐに須佐之男命がテレパシーで訴えた。


 須佐之男命はマザコンであり、迦具土神を暴走させて伊邪那美を危険な状態に陥れた大禍津日と八十禍津日だけは許さないとずっと復讐する機会を待っていたようだ。


 いきなり相手が神で力を温存できないのは困るので、藍大は須佐之男命のリクエストに応じることにした。


「出でよ須佐之男!」


 藍大が正面に手をかざしてそう叫んだ瞬間、光の柱が藍大達の目の前に発生する。


 そして、光の柱から天叢雲剣を携えた須佐之男命が現れた。


「藍大が遂に須佐之男命を召喚したね~」


「神を召喚できるって従魔士のレベルじゃない。流石は主」


『ご主人はやっぱりすごい!』


 舞達は藍大が須佐之男命を召喚したのを見て誇らしげだった。


 この戦いは須佐之男命に譲るつもりらしく、舞達は手を出さずに観戦する気満々のようだ。


 須佐之男命は月面に出て来た大禍津日に対して跳躍して距離を詰める。


「チビなんて握り潰してくれる」


 大禍津日はその巨体から須佐之男命を全く恐れていなかった。


 それゆえ、特に構えることもなく手を前に伸ばして須佐之男命を掴んで握り潰そうとしたのだ。


「キェエエエエエ!!」


 須佐之男命は空中で体を横に捻り、猿叫と同時に回転斬りを放った。


 高速で回転する天叢雲剣に触れた途端、大禍津日の手どころかその体すらあっさりと真っ二つになってしまった。


 それだけでなく、大禍津日の体は切断された直後に黒い粒子へと分解されて爆散した。


 月面に着地した須佐之男命はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。


「まずは片方斬ってやったぜ」


「須佐之男、お前って強かったんだな」


「兄貴!? ワイってば英雄神とか破壊神としても知られてるんだぜ!?」


「そう言われてもさ、マザコンだし櫛名田比売の尻に敷かれてるから強い印象がない」


 藍大は須佐之男命が日本神話においてどんな存在か知っていたが、出会ってからの須佐之男命を見るとどうしても強い神だと思えないのだ。


 もっとも、目の前で大禍津日を仕留めてみせたのだから須佐之男命の実力は疑いようがないのだが。


「普段の行いのせいで強く感じられないんだからねっ」


「櫛名田比売と一緒に農作業を手伝ってくれてる働き手だと思ってたです」


『o( * ゚▽゚ * )o強かったんだー』


「あんまりな評価じゃねえか! よし、わかった! 八十禍津日も華麗に倒してワイの強さを見せつけてやんよ!」


 仲良しトリオの反応に須佐之男命は抗議し、もう一柱の復習相手も余裕で倒してやると宣言する。


「須佐之男がそんなこと言うから八十禍津日まで出て来ちゃったじゃん」


 フラグを立てた須佐之男だったが、その後すぐに黒い液体で構成された大きな土偶が穴の底から急上昇した。


 藍大の目にはその存在が八十禍津日だと判定できており、須佐之男命が立てたフラグがすぐに回収されたのを知って周りに共有した。


「よくも我が片割れたる大禍津日をってくれたな」


「八十禍津日だ! 八十禍津日だろう!? なあ、八十禍津日だろうお前! 首置いてけ! なあ!」


 須佐之男命は嬉々として八十禍津日を乱れ斬りにするが、八十禍津日の体は黒い液体で構成されていて斬られてもすぐに接合するのを繰り返した。


 (少しぐらい手助けしても良いよな?)


 大禍津日は油断してあっさり倒されたけれど、八十禍津日は須佐之男命の攻撃を受けてもほとんどダメージを受けていなかった。


 そうであるならば、藍大は早く戦いを終わらせるためにほんの少し力を貸しても良いのではないかと判断して実行する。


「止まれ」


 パンドラの<停止ストップ>を発動したところ、ゲンとドライザー、エルの能力値が藍大に上乗せされたおかげで八十禍津日の動きが完全に止まった。


「すまねえ兄貴! 後はワイが斬る!」


 須佐之男命はオーラを天叢雲剣に込め、八十禍津日の体をサイコロカットするつもりで斬りまくった。


 先程までの八十禍津日は乱れ斬りされてもその衝撃を外に逃がし、斬られた断面から綺麗に接合することで斬られたダメージを誤魔化していた。


 ところが、今回はその裏技を藍大に動きを止められて使えなかったため、須佐之男命のオーラで強化された天叢雲剣で乱れ斬りにされるがままだった。


 斬られた断面から八十禍津日は大禍津日のように黒い粒子へと分解されて爆散した。


 須佐之男命は八十禍津日が完全に消滅したことを確認してから天叢雲剣を鞘に納めた。


「兄貴、助太刀してくれてありがとな。おかげで母ちゃんを苦しめた八十禍津日もきっちり消滅させられたぜ」


「あれぐらいどうってことない。こっちこそ須佐之男のおかげで力を温存できた。きっと櫛名田比売が地下神域でハラハラして待ってるだろうから、早く帰って無事な姿を見せてやれ」


「おう!」


 藍大はニカッと笑う須佐之男命をシャングリラの地下神域に送還した。


 須佐之男命を見送ってゴルゴンとゼルがハッとした。


「しまったのよっ。須佐之男に見せ場を取られてしまったわっ」


『Σ(艸ωФⅢ)ニャンダトッ!?』


「ゴルゴンもゼルも落ち着くです。この後も強い敵が控えてるはずですから切り替えるですよ」


「そうねっ。その通りだわっ」


『( ´∀`)σ)д`)エエコトイウヤン』


 メロに説得されてショックを受けていたゴルゴンとゼルは気持ちを切り替えられた。


 まだダンジョンの中に入れていないのに災厄の神が2柱も現れたのだから、メロの言い分を恐らく正しいだろう。


「メロの言う通りだ。油断せずに行こう」


 メロの言葉で藍大は自分も含めて気を引き締め、それから藍大達は壁際の階段を下りてダンジョンへと侵入した。

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