第589話 リルは日本一、いや、世界一のモフモフです

 ガルフのPVが終わって次はリルかカームのどちらかのPVである。


「吉田さん、籤引きよろしくぅ! 次はどっちのペアだ!?」


「有馬白雪&カームペアです」


 志保が自分とカームの名前が書かれた球を引いたことに白雪は安堵していた。


 リルのPVの後にカームのPVを流したら霞んでしまうと思ったのだろう。


 番組的にもリルのPVを最後に回した方が盛り上がるだろうから、スタッフ達もホッとしているようだ。


 会場が暗くなってスクリーンだけが明るく光れば、観客達は自然とスクリーンに注目する。


 PVが始まるとスクリーンには白雪とカームが一緒に踊る姿があった。


 (その発想はなかった)


 リルが自分から踊ることはないのですっかり失念していたが、カームが踊る姿を見て藍大は白雪の発想に感心した。


 しかも、ちゃっかり白雪も隣で踊ることで自分の宣伝にもなっている。


『カーム、もうちょっと笑顔ー』


『ピヨー』


 白雪に笑ってくれと頼まれるが、カームはいつも通りの眠たそうな目をしていた。


 選曲は今流行りの曲であり、数々の芸能人が自分で踊っている動画を投稿しているものだ。


 それをカームが踊っている事実だけで十分インパクトがあるのだから、無理に笑顔までしなくても良いのではないだろうか。


 一曲通しで踊り切ると、PVの中のカームは決めポーズのまま止まっていた。


 踊りも曲も終わってまだ時間が20秒程残っているので、PVはまだ終わらない。


『カーム、ばっちり踊れてたね』


「ピヨ」


 踊り疲れた様子のカームは白雪に甘え、白雪がモフモフするとカームの表情が緩んだところでPVが終わった。


 最後の最後でカームがデレたものだから、観客席のモフラー達はカームのデレ顔がもっと見たいとあちこちで言っていた。


 会場内の照明が戻ってすぐにモフリー武田が口を開く。


「カームが踊るとは予想外だった! 審査員の皆さんはどう思った!?」


「モフモフのダンス、尊死とうとしするかと思いました」


「いやぁ好きですね~」


「最後のカームのデレが良かったです」


 (理人さんが元に戻ってる!?)


 ガルフのPVの時は普通にコメントできていた理人が元通りになっていたため、藍大はそこに注目してしまった。


 理人の中ではガルフへの同情の方がモフモフへの気持ちよりも強かったらしい。


「OK! みんな満足してるみたいだな! それじゃ採点よろしくぅ!」


 審査員達が決めた点数がスクリーンに一斉に表示された。

 

「吉田さん5点! 青空さん5点! 黒川さん5点! 合計15点! ガルフに続いて今回も満点だぁ!」


「カーム、満点だよ!」


「ピヨピヨ」


 自分に抱き着く白雪に対してカームは静かにやったねと応じる。


 観客席のモフラー達は全身モフモフしたカームに抱き着く白雪に羨望の眼差しを向けた。


 そして、カームのPVが終われば残すところはリルのPVである。


「いよいよ最後のPVだ! 第一種目、第二種目と満点だったリルが今回も満点になるか楽しみだぁ!」


 モフリー武田が煽るように言った後、体育館の照明が落ちてスクリーンだけが明るく光る。


 暗くなったことで会場が静かになると、お待ちかねのリルのPVが流れ始める。


 最初はリルがアップで映っていた。


『ご主人、朝だよ。起きて』


「「「・・・「「はうっ!」」・・・」」」


 リルのモーニングコールに会場のモフラー達が悶えた。


 開始数秒でモフラーを虜にしてしまうあたり、リルはやはりモフモフとしての格が違うのだろう。


 藍大が撮ったのは主観PVである。


 藍大目線でリルがどのように見えるのか観客達に見てもらう作戦なのだ。


 編集にはお祭り好きで動画編集もできる健太が協力し、藍大が自信を持って提出したのがこのPVだ。


『ご主人、お腹空いた!』


『しょうがないな。すぐに作るから待っててくれ』


『うん!』


 リルが嬉しそうに尻尾をブンブンと振ると、観客席のあちこちから尊いという声が漏れ出る。


 場面が変わって食事のシーンに変われば、リルが食いしん坊ズに相応しい食べっぷりを披露した。


 これにはここが楽園かとかいっぱい食べる君が好きなんて声まで聞こえて来た。


 食後に藍大の膝の上に座る姿にほっこりしたり、リュカやルナに対して夫や父親として振舞う姿に感心したりと観客達は忙しない。


 後半は場面がダンジョンに切り替わる。


『ご主人、宝箱あったよ!』


『流石はリル! リルに探せない宝箱はないな!』


『クゥ~ン♪』


 藍大に頭を撫でられて幸せそうな顔を見れば、観客席では尊過ぎてモフラー達が言葉を失った。


 モンスター相手に無双する姿やボスを楽々と倒す姿の後、最後は寝室で藍大のベッドに家族と一緒に潜り込むところでPVが終わった。


 会場が明るくなった時、観客席のモフラー達は気絶している者までいた。


「これは恐ろしいPVだ! モフラー達が気絶してるぞ! 審査員のみんな、今のPVの感想よろしくぅ!」


「リル君最高です! 毎日見たいのでこのPV後で下さい!」


「これ見ちゃうと調教士になりたくなりますよね」


「強くて愛らしくて最強のモフモフでした」


 (理人さんのモフモフへの思いが強まった!?)


 てっきり、いやぁ好きですね~と理人に言われると思っていた藍大は目を見開いた。


「これがモフモフというのがよくわかったな! じゃあラストの採点よろしくぅ!」


 モフリー武田に促された時には審査員達は既に結論を出しており、すぐにその結果がスクリーンに表示された。

 

「吉田さん5点! 青空さん5点! 黒川さん5点! 合計15点! 文句なしの満点だぁ!」


「やったなリル!」


『ドヤァ』


 リルは藍大にこれ以上ないぐらいのドヤ顔を披露した。


 そのドヤ顔を見てクラッと来てしまうモフラーの数は両手両足の指の数を足しても足りない程だ。


 全ての種目が終わったことで、後は3つの種目の合計点の発表を残すのみとなった。


「結果発ぴょぉぉぉぉぉ!」


 モフリー武田が全力で叫んで会場の注目を一身に集めた。


 スクリーンには出場した5つのペアが縦並びになり、それぞれのアイコンは従魔のものである。


「第一種目クイズの結果はぁぁぁ!?」


 リルが15マスでガルフが12マス、ニンジャとカームが11マス、マロンが10マス右に動いた。


 (振り返ってみるとリルってやっぱ賢いわ)


 リルがノーミスでクイズを制したことを思い出し、藍大はリルを誇らしく思った。


 それぞれのアイコンが止まったのを確認してから再びモフリー武田が口を開く。


「第二種目スポーツテストの結果はぁぁぁ!?」


 リルが15マスでガルフが11マス、ニンジャとカームが6マス、マロンが3マス右に動いた。


 (第二種目で一気に差が開いたな)


 トップのリルが15マスでビリのマロンが3マスとなれば、第二種目だけで12点の差が開いたことになる。


 この点差を第三種目で埋めるのは厳しいし、そもそも第一種目でリルとマロンは5点差だったからこの時点でマロンの優勝の可能性はなくなっていたのだ。


 リルのアイコンが止まったため、モフリー武田がまた口を開く。


「第三種目PV対決の結果はぁぁぁ!?」


 リルとガルフ、カームが15マスでマロンが14マス、ニンジャが11マス右に動いた。


「合計得点はマロン27点! ニンジャ28点! カーム32点! ガルフ38点! リル45点! 優勝は逢魔藍大&リルペア!」


 モフリー武田が藍大とリルの優勝を発表した途端、紙吹雪が会場内に盛大に舞う。


 リルは自分が優勝したことが嬉しくて仕方ないらしい。


『ワッフン、僕はMr,パーフェクトだよ♪』


「よしよし、愛い奴め」


「クゥ~ン♪」


 藍大がリルの頭を撫でていると、志保がトロフィーを持って近づいて来た。


「逢魔さん、リル君、トロフィーです。優勝おめでとうございます」


「ありがとうございます」


『ありがとね!』


「はわっ、ちょっとリル君をモフらせてもらえませんか?」


「お断りします」


「そんなぁ」


 トロフィーで手が塞がっているため、藍大はもしも志保がリルをモフろうとした場合に自身の体を壁にするしかない。


 志保が暴走する前にモフリー武田が助け舟を出した。


「優勝ペアのコメントよろしくぅ!」


「リルは日本一、いや、世界一のモフモフです」


『僕がNo.1モフモフだよ!』


「自信に満ちたコメントありがとな! 以上でMOF-1グランプリは終了だ! 第2回の開催を楽しみに待っててくれ! あばよ!」


 モフリー武田が番組の尺の都合で最後は早口で締め、MOF-1グランプリは無事に終わった。

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