第293話 舞、おかえり
優月が生まれてから1週間後の火曜日、藍大は朝から食いしん坊ズとゲン、ミオを連れてシャングリラダンジョンの地下5階に来ていた。
優月は身体的にハイスペックな舞の子であり、あっという間に首が据わって抱っこ紐で運んでも問題なくなったため藍大が抱っこして連れて来ている。
家でサクラや幼女トリオと留守番させていても良かったのだが、舞は赤ちゃんが一番安心できるのは親の傍だと力説するので藍大が面倒を見ている。
勿論、攻略最前線の層に行かないから連れて来たというのはあるが。
面倒を見るとはいえ、抱っこされている優月はぐっすり眠っているのでほとんど手がかからなそうだ。
「ブランクあるから地下5階からだね~」
「いや、普通はもっと緩い階層で勘を取り戻すんじゃね?」
「弱過ぎても困るから地下5階が丁度良いんだよ」
「舞がそう言うなら信じるけど、無茶はしないでくれよ?」
「わかった~」
舞は出産後にサクラの<
三次覚醒に加えて”暴食の女王”の称号を有していたおかげで力の衰えも最小限で済んでいた。
それゆえ、地下4階までだと物足りないから地下5階に行きたいと藍大に伝えたのだ。
地下5階の通路を進んで最初の闘技場に着くと、そこにはリジェネスライムとナーガ、マンドラゴラの混成集団の姿があった。
敵対するモンスターの姿を視界に捉えたことで、舞の戦闘モードのスイッチが入った。
「ヒャッハァァァァァッ!」
(舞、おかえり)
舞は母親になっても世紀末のチンピラも真っ青な勢いで突撃していく。
近くの敵に対して雷を付与したミョルニル=レプリカを振り回し、遠くの敵にはアダマントシールドをぶん投げる舞の姿を見て藍大はホッとしていた。
10ヶ月以上のブランクがあるにもかかわらず、地下5階の
舞の体は産休を経てなお戦闘を忘れていなかったらしい。
「ニャア・・・」
「ミオは舞が戦う姿を見たことなかったな。速やかに慣れてくれ」
「ニャッ!?」
家では可愛い物好きのゆるふわ美人だった舞がヒャッハーしているのはミオにとって衝撃的だった。
顎が外れてしまうのではと心配になるぐらい口を開いてしまうぐらい驚いていた。
もしもミオが喋れたとしたならば、正気ですかご主人と言ったに違いない。
ちなみに、優月は舞が叫びながら戦っていてもすやすやと眠っていた。
どうやら優月の方がミオよりも肝が据わっているようだ。
「ふぅ~。思ったよりも手応えないね~」
「お疲れ様」
『お疲れ~』
「騎士の奥方はやはり凄まじいな。ブランクがあってこれ程とは」
戦闘を終えた舞に藍大とリル、ブラドが声をかける。
全く危ない感じがしないものだから、藍大達の会話はどこか緩い。
それはそうとミオは”水聖獣”になるべく経験を積む必要があり、今日までの間でLv73まで成長した。
今までの経験からLv75で進化する従魔が多かったので、今日の探索が終わる頃にはミオが次の進化を遂げるだろうと藍大は推測している。
戦利品をテキパキと回収した後、藍大達は通路を抜けて2番目の闘技場へと移動した。
そこで空中から藍大達を見下ろしていたのはスチュパリデスである。
「久し振りだな焼き鳥ぃぃぃぃぃ!」
「プジョッ!?」
舞は叫びながら光を付与したアダマントシールドを投擲し、そんな舞に気圧されたスチュパリデスは腹部にその攻撃を受けて墜落した。
地下5階の”掃除屋”のくせに情けないと思うかもしれないが、スチュパリデスの立場に立ってみれば一目で強者とわかる者から遭遇した時点で焼き鳥扱いされればぎょっとしないはずがない。
地面に激突したスチュパリデスはこのままでは不味いと気を引き締め、立ち上がると同時に<
「無駄だぁ!」
アダマントシールドが手元になくとも舞は光のドームを展開できる。
ブレスをあっさりと防がれてしまい、スチュパリデスは慌てて空に逃げようとする。
「リル、スチュパリデスの動きを止めてやれ」
『わかった!』
リルが<
「ぶっ飛べオラァ!」
舞がミョルニル=レプリカをフルスイングしてスチュパリデスは後ろに吹き飛ばされた。
背中から地面に落ちたスチュパリデスはHPが尽きて動かなくなっていた。
『ミオがLv74になりました』
「ニャア・・・」
「出番がなかったのが寂しかったか?」
「ニャン」
「カトブレパス戦は・・・、やっぱり出番がないかもな」
「ニャ!?」
ミオは出番がないんですかとツッコまんばかりに鳴いた。
そこにアダマントシールドを拾って舞が戻って来た。
「さっきよりは手応えあったよ。リル君、アシストありがとね~」
『どういたしまして』
「カトブレパスも連戦で大丈夫か?」
「へっちゃらだよ」
「ニャア・・・」
マジですかとミオは悲し気に鳴いた。
その哀愁漂う感じが舞を刺激したらしく、ミオは気づけば舞に抱き抱えられていた。
「ニャニャッ!?」
いつの間にとミオは驚くが、可愛い物好きの舞にとってこれぐらいの身のこなしはできて当然である。
「もう可愛いね。うりうりうり~」
「ニャア」
あれこれと考えた結果、舞には敵わないと判断してミオはされるがままとなった。
藍大達はスチュパリデスの死体を回収した後、取り出した魔石はカトブレパスの分と併せてミオに与えることにして先へと進んだ。
ボス部屋に該当する闘技場に移動すると、カトブレパスが舞達を見て驚いた。
「モォ゛!?」
カトブレパスが驚くのも無理もない。
何故なら食いしん坊ズが食材を見る目で自分を見ているのだから。
「牛肉だ! お前牛肉だろう!? 肉置いてけぇぇぇ!」
『お肉~!』
「ビーフシチューを所望する!」
「モォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛!?」
カトブレパスは食いしん坊ズの迫力にやられてコントロールを誤り、<
思い切り深く穴を掘ったせいでカトブレパスは落下の衝撃でHPを全損した。
『ミオがLv75になりました』
『ミオが進化条件を満たしました』
『ミオのアビリティ:<
『ミオがアビリティ:<
(久し振りに虚しい決着だったな)
システムメッセージが鳴り止むと、藍大はカトブレパスの自滅に虚しさを感じずにはいられなかった。
その気持ちは食いしん坊ズとミオも同じだったが、終わってしまった者は仕方がないのでカトブレパスの死体を回収した。
それが終わってから藍大はミオに話しかけた。
「ミオ、進化するか?」
「ニャ!」
「わかった」
勿論だと頷くミオに対し、藍大は視界に映したモンスター図鑑にある進化可能の文字に触れた。
その瞬間にミオの体が光に包まれ、光の中でミオのシルエットに変化が生じた。
四足歩行だったミオが二足歩行へと変わり、どこからともなくテンガロンハットとマント、長靴が現れてミオがそれを装備した。
身長は幼女トリオと変わらず小学生ぐらいまで成長すると光が収まった。
その結果、茶色いテンガロンハットとマント、長靴をはいたミオが現れた。
額に白い雫のマークがある水色の体表の猫又なのは進化前と変わらない。
『ミオがフェアリーキャットからケット・シーに進化しました』
『ミオのアビリティ:<
『ミオのデータが更新されました』
「長靴を履いた猫だな」
「か~わ~い~い~!」
「落ち着いてほしいニャ!」
『喋れるようになったんだね』
「騎士の奥方のテンションが高まる一方であるな」
藍大とリル、ブラドはミオが舞に抱き着かれて可愛がられるのをぼんやりと見ていた。
その中でもブラドが遠い目をしていたのは言うまでもない。
舞が落ち着くと藍大はミオにスチュパリデスとカトブレパスの魔石を与えた。
『ミオのアビリティ:<
『ミオがアビリティ:<
『ミオのアビリティ:<
進化と魔石の影響で”水聖獣”にかなり近づいたのではないかと思い、藍大はモンスター図鑑でミオのステータスを確かめた。
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名前:ミオ 種族:ケット・シー
性別:雌 Lv:75
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HP :1,700/1,700
MP:2,100/2,100
STR:1,500
VIT:1,600
DEX:1,900
AGI:1,900
INT:1,900
LUK:1,600
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称号:藍大の従魔
ダンジョンの天敵
アビリティ:<
<
<
装備:フェンサーシリーズ
備考:疲労
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(能力値と聖なる力を帯びたアビリティが手に入れば”水聖獣”になりそうだな)
「ミオ、また強くなったな。これで次からは一緒に戦えるぞ」
「やっとかニャ!? 待ってたニャ!」
「よしよし」
今日はまだ一度もまともに戦っていないため、藍大にそう言われて舞に抱き着かれたミオはホッとした。
まだまだ正午までは時間があるので、藍大達は地下6階へと進んだ。
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