火竜の警告
「いつかこの家に、無事で戻って来れますように」
シンは祈りを込めて、神官の鍵で施錠する。
「さて、出発の前に、こんな夜分に挨拶もなく、サラの森に入ろうとした無礼者たちに挨拶をしに行こう。」
サラがぎゅっと目を瞑ると、ぐぐぐっと体の筋肉が盛り上がり、初めて会ったときよりも大きなサイズになった。
そして、尻尾を滑り台のように下げて、5人に背中に乗るように促しながら、にやっと笑う。
「特等席で見せてやるから、上手に隠れておけよ」
森の入り口では、兵士たちが無声音で合図しながら森を取り囲んでいた。
『森の悪魔はあくまで伝説だ。』『どうせ、狼か何かの遠吠えを勘違いしただけだろう。』
兵士たちは、中央からきた上官の檄を思い出し、心を落ち着ける。
大丈夫だ、あとは上官の指示を待って突入のタイミングを待つだけ…そう思いながら息を深く吐いた時、兵士たちは地響きのような咆哮を聞いた。
彼らが呆然と見上げると、そこには、兵士たちがかつて子供の頃、絵本で見たよりも何倍も大きなドラゴンが空を飛び、自分たちを見下ろしていた。
ドラゴンは、冷たく太い声で兵士たちに告げる。
「御主らか、我の再三の警告を無視して、森に入ろうとする命知らずどもは。」
兵士たちは冷や汗で滑り落ちそうになる武器を必死に握りなおす。
その様子をみたドラゴン…サラはさらに続けた。
「我は安らかな時間を冒されて、虫の居所が悪い」
怒りの声と共に、ドラゴンの口から勢いよく出た炎は、兵士たちの顔を照らしながらその奥の無人のテントを燃し尽くす。そのまま、ドラゴンは兵士の目の前にも炎の息吹を吹きかけた。森の手前はあっという間に炎に包まれ、兵士たちの皮膚を熱風が撫ぜた。
「嗚呼、御主たちのせいで、先に入った小物共々森に火をつけてしもうた。」
そして笑うような咆哮を短く繰り返した後、兵士たちに向けて吐き捨てた。
「後で見てみるがよい、これ以上我を怒らせれば、同じようになるぞ。」
闇の中で炎に照らされて、ドラゴンの赤い鱗が冷たく光る。
兵士たちは、ドラゴンへの恐怖と、炎の熱で、汗が止まらず、握りしめる力も入らない。
カランと武器を落としてしまう音がいくつも聞こえた。
その音すら打ち消すように、大きく羽ばたいたドラゴンは、最後の警告を放った。
「ああ、もう一つ、我の棲家はここだけではない。主らが何をしたいのかは知らんが、焦土の一部にならぬよう、旅先にも努努気をつけろ。」
100年前の災厄は思い出したくないだろう。
そう言い残したドラゴンは、そのまま、高く空へ舞い上がり、すぐに見えなくなった。
しかし兵士たちは、夜明け近くに、雨が森の炎を抑えるまで、その場を動けずにいた。
高く舞い上がった、ドラゴンの背中では、子供たちの声が飛び交っていた。
「さらかっこいい!」
「いや、こえええよ。俺ちょっとちびりそうだった」
「人の背中で粗相などするなよ。燃やすぞ」
レナードがきゃーと叫ぶ。
一方で、シンだけはここまで悪者にならなくても…と少し不満げにしていた。
「なにも100年前のことも自分がやったみたいに言わなくても…」
「だが、これで奴らも、森の燃えた服と骨を見たら、御主たちが死んだと思うし。あまりドラゴンを刺激しようとは思わぬだろう」
気休めでも最善だ、小さくつぶやいた言葉はセル以外には聞こえなかった。
「あと、あまり話していると舌を噛むぞ、気をつけろよ」
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