逃走準備

 一週間後


 悪魔の森では、初めて出会った川のそばで、レナードとセルがサラから稽古を受けていた。


「む」

 二人からの攻撃を避けながら、何かに気づいた様子のサラは鼻を少しピクリとした後に、初めて合った時のような大きな咆哮をあげた。

「サラ、急に遠吠えするのやめてって言ったじゃん」

 レナードが耳を塞ぎながら抗議の声をあげる。

 サラは咆哮の残響に耳を済ませた後に、悪い悪いとレナードに謝った。

「なにやらうるさそうな奴がいたからな、追い払っておいた。」

「またー?」

「ああ、お前たち二人とも休憩だ、休んだ後は二人で組手でもしておきなさい。」


 サラは体を一回り小さくして、シンとジェマたちのいる方に飛んでいった。

 ジェマがちょうどサラの叫び声に驚いて、サンが摘んでくれた花を爆発させてしまったところだ。花をなんとか元に戻せないかチャレンジしているシンにサラが声を掛ける。

「奴らだんだん数が増えておるな」

「奴らって…エジムの追手?」

 シンは手を止めてサラに向いた。


「ああ、今はおそらく、様子見だ。統率も取れていない。」

 ただ、以前より確実にしつこくなってきている。この生活ももうそろそろ限界かもしれない。

 サラの言葉に、シンは花を持ったまま神妙な顔をした。

「持ってどれくらいだと思う?」

「人の世のことはわからぬが、7日間あるかどうか」

 ここでの暮らしは結構好きだったのに、案外短い運命だった。


 その日の晩御飯の後は、久しぶりの作戦会議になった。

「エジムの追っ手がくるかもしれない。」

 シンの言葉にみんなの顔が強張る。

 一番年下のジェマはサンの元に擦り寄り、抱きついた。


「しょけいこわい…」というジェマの声と共にコロンコロンと音なり、床に青い石が落ちる。


 捕まったら、また、処刑をされてしまう。

「だから捕まる前に逃げよう」

 シンは今もあの時を思い出すと、足の先がジリジリと鈍い痛みが走る。

 二度とあの景色は見たくない。


 みんなが頷く中、静かにすすり泣くジェマの足元には青い石がポロポロと落ちる。

 セルが拾い上げた後、「サファイアだね。多分これだけあれば、一ヶ月は暮らせるけど…」と肩をすくめる。へぇ、宝石ってそんなに高いんだ。

「ジェマ…あなたの宝石をみんなで逃げるために売ってもいい?」

 シンはかがみ込み目線をジェマに合わせて問う。

 なおも小さな、サファイアを床に落としながら、ジェマはこくんと頷いた。


「だとすると、逃げる先はここがいい」セルが二階から持ってきた地図を広げて指をさす。

 そこはエジムから東に、大きな山をいくつか超えた先の国だった。

「遠くの国だけど、旅の人のための国だから、異国の旅人も多いし、サファイアを売りに旅人が来ても怪しまれにくいと思う」

「お前は本当に天才だなぁ」レナードがわしゃわしゃとセルの頭を撫でる。

 セルは心なしか誇らしそうな顔をしていた。


 シンとサンもセルに調べてくれてありがとうとお礼を伝える。

 目的地が決まれば、あとは準備をするだけだ。

「その国に行くとしたら長旅になるね」

「準備は何からしておこう…」

 その後は、準備物のリストアップをしていて夜が更けて行った。


 ーーーーーーー

 おまけ

 サラ「奴らが攻めてきたら、サラが飛んで連れて行ってやろう。ギリギリまで準備すればいい。」

 サン「え、サラって乗れるの?」

 レナード「乗り心地わるくないかな」

 ジェマ「とちゅうでちっさくなったりしない?」

 サラ「わかった、絶対振り落とす」

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