第38話 シャラは娘には過保護でしたが、「嫌われるぞ」の大賢者の一言に固まってしまいました
一方、マーマ王国の出方も気になったシャラは、ジャルカに頼み込んでクローディアの魔術訓練を再開してもらっていた。
魔力量だけ多くて、実際はほとんど魔術が使えないクローディアは、それを嫌がったのだが、
「性格は悪いが教え方は世界一だと思うぞ」
と言うシャラの言葉に仕方がなく従う形になった。
「出よ、炎」
クローディアは構えて唱えるが、小さな火がぽっと出ようとして引っ込む。
「もう一度」
ジャルカの厳しい声がする。
「出よ。炎」
再度やるが、全く同じだ。
「もう一度」
「出よ。炎」
「声が小さい!」
ジャルカがきつい声で叱る。
「はいっ、すいません」
「もっと心の中で、イメージしてやってみるのじゃ」
ジャルカがアドバイスする。
しかし、それが難しいから出来ないのだ。ちゃんちで来たら今頃出来ている。
クローディアは心の中でブツブツ思った。
「出よ炎」
クローディアが詠唱するが声が小さい。
「声が小さい」
ジャルカが注意した。
「出よ!炎!」
大声を出すが、今度は小さい炎が出ようとして引っ込むだけだった。
「おのれ、ジャルカめ。クローディアに厳しすぎるぞ」
それを歯ぎしりしながら、ステバンの影に隠れてシャラは見ていた。
ブルブル手が震えている。
「姉御。隠れてみていなくて傍で見ればいいではないですか」
ステバンが言うが、
「あ、あいつ、しばいた。許さない・・・・・」
しかし、シャラは何とか飛び出すのを我慢した。
その代わりに思いっきりステバンを叩く。
「痛い、姉御止めて」
「うるさい。静かにしていろ」
結局ステバンは訓練が終わるまでシャラに叩かれ続けたのだった・・・・・
「ジャルカ、お前、クローディアに教えるのに厳しすぎるのではないか」
クローディアが訓練場を泣きそうになりながら去った後で隠れていたシャラはジャルカに噛み付いた。
「これはしたり、儂の訓練が厳しいのは弟子のその方が知っているはずでは」
ジャルカはニタリと笑って言った。
「それはそうだが、厳し過ぎないか」
「その方にはもっと厳しくしておったと思うが」
ジャルカに言われてそう言えば何回もジャルカには叩かれていたのを思い出していた。
飛行訓練と称して千尋の谷に突き落とされたことも一度や二度ではない。
それに比べれば確かに優しくはなっていた。
「それはそうだが」
「お主は娘に甘すぎるのじゃ。でもそれでは良くなかろう」
「ジャルカはそう言うが、私のせいでクローディアがあんな目にあったかと思うと」
シャラは娘のクローディアを残して、国のためとはいえ自爆攻撃をかけて地獄に落ちていたという負い目がある。それもあんな悪魔のコニーに預けたなんて。かわいいクローディアを離してしまったことは反省しても反省しきれないことはなかった。
もう絶対にクローディアを酷い目には合わせはしない。
シャラは心に決めていた。そのためなら国の一つや二つ消滅させる覚悟はあった。
「確かに悪いのはすべてお主じゃ。しかし、娘もこれからは自分で歩いていかねばなるまい。いつまでもお主が面倒を見続けるわけには行くまい」
「いや、私は死ぬまでクローディアの側にいるぞ」
当然のようにシャラは言った。
「愚か者。成人を迎えた娘といつまでも一緒にいる親がいるか」
ジャルカが叱りつけた。
「しかし、ジャルカ」
「しかしもクソもあるか。もうクローディアはいつまでも子供ではないわ。それに彼氏でも出来てみろ。そばにいる親は邪魔なだけじゃ」
「何!彼氏だと。そんな者は許せん」
シャラは傍にたっていた木を殴りつた。
グァーン
凄まじい音がして根本から音がして木が倒れる。
周りにいた者達は、慌ててシャラの周りから退避する。
「お主は父親か。お主も結婚しておっただろうが。自分が良くて娘はダメだと言うのか」
「結婚などしても苦労するだけだ。男はすぐにいなくなったし」
シャラは自分を振り返って言った。
兵士だった夫のビリーは偵察に出たきり帰って来なかった。シャラはその中クローディアを一人で育てていだのだ。
しかし、シャラはその大切なクローディアまで見捨ててしまったのだった。
「あああ」
シャラはまた後悔で死んでしまいそうだった。
「いつまでも娘離れで来ていないと、クローディアに嫌われるぞ」
「えっ」
クローディアはジャルカの爆弾発言に固まってしまった。
かわいいかわいいクローディアに嫌われる・・・・
そう思うとシャラは耐えられなかった。
「本当か。ジャルカ」
慌ててシャラはジャルカに食いついた。
「それはそうじゃろう。子供は大人になると親からは離れていく。それをいつまでも親がそばにいてみろ。鬱陶しがられるし、お前みたいなのがそばにいて男が寄ってこなくなってみろ。絶対にお前が嫌われるぞ」
「そんな」
シャラはガーンと頭を殴られたような顔をして固まった。
シャラは今でも殆どクローディアと話せていないのに、嫌われるもクソもないんじゃないかとチェレンチーは思ったが、黙っていた。
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ここまで読んで頂いてありがとうございます。
本日もう一話更新します
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