第43話 死刑宣告
カインとアガサが魔物の軍勢を迎え撃った地点、そこでは雪原を埋め尽くし、雪の白さでも覆い尽くせないほど、無数の魔物の死骸が転がっていた。
赤毛の悪魔リーナの喚び出した転移門は、すでに跡形もなく消し飛ばされている。
「うひゃー! さすがカインさん、やることがめちゃくちゃすぎだよ。これ片付けるのどうしよう?」
そこに足を踏み入れたのは、寅旅団長トクダ・オサフネ、ムラマサ、シズ・チズの四名、戦いの後の激しさに感嘆の声を上げるだけだった。
「……えっと、カイン殿たちの姿がありませんね?」
「ま、先に行ったんじゃないかな? あの人、ミカちゃんのことになると周り見ないし。さて、オレたちも急ぐよ? 『剣神』の戦いは絶対に見逃しちゃダメだ。上に登りたかったらね!」
「「オサフネ様、お待ち下さい! 速すぎです!」」
童心に帰ったかのように先を急ぐオサフネをムラマサたちは慌てて追いかけた。
そのオサフネたちを岩陰で見つめる一つの影、赤毛の悪魔リーナだった。
「うふふ。役者が揃ってきましたね。私も次の配置につきますか」
リーナは転移門を喚び出し、妖艶に笑いながら消えていった。
☆☆☆
何だろう、この安心感は。
これが最強の男が味方にいるということなのか?
絶対的な信頼感がある。
「ハハ。カイン隊長が来てくれた」
「……カイン? まさか裏ボス『破壊神』カインか!?」
僕のつぶやきを聞いた仮面の悪魔は、驚きの声を上げた。
しかし、仮面の悪魔はすぐに余裕の表情で笑い出した。
「アハハ! VRMMOとシナリオが違うけど、まさかラスボス『魔王』トクダ・クニツナを超える裏ボスがやってくるなんて! ここでこいつを殺すとどうなるんだ? 面白い! 『魔王軍』なんかどうでもいい!」
「ああん? 何意味わかんねえ事言ってんだ、このクソは? ただのアホか?」
「バカにするな! 僕は『勇者』だ! 喰らえ『絶対切断』!」
悪魔は怒りに任せて剣を振った。
空間が切り裂かれ、カインの背後の大岩が真っ二つになった。
だが、そこにカインの姿はなかった。
「チッ! かわされたか! 裏ボスは流石にNPCとは少しちが……」
「ぐぎゃはぁあああ!?」
「え? リュ、リュウ!?」
見失ったカインの姿を認めた瞬間、仮面の悪魔は驚愕の声を上げた。
もうひとりの悪魔リュウが、ミカエラとディアナを捕らえていた紐を持つ両手が斬り飛ばされていたからだ。
両腕の切断面から鮮血を撒き散らし、痛みに悶え苦しんでいる。
「俺の大事な宝物に汚えもんで触れやがって。このチンカスが」
カインは殺気を出しながらリュウを見下ろし、ミカエラとディアナの前に護るように立っていた。
何をしたのか、僕には、おそらく悪魔たちにも見えていなかった。
「カ、カイン伯父さ……」
「ミカ、俺が来たからには何も心配はいらねえ。後は俺に任せろ。……ミサ!」
「分かってるわよ!」
アガサもいつの間にかやって来ていて、クロたちに式神による回復魔法をかけていたようだ。
ミカエラたちの元に回復魔法をかけようと歩いていた。
「ひぃいいい! い、痛え、痛えよぉおおお! 何だよこれ、バグ!? 運営何してんだよ! ログアウトだ、ログアウト! こんなクソゲーやってられっか!」
「おい、リュウ、落ち着け! ここは異世界だ、ゲームとはちが……ああ!?」
「うるせえ、黙れ」
意味のわからないことを喚くリュウの首をカインは一閃して刎ね飛ばした。
その首は駆けてきたオサフネの足元で止まった。
その首を見てオサフネは一瞬不快そうな顔をしたが、カインと仮面の悪魔が対峙していることを見て取ると、安堵して笑った。
「ああ、よかった、間に合ったか。カインさんの戦いはオレたち旅団長クラスでも滅多に見れないんだ。我の強いオレたち旅団長ですら最強と認める男の戦い、瞬きの間も惜しむなよ、ムラマサ」
ムラマサたちも息を切らせながらオサフネの後ろに立った。
みんなカインの戦いを見るためにやって来たのか。
最強をその目に焼き付けるために。
僕だって!
「リュウのバカめ。ゲームとは違うって最期まで認めないんだから、当然の報いだな」
仮面の悪魔は、カインの圧倒的な力を前に余裕でニヤついている。
たったひとりで迎え撃つつもりか?
そうか!
コピー能力、まさかカインのあの動きですら?
この悪魔は僕たちからしたら圧倒的な実力だった。
しかもカインの動きを見て、さらに強くなったというのか?
でも、カインはこの世界で最強、激闘の予感が……
「……どいつもこいつも勘違いしてんじゃねえぞ。今から起こることは戦いじゃねえ、ただの処刑だ」
カインは、僕たちの期待にただ静かに冷たく死刑宣告をした。
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