第8話 カーリー
―とある南国のリゾート地にて―
「カイン隊長、情報通り『異世界の悪魔』がやってきました」
「わかった、リー。俺が行くまでそのままヤツを見張っていろ」
「は、了解しました」
俺は通信魔道具の耳飾りを使い、副長のリーに指示を出した。
リーに合流するため、南国の茅葺屋根の上を気配を消しながら跳んでいった。
「ヤツはどうだ?」
俺はリーの背後に降り立ち声をかけた。
リーは異世界の悪魔を張り込みしながら建物の影に隠れている。
「ええ、ヤツはあそこの高級娼館に入っていきました」
「けっ、昼間から女を買いに行くたぁ、いい身分だぜ」
「そうですね。帝国がわざわざ異世界から召喚して高い地位に就かせていますから、ヤツラはやりたい放題ですよ。まあ、悪魔どもは不思議な能力を持っていますので、帝国が利用したい気持ちはわからないでもないのですが」
「ふん、関係ねえ。悪魔どもの好きにはさせねえぜ」
俺たちが話をしていると、娼館の窓から合図の白い布がはためいた。
すぐに話をやめて俺たちは顔を引き締めた。
「よし、行くぞ!」
俺たちが娼館の中に踏み込むと、皮の被った小さいモノを固くさせた脂肪の塊の悪魔は、喉を切り裂かれ鮮血を浴槽に撒き散らしていた。
悪魔の目の前には、一糸まとわぬウサ耳獣人の幼い少女が腰を抜かして座り込み、大理石の床の上を濡らしている。
「けっ! ガキを買いに帝都からわざわざ来るとは、毎度のことながら悪魔どもにはろくな奴がいねえな」
「そうですね。特に、人工的に召喚される悪魔は気持ち悪いやつばかりですね。なまじ人間に似ている分、余計に胸糞悪……」
「……ねえ、ボクがその気持ち悪いの始末したんだけど、何にも言ってくれないのかな?」
俺とリーが悪魔をけなしていると、特殊部隊諜報員『黒影』カーリーが黒いフードから口を尖らせているのが見える。
う、まずいな。
こいつの機嫌を損ねたら後が怖えぜ。
「お、おお。ご苦労だったな、カーリー。後始末は俺たちがするから先に帰っててくれ。後でちゃんとお礼をするからよ」
「ふふん。約束だよ?」
カーリーは鼻歌を歌いながら足取り軽く帰っていった。
どうやらご機嫌なようで、とりあえずホッと一安心だ。
「さてと、帝国に気づかれる前に偽装工作をしないといけませんね」
リーはテキパキと作業をしていたが、俺は帰ったらどうしようか頭を悩ませていた。
☆☆☆
「うふふん。何おねだりしようかな?」
黒いローブを頭から深く被ったままのカーリーは、ヤマト王国の王都に転移魔法で帰ってきた。
足取りは軽やかにスキップをしているように見える。
帰宅途中のカーリーは、竹林の中の神社から腹を立てているような不思議な黒猫を見かけた。
首をひねって不思議そうに見ていたカーリーは、神社の境内に入っていった。
「あれ? 男の子が倒れているぞ? うーん、どうしようかな? ……ん? この制服は見たことが……そうだ! 起きるまで、お家で看病しよう! うんうん、ボクって優しいなぁ!」
カーリーは、倒れていた少年を片手で軽々と持ち上げ、肩に担いで帰っていった。
☆☆☆
―そして、二つ時が交わる―
「え、え、ええ!!?」
「どうしたの!? 何、今の変な声は!?」
ドアが勢いよく開けられると、僕は再び飛び上がらんばかりだった。
「ええ!? き、君は!?」
「あ! あなたは!」
ミカエラは僕を見ると、口を手に当てて驚いているようだ。
騒ぎの元凶である褐色肌の美女だけは、のんきに笑顔で首を傾げている。
「ん? ミカの知り合い?」
「そ、そうだけど。おねえちゃん、服を着て!」
「おお! 服を着るの忘れてた、ニャハハ!」
女性はミカエラに言われて、やっと服を着てくれた。
ミカエラは学校では冷めた感じがしているが、女性の奔放さに振り回されて焦ってあたふたしている。
「……それで、どうして、君がここにいるの?」
ミカエラは落ち着いたようで、いつもの無表情な冷静さを取り戻したようだ。
リビングに移って紅茶の用意をしてくれ、ソファーに座る僕の前のテーブルに置いてくれた。
「ぼ、僕もよくわからないんだけど。目が覚めたらここにいて……」
「それは、ボクが倒れていた少年を看病してあげたからだよ」
「はぁ、まったくもう、おねえちゃんは常識がないんだから。普通は病院に連絡するでしょうが」
ミカエラは頭に手を当てて呆れているようだ。
「ニャハハ! 細かいことは気にしないのだ。ところで少年は誰なのかな?」
僕は女性に自己紹介をした。
女性も僕に自己紹介をしてくれ、ミカエラの従姉妹、カーリーという名前だった。
見た目は、雪のように白い肌のミカエラとは違って、野性的でエキゾチックな褐色の肌で、性格は対照的に明るく奔放な感じだ。
でも、宝石のようにキレイな白金の瞳は同じだった。
「そうかー。あの誰も寄せ付けなかったミカにもボーイフレンドが出来たのかー」
「お、おねえちゃん! 違うから!」
カーリーにからかわれて、ミカエラは赤い顔をして怒っている。
学校では見たこともないギャップに、僕は思わず笑ってしまった。
久しぶりに本当に笑ったような気がして、涙がこぼれた。
「どうしたのだ、マンジ少年?」
「いえ、何でもありません。ただ、ちょっと嫌なことがあったもので」
「そうかい? 何があったのかはわからんが、大変だったのだな、よしよし」
カーリーは僕を慰めるように僕の頭を抱いてくれた。
大きな弾力のある母なる大地に顔が包み込まれて色々と火照ってきた。
その時、激しくドアの開け放たれる音が部屋中に響いた。
「……おい、テメエ、俺の娘に何してやがる?」
開いた玄関ドアには、目付きの悪い白金の瞳の男が、額に青筋を浮かび上がらせて殺気を迸らせていた。
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