ラストテレパシー -The Last Telepathy-
原田 実季
第一章 マスター(1)
墨を流したような暗い空の下、雪が降りしきる荒涼とした大地を、一人の女性が走っていた。
長く黒い髪を乱し、息を切らしながら。
ふと、彼女の姿が掻き消えた。雪の中に溶け込むように。
と思うと、再びまた現れては消え、現れては消えを繰り返す。その間に人とは思えない速さで移動していたのだ。
彼女は、普通の人間ではない。
人がもともと持っている、しかし埋もれている能力を最大限に引き出せる力を持っていた。一般の人間から見れば、それはきっと、“超能力者”と呼ばれていたことだろう。
彼女は“マスター”と呼ばれる者のひとりであった。
数キロにも及ぶ荒野を自らの足のみで走りぬけること小一時間。彼女は、とある巨大な施設にたどり着いた。
白いその建物は、吹雪の中に溶け込むように聳え立っている。直線のみで構成された、無機的とも言えるその建造物に、彼女は吸い込まれるように消えていった。
建物の中へ入ると、彼女はオーバーコートに付いた粉雪を払い、頭に被っていた軍帽を外す。長い黒髪がふわりと流れる。乱れた髪を整えると、再び軍帽を被りなおし、その場に直立した。
ほどなくして、すっと目の前に男が現れた。既に年を重ね、顔には相応の皺が刻み込まれていたが、リーダー格たる威厳を漂わせている。
彼女はその男に敬礼すると、凛とした声で報告する。
「ラスタス、ただいま戻りました」
彼女の名は、ラスタス。並外れた能力を持つ者・“マスター”のひとりである。
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