真実・1-2
「実際、その場合の未来も視えております。
私が存続し続けた世界線――。
しかしそこに孕む忌避の事を、明かしてよいものか、どうか、とても微妙なところです――。アンヴァーテイラに教えられた人間のデリカシィという領域を、明確に侵す、実情であるので。
ミスティアのそれに深く踏み込む事情です。
それを聞くかどうかは……リプカ様、どうか、貴方様が決めてください」
「……聞かせてください」
リプカは瞳を瞑った一拍の後、シュリフを見つめながら静かに、回答した。
シュリフは頷いて――。
そして、予期したその忌避の未来を語った。
「私が存続した場合、ミスティアは私のことを認知するでしょう。表の片方が後天性のもう一つを自覚した場合、精神異常をきたすという問題もクリアして、鏡の向こうと向こう、私とミスティアは奇妙な関係ながらに、それなりに上手く、仲良くなれる。
ですが。
どうしてそのように思ったのかは分かりませんが――。
ミスティアはある日、私に情欲を抱くでしょう」
「情。情――っ?」
「私は……先に語った通り、ミスティアのことを、人間ではできない理解で、心底に愛しく思っているから。
私にミスティアの望みを断るという考えは、どんな些細であろうと一度たりとも、浮かびすらしないでしょう。
私はそのことにも肯定を示します。
私は理解する。私には――ミスティアの頼みを断るという構造自体が無いことに。
ミスティアの頼みを肯定する自身の構造が、観測として視える。
そして、どうしてそのようなことに及んだのか不思議に思いながらも、ミスティアは度々、私に頼る。
そうして――彼女は、私に依存していき。
その果てに。
どうにもならなくなった場所で、『貴方が隣にあるから、まあ、いいか――』という言葉を最後に、命を終える。
ミスティアと命を共有する私は、『やはり私は生まれるべきでなかった――』と、最後、そのようなことを言い残して、消失する。
そのような未来が――他に類を見ない鮮明をもって、視通せるのです。
どんな策を取ろうと。
どんな対応を選んでも。
暗がりの部屋で結末を迎えるという運命に収束して。
そう変わらないその場所へ辿り着く。
確率の変異としか思えない、確立の未来として」
シュリフは微笑みを無色にして、その先を続けた。
「リプカ様、この在り方には……なにか、覚えがありませんか? ――そう、いつか生来人格を喰らう、【妖精的基盤症状】の在り方との類似です。どうやら……生来の形作りとして、私は、正確に言うなら私たちは、そのように形状されているようで。生来人格を喰らう――視えた未来はその在り方の延長。私は存続したところで……故に、【病名】であるようです。
こんな話を最後まで聞いてくれてありがとう。リプカ様、だから私はこの選択を選びたい。
――語られたその景色を望んで、リプカは認識を改革するような意識で、じっと、様々考え巡らせた。
――きっと、貴方は手にして、私は何も得られずに帰るでしょう。
彼女の
覚悟ではない、ただ霧に覆われた不安が去って据わった、泰然の心を自覚して。
パズルのピースは、全景を捉える必要分、もう揃っている――。
そして――やがて慎重な声色で、シュリフへいくつかを問い始めた。
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