22:00

なんでなんだよ、姐さん。


俺とホテル行ってもあんな顔しなかったのに、初めて会った夏にはあんな顔するんだ。


俺が女とホテルに入って唯一服を脱がされていなかったのが姐さんで、いいなって思ってたのに。


唇の上下にある織姫と彦星みたいな2つホクロ、可愛いなって思ってたのに。


姐さんをちゃんと好きになったのはホテルに行っても何もせずそのまま朝まで一緒に過ごして、俺が起きる前に起きててくれて1番におはようを言ってくれたこと。


他の女は寝ていたり、TVや携帯を見ながら言ってきたり、その場にいなかったこともある。

1晩だけの繋がりだと思って接してる中で、姐さんは唯一俺自身の事をしっかり見てくれた人。


だから俺は姐さんが好き。


俺が姐さんの事でむくれていると5人だけになった4次会のカラオケルームで過ごす奏たちが笑う。


奏「どうした?疲れたの?」


一「なんか脱力ぅって感じ。」


将「体を大切にしてないからだ。ほら、烏龍茶。一回出してこいよ。」


一「酒飲んだら茶っぱを体に入れない主義ですぅ。」


明「一は酒飲むと幼児化するよね。めんどっ!」


一「めんどって言う方がめんどーい。」


海斗「はいはい。一の番だぞ?」


一「あーい。」


俺は海斗にもらったマイクを持ち、流行ってるという聴いたことない曲を適当に歌う。

それを見てみんなが笑う。


ああ…、見られるの嬉しい。


そう思いながら1曲歌い終える頃、尿意を感じて1つ下にあるトイレに向かうと女が向こう側から歩いてくる。

ここがCLUBだったら声かけてるなと思うほど、胸が良い。


「いっくん?」


目が合ったその女が街で遊ぶ時の呼び名を呼んだ。

もう手つけてたか…。


一「そうだよ。いつぶり?」


「春頃かな?メッセージ送っても無視するんだもん。」


一「ごめーん。携帯落として買い換えたの。寂しかった?」


俺は女の頭を撫で、腰に手を置き体を引き寄せる。


「今、合コン中なの。」


一「…いい男見つかった?」


「うーん…。」


一「俺よりいい人いた?」


ここで涙潤ませとこ。


「…そんな顔しないで、いっくんいい子だよ。」


一「…そう?」


「うん。今日の男の子つまんなかった。」


つまんないは良い事なんだよ。

君たち女が望む将来安泰な企業に進むような男は、落ち着いていてわざわざ面白いこと言わないんだ。


お金が背後に見えてれば、女は勝手に笑ってくれるからね。


一「そんなこと言ったら、今日来てくれた男の子が可哀想だよ。」


俺は片腕で女の顔を引き寄せてキスをする。


なんだ?

ポテトフライと梅酒か、飲み合わせ悪すぎだろ。


…この女、溜まってるなぁ。


一「…甘いの好き。何時に終わるの?」


「まだ分かんない。」


一「俺、あと1時間後に出るから10分だけ下で待ってる。」


「…行くか分かんないよ?」


一「うん。10分だけ待ってる。」


俺はそのままトイレに入って用を足し、部屋に戻る。


明「ひっとぅ、おっそ。一発やったんか。」


海斗「明、呑み過ぎ。」


一「ぼいんちゃんとキスかましてきた!」


奏「冗談は良いから。遅いから曲飛ばしたぞー。」


一「ええぇ!奏ひどいよぉ。」


将「あ!恋の歌あった!一、一緒に歌うぞ!」


今日は最悪で最高。


今日の最悪ハイライトは、俺の大好きな姐さんが夏に一目惚れしちゃったこと。

運命的ってこういうこと言っちゃうんだよね。

でもそんな赤い糸は、ぱっつん俺が切っちゃうもんね。


唯一の女友達の姐さんは誰の男に触れられたくない。

そう思ってたのに少し目を離してたら手の甲にキスみたいのしてたし。


あいつ、学校では大人しいのにやるときはやるんだな。


…そのギャップがいいってか。


ああ、だめだ。最悪で最高な今日なんだ。

最高で締めくくれるように女を見つけたし、今こうやって友達と遊んでるんだ。


俺は酒を呑んだら忘れるし、元から忘れっぽいんだ。


一「ハイボールおかわりするぅー。」


奏「明日休みだからってそんな呑むな。」


ありがとな。心配してくれて。

けど、こうしてないと俺のメンタルが保たない。


俺は全員分のおかわりを頼み、また歌い出した。




→小さな恋のうた

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