第10話 瓶底メガネ。

 あたしは一人で王宮の渡り廊下を歩いてる。


 前にお母様につれられ渡った魔道士の塔への道。




 あたしの病状? は、結局世間には秘密にしておくことになった。


 大聖女レティーナ様によると、あたしの身体はまだ安定していなくって、猫化もまた再び起こる可能性があるって話で。


 確かにいつ人前で猫になってしまうかわからなければ、うかつに他人と交流もしていられないし。


 このまま病気だって言って引きこもってる事にしておいた方がいいかも、ではあるんだよね。


 王子との婚約だって、あたしが治ったって知ったらまた強引に迫って来ないとも限らないし。


 あー。イヤだよイヤ。あんなのと婚約なんて死んでもイヤ。


 マクシミリアンは確かに美少年だったかもしれないけど、人間見かけは良くても性格がふにゃぁだとダメ。


 特に猫が嫌いってだけで魅力半減なのに、あそこまで毛嫌いされて好きになれる方がおかしいよ。


(そうですよー。あれは無い、です)


 でしょー?


 マリアンヌもそう言ってるし、もうマクシミリアンとはあんまり関わりたく無い、かな。




 でも。


 あたしの身体のこと、特に猫化しちゃうかも、は、なんとかしなくちゃで。


 それを回避する為にはあたし自身が自分の中にある聖女としてのチカラをコントロール出来る様にならなきゃいけないって言われた。


 その為に、あたしはこうして魔道士の塔を目指しているのだけれど。



 当面レティーナ様の所に通って修行しなくっちゃ、なのだ。



 ただし問題は、魔道士の塔が王宮の一角にあるって事。


 レティーナ様はお忙しくてこの塔を簡単に出られない、って事。


 そして、ここにあたしが通えばマクシミリアンと遭遇する可能性が高まる事。で。




 どうしようって思案した結果。


 あたしは変装することにしたのだ。


 お母様譲りの金色ふわふわの髪はまとめて、黒髪のウイッグをかぶり。


 オッドアイを隠す為に外から見ると瓶底メガネに見える伊達眼鏡をかけて。


 そんでもって魔道士のローブをすっぽりかぶれば完璧。


 誰もあたしがマリアンヌだって思わないよね?


 お母様はついて来たがったけど、さすがに並んで歩いてたらそっちの方が怪しまれるから断って。



 そうしてあたしは歩いていた。


 塔の入り口が見えてきた。うん。無事に到着できそうだ。

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