第25話やっと泣き止んだカオル 絶望の次

「カオル」

ぼくは泣いてるユウの頭をなでる。

本当にぼくの意思では起きられないみたいだ。

抱きつかれたまま、カオルの頭の後ろで自分の手の甲をつねってみたりした。

だが痛いだけで起きられる気配はなかった。

どしゃ降りの中、ぼくもカオルも服のままプールに入ったようだ。

(いい加減にしてもらわないと…)

カオルの背中をさすりながら思考を巡らす。

ブルッと身体が震えた。寒さを感じてきた。

(ぼく、死なないよな…?)

徐々に不安になってきた。

辺りは洪水でも起こりそうな雰囲気だ。

「カオル…そろそろ起こして」

レイジロウの声は雨の音で掻き消される。

カオルは「ゔっゔっ」とレイジロウの肩に顔を埋め泣いている。

泣きたいのはこっちだよ…

心の中で悪態をつく。

だがぼくの腕は優しくカオルを抱擁した。

濡れたカオルのオレンジこ頭をなで背中を擦る。

(本当に、どうしたものか…)

「ぼくに…一体何を求めているんだ?」


しばらくたった後、カオルの声がした。

驚くほど通りのいい声で、雨音に掻き消されなかった。

「いなくならない…?」

不安そうな子どもの声だ。

上げた顔は驚くほど表情が幼い。

「いなくならないよ」 

急かしたい気持ちを抑え、つとめて優しく言う。

カオルは泣いたままだったが、しばらく時間が経つと泣くのをやめた。

そして再びレイジロウの方を見た。

カオルの顔は涙で目が赤く腫れていた。

(まあ、こんなに泣いたらそうなるか…) 

レイジロウにはうんざりし、疲れたというのが顔に滲みでていた。

カオルの淡い水色の大きな瞳がパッチリと開く。

やっぱりビックリするぐらい幼い。

「…カオル?」

あまりにも幼く見え確認のため呼んだ。

カオルはレイジロウに抱き付いたまま答え、聞いた。

「うん…おれのこと好き?」

答えも聞いて無いのにカオルの腕が強くなる。ザーザーと雨音がうるさい。

「好きだよ」

雨が弱まった。

「リキュールよりも…?」

今にも泣き出しそうな声だった。

(拒絶したらまた大雨が降るのだろうか?)

そう思いながらも正直に答える。

「リキュールよりもカオルが一番好き」

「ホント…?」

言いながらカオルの頬にポロリと涙が落ちた。

(しまった…!)

ぼくは焦ったが雨は強くならなかった。

そして、ゆっくりと雨は止んでいった。

ぼくはカオルの濡れてベッタリとした後ろ髪をなでる。

そして冷たくなったカオルの頬にキスをした。

「カオル、帰ろう…?」

ぼくはカオルの顔を覗き込みながら優しく言った。 

カオルはしばらく僕に抱きついて、首を振っていたが、僕が諦めかけた頃、頷いた。

「絶対におれのこと嫌いにならないでね?」

レイジロウの顔を確認するように、大きな淡い水色の瞳が覗いていた。

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