第23話夢の中

穏やかな爽やかな晴天に、怒っているカオルはとても不似合いだった。

だがすぐに雲行きが怪しくなる。

ゴロゴロゴロ……ピカッ!!…ドカンッ!!!

レイジロウは空を見て、驚いたように目を大きく見開いた。

カオルはゆっくりと近づいて来る。

カオルから一旦逃げようと走ろうとするも足が石のように重い。

足が動かない…何でだ?

「あの魔物が気になるの…?レイくん」

淡い水色の瞳の奥には、強い怒りが含んでいた。

カオルかを発した魔力のせいか、足に力が入らない。

急に力が抜けた。

レイジロウは膝から崩れ落ちた。

カオルは上から見下ろすようにレイジロウを冷たい顔で見ている。

「ち、がう」

苦しくても何とか声を出す。

カオルはしゃがんで、レイジロウのアゴを掴み上げさせた。

「ならもう会わないでよ。何で会うのかなぁ」

怒っているのがはっきり分かる。

目が合うとユウは少し微笑んだ。

「おれを傷つけて楽しい?」

「ご…誤解してる…聞いて」

「うん、話してごらん」

カオルはとても優しい声を出す。

ぼくは一生懸命声を出そうとした。

だが胸に何かが詰まったようで、声にもならない。

カオルはレイジロウの言葉をじっと待っているようだった。

だけどぼくは苦しんでいるのに、カオルが助けてくれないのがシャクに触った

レイジロウはカオルの胸ぐらを掴み揺らした。

「この、苦しいの…何とかしろ…!」 

気持ちの高ぶりを利用して、何とか声を振り絞る。

「それはおれの気持ちが苦しいからだよ」

優しい声と穏やかな表情は変わらない。

カオルの目の奥は深い海のようだ。

ピカッ……ドカン!!!

雷電が近くに落ちた。

「…っ」

レイジロウは当たらないように身体を伏せる。

「大丈夫だよ。レイには当たらないから」

カオルに髪の毛を撫でられた。

顎を持たれ、ゆっくりと顔を上げさせられた。

カオルもぼくと同じように苦しそうに顔を歪ませていた。

「…起こせ」

「ん?」

「起こせよ!夢でだろっ!!」

レイジロウはカオルの胸ぐらを掴んだ手を、激しく揺らす。

光魔法に今囲まれたら死ぬかもしれない…

レイジロウはその恐れを抱いていた。

「落ち着いて。レイくん」

カオルはニコッと笑う。

カミナリの怒号が飛び交う中、カオルの余裕そうな声に力が抜ける

そして背中を擦られた。

少し苦しいのが軽くなる。

「ここはおれの夢だよ。だからレイの意思では起きられないんだ…」

しょうがないよね、と言うように穏やかな表情でおれを見ている。

おれは酷く苦しそうな顔で睨んだ。

「現実に戻りたいなら、俺の言うことちゃんと聞いて」

カオルが優しく笑う。

「…何?」

レイジロウはギリッとカオルを睨んだ。

「本当にお前とはカオルなのか?」

レイジロウは声にイラつきを滲ませる。

カオルは少し驚き、次に少し悲しそうな顔をした。

何故かぼくまで息が詰まる。

「ぼくが…こんなに苦しんでるのに、夢を覚ましてくれないのか?」

レイジロウの声は泣いていた。

「苦しいのはおれも一緒だよ。」

カオルの声は優しいのに、酷く冷酷に聞こえた。

涙を拭おうとカオルの手が伸びてくる。

レイジロウは、カオルの伸ばした手をパシッと振り払った。

ボロボロ落ちる涙を荒っぽく拭きながら言った。

「もう一回言うけど起こせ…!」

レイジロウ強い口調で言う。

おれはイラついてカオルを睨めつけた。

恋人に対してする顔ではなかった。

「聞いてるのか?」

おれはあからさまにムカつき始めた。

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