第18話

夢を見た。

綺麗なラベンダー畑の上で、ぼくは寝そべっていた。

カオルは座っており、上から腕が伸びてくる。

カオルはレイジロウの黒い髪を優しくといた。

「ずっとここに居てもいいよ」

カオルが優しくささやいた。

ぼくは心地よく、嬉しそうに目を細めた。

「夢の中のカオルじゃなく、本物のカオルに会いたい…」

カオルはレイジロウの手を握り答えた。

「俺は本物だよ?」

そう言いヒンヤリとした唇が、レイジロウの唇に重ねられた。

名残惜しそうにゆっくり離れる唇の後、柔らかな感触が残る。

ぼくは戸惑った。

綺麗なカオルの青い瞳が、まだ半分夢心地なレイジロウを捕らえている。

レイジロウ以外、目に入らないように見えた。

「ほらね、ずっとここに居てくれる?」

優しく微笑んだカオルは、冗談を言っているようには見えなかった。


ハッと目を覚ました。

最近このような夢をよく見る。

何なんだろうか?夢にしてはリアルだ。

ヒンヤリとした唇は、カオルの体温と反対で強く印象に残っていた。

あれは本物のカオルだ。

確信じみた直感が働いた。


俺は昔から、自分だけの世界を作る術を身につけていた。

嫌なことがあったらいつもここに逃げていた。

おれの好きな景色に好きな花畑。

だけどまさかレイくんまで現れるとは…

レイジロウは微笑んで手を添えてくる。

おれはレイジロウの身体を手繰り寄せ、自分の手の届く場所に近づける。

レイジロウがおれに微笑んだ。

そして俺は我慢出来ないように深いキスをした。

…現実の世界を捨てて、ずっとここに二人で居ようか。

危ない思想に思わず本気になりかけた。

レイジロウの嬉しそうな顔を見て、それはやめようと思いたった。

リキュールに見せられた映像を思い出す。

「おれは、ああはならない」

言葉は辺りに反響せずに自分の頭に残る。

レイジロウは不思議そうな顔でおれを見ていた。


アイツはレイくんの周りをよく現れる…

不思議そうな顔をしたレイジロウを見た。

目が合うとレイジロウは照れたように笑った。

ここにいた方がレイくんは誰にも傷付けられず、俺が嫉妬に狂わなくていい。

レイジロウの黒い髪を整えながら考える。

…カオルが怖い顔をしていたからだろうか、レイジロウはカオルの顔を見て心配そうな顔をした。

「大丈夫だよ」

そう言い、カオルはレイジロウの頭を優しくなでる。

レイジロウは、一瞬驚いた顔をし、はにかんだ。

大丈夫、おれは未来通りにはならない。

最近カオルの様子がおかしい。

「あんまり人と話さないで。それと休日はおれと一緒にいて。」

「無理だよ」

「おれの事好きでしょ?それならこのくらい我慢して。」

人好きするいつもの笑顔で言われた。 

カッコよくて魅入ってしまう。

「…図々しいな。」

「おれは図々しいよ。知らなかった?」

優しい顔をしてホントに人の困る事を言う。

カオルの要求は日に日に、エスカレートしていった。

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