第5話レイジロウからのキス
「一緒に帰ろう」
カオルの優しい声に振り返った。
学校が終わった後、穏やかな笑顔でそう言った。
ぼくは少し驚いた顔をした。
「え…なんで」
「なんでって、付き合ってるでしょ。おれたち」
顔を覗き込むようにして、耳元でささやかれる。
急に接近してきて驚いた。
…付き合った記憶はないが、両思いなら付き合ってることになるのか?
いつも一緒に帰っているメンツでも、同じ方向でもないので戸惑う。
友人が遠回しに、ぼくとカオルを見ていた。
不安そうに心配がる顔、少し怖がっている顔だ。
そうか、カオルは怖いんだ…
カオルがぼくの友人を見て、ニコッと貼り付けたような笑みを作る。
カチンと友人が固まった。
運動神経がよく、気が強そうなカオルに怖いと思うのは無理なかった。
しゃべってみたら結構優しいのに。
ぼくはカオルの方を見ながら思う。
目が合うと髪の毛を、そっとなでられた。
慣れてない関わり方に固まる。
フリーズしたぼくをカオルは手を引き、連れ去られた。
「顔上げて」
カオルの真っ直ぐの瞳に射抜かれる。
そしてニコッと笑った。
微笑んだ優しい顔を、ゆっくり近づけられていた。
綺麗な顔で、つい男だとわかっていても赤面した。
それが恥ずかしくてついうつむく。
「下向いてたらキスできないよ」
カオルに笑うように言われた。
おずおずと顔を上げる。
またカオルとの顔の距離が近くなる。
ぼくはカオルの近づいてくる顔に、ビクッとし顔を引いてしまった。
「…怖い?」
レイジロウの気持ちを、確かめるように言った。
レイジロウは違うと二度、頭を振った。
「じゃ、嫌…?」
水色の瞳は不安そうに揺れ動く。
「そうじゃない…」
ぼくはカオルの顔を見ながら言った。
「良かった」
カオルの顔がホッと安堵に染まった顔になる。
優しく心地良い声が頭にそっと響いた。
フワッと風がたなびく。
カオルの橙色の髪の毛がたなびいた。
美しいサファイアのような瞳がぼくを捕らえている。
綺麗で魅入ってしまった。
カオルは優しくフワッと微笑む。
うわあ…
ぼくはその表情が好きで、釘付けになった。
その様子を見てカオルは、嬉しそうにクスッと笑う。
そしてぼくの頬を、撫でながらしゃべった。
「おれのことが好きなら、好きだという証明をして欲しい。」
大きく見開いた水色の瞳がキラキラと光る。
「おれは不安だよ。レイくんに好かれてる感じがしなくて。」
カオルは少し悲しそうに言った。
「ねっ。だからキスして」
だがすぐにニコッと表情が変わった。
カオルはコロコロと表情が変わる。
可愛い…が、さっきの悲しそうな顔はどこにいったんだ?
ぼくは訝しげな顔をした。
「してくれないの?」ゆったりとした低く甘い声だ。
言いながら壁に追い詰めてくる。
カオルからは甘い、いい匂いがした。
自分の鼓動がありえないくらいに早い。
「キスして。お願い」
柔らかな優しい顔だ。
心がとろけそうになる。
それを隠すように、ぼくは少し居心地悪そうな顔で見た。
だがカオルは「ねっ、早く」と気にかける様子はない。
少し考える素振りをして、ぼくはおずおずと、カオルの端正な顔に自分の顔を近づけた。
カオルは、ぼくを優しく見ていた。
そしてカオルは水色で丸い大きな瞳を、猫のように細めた。
ぼくは周りに人がいないことを確認し「んっ」とカオルの頬にキスをした。
口にされると思っていたカオルは、(嘘だろ?)という顔をした。
「じゃ、したからな!」
そう言い、レイジロウは走足で逃げた。
カオルはレイジロウの腕を掴もうと手を伸ばすも、ふり払われた。
残されたカオルは呆然としている。
壁にもたれかかり、ずるずると落ちた。
自然に口角が上がる。そしてハハッと笑った。
「…やっば、かわいい」
カオルはニヤける口元を抑え、独り言を言った。
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