悪名高き仲良し夫婦(改訂版)
@edamameryori
第1話プロローグ
高校生活といえば友情や恋愛などがあって毎日が楽しいというイメージがあるかもしれない。
それは実際正しいのだろう。しかしそのイメージとはかけ離れた学校生活から始まった生徒が1人いた。
それは
しかしツカサは顔がブサイクとかコミュニケーションが絶望的に欠如しているわけではない。
ましてや家が極貧だったり金持ちでもなく、普通に両親がいるごく普通の3人家族だ。
では原因は何なのか。
それは右半身の鎖骨あたりから耳のすぐ下まで続く刺青いれずみなのだろう。
――――――――――――――――――
ある高校の入学式では、1つの話題で持ちきりだった。
その話題がきっかけで内向的な性格の生徒も友人関係を気づくことができたほどだ。
その話題の内容こそ
「刺青を入れた生徒が入学した」
というものだった。
しかしその話題の当人であったツカサは、今では当時のことを笑い話にしていた。
いや、できるようになったというべきだろう。
ツカサは自己紹介でふざけてみたり、
朝は何気なく挨拶したりと努力を重ね、
現在二学期の中盤
普通の男子高校生
という地位を手に入れたと確信していた。
――――――――――――――――――
ツカサはいつも通り教室に入り、通りすがった男子グループに「おっす」とイマドキ高校生らしく挨拶をする。
もちろん女子グループにもさりげなく挨拶をする。
すると「おーすっ」や「おはよう」と返ってくる。
そしてこの瞬間、ツカサは喜びを噛みしめる。
別に女子と話したからというわけではない。
普通に返事が返ってくるという今の環境こそが理想だったからだ。
物語ではよく無難に高校生活を送ろうとしている主人公がいる。
そしてそういう主人公は大抵1人でいることが無難だと勘違いをしている。
ツカサが考える無難な状況とは、グループなどで活動するとなっても絶対に1人は気軽に話せる人がいる状況だったのだ。
そしてツカサが最近ついに完成させた
無難な状況は、早速役に立つことになった。
それはこの学校特有の行事であり、今日から始まるツカサにとっての一大イベントである、
[紅葉観賞を兼ねた山登り 〜1泊2日〜]
である。
ツカサはもともとその行事までにはクラスに馴染んでおきたいと思っていた。
それが実現した今、ツカサは他のクラスメイトたちとともにテンションが上がっていた。
ツカサが教室に入った数分ほど経った頃、担任の先生である
「席につきなさーい」
と声かけをしていく。
ちなみに末原先生は40歳前半という若くはないがベテランでもない微妙な歳だ。
いつもと同じように朝礼を行い、バスに乗り込むことになった。
ツカサたちが末原先生を先頭に正門の方へ向かうと、バスが4台止まっていた。
1クラス1台のバスを貸し切っている。
バスの座席順は特に決まっていなかったので、乗り込んだ順に座ることになった。
ツカサは真ん中よりも少し前あたりの窓側の席に座ることになった。
隣はthe 優等生である
「よろしく」
そうツカサが言うと
椿も微笑みながら
「こちらこそよろしく」
と返した。
椿は今ではツカサに対して普通に振舞っているが、割と最後の方までツカサに対して拒絶反応を示していた生徒の1人だったのだ。
それは家系が原因でもあった。
櫻木家の大黒柱である父が弁護士であり、その父である祖父ももともとは弁護士だったのだ。
そのため無意識的に刺青を彫っているツカサを拒否し続けていたが、椿が仲良くしていた女子達がツカサと普通に振る舞う様子を見て、最終的には普通に話せるようになったのだ。
しかし普通に話せるようになったとはいえすごく仲がいいというわけではない。
そのためツカサは当たり障りのないよう、ついこの前に受けた二学期の定期テストを話題にすることにした。
「そういえば、この前のテスト櫻木の点数、相変わらずすごかったなー」
事実、椿の点数は学年で8位だった。
「まぁねー、また学級委員長には負けたけど。」
椿は少し悔しそうにそう言った。
椿の言う学級委員長とはツカサのクラスの学級委員長で、昔からの椿の友人でもある
「それより、藤瀬くんも社会学年一位だよね?何をしたらあのテストで満点を取れるのやら。」
椿はツカサの言葉を待たず、更にそう話した。
ツカサはまさかいきなり自分の話になるとは思わず、思わず苦笑する。
「唯一暗記だけは得意なんだよ」
褒められた時は謙遜するのではなくら威張った方がスムーズに話が進むというのは、ツカサが高校生活を送る上でよく学んだ。
「もしかして、藤瀬くんって瞬間記憶能力とか隠し持ってたりしないの?」
椿はそう冗談をいう。
「まさか、残念ながらそんな隠し設定は持ち合わせてないな」
ツカサは小さく手を振り、否定を示す。
「じゃあどんな勉強してるのか教えてくれない?」
そう更に話題を提示してくる櫻木にツカサは自分が友達として喋っているのだと感じていた。
その後も当たり障りのない雑談を続けていると、周りの景色は紅葉で鮮やかな色に染まってきていた。
「わぁ、綺麗だねー。あっ、今すれ違った鳥見た?眉毛みたいな模様の毛生やしてたんだけど」
櫻木とツカサはだいぶ打ち解け、櫻木も微笑むような笑みではなく普通に笑うようになった。
「見えた見えた。あれは完全に困り眉だな、写真撮れたらなー」
ツカサも男友達と話すトーンで話し、退屈しない移動時間となっていた。
目的地に着いた頃には、どの方向を向いても紅葉を楽しめるくらいにまでに所狭しと鮮やかな葉が広がっていた。
あまりの綺麗さに、クラスメイトたちはバスから降りたところで、立ち止まってしまったが末原先生の掛け声で移動し始めた。
寝泊まりは山のもう少し上の方にあるキャンプ場で行われるのだ。
ツカサは他のクラスメイトたちより少し長めに紅葉を楽しんでいたので、列のほぼ最後尾をあるくことになった。
ツカサは無言でひたすら歩くのはつまらないと思い、列の1番最後を歩いていた男子生徒4人組に話しかける。
「この前借りた本、結構面白かった。続きをまた今度貸してもらっていいか?」
ツカサがそう話しかけると、4人組の1人がテンション高めに答える。
「そうでしょう、そうでしょう!あれは本当に名作ですからね。是非とも続きを読んでくださいよ」
この最後尾の4人組は通称[オタ組]と呼ばれている。
そしてツカサがその[オタ組]から借りていたものはライトノベルだった。
一般的にオタクというのは嫌われがちだったが、ツカサは[オタ組]の根の優しさを感じ、たまに話したりしていた。
ツカサと[オタ組]は貸し借りした作品について感想を言い合っていると、ついに目的地に着いた。
木々に囲まれた道が開け、人の手によって作られたであろう草原の広場が広がっていた。
しかしそこには大きな建物などはなく、屋根があるのは蛇口が設置された水道と僅かな街灯があるだけだった。
今日は班ごとにテントで寝るのだ。
クラスメイトたちは荷物を背負いながらの登山に疲れ切り、腰を下ろす。
「ほらほら!暗くなる前にテントを立てちゃってください!」
そういう末原先生にクラスメイトたちは
「「「「「えぇー、疲れたー」」」」」
そう言って動こうとしなかった。
しかし末原先生はクラスメイトたちがそう反応するのをわかっていたようで、
「あーあ、せっかく早く準備が終わったら余った時間自由時間にしようと思っていたのになー」
そう全員に聞こえるような声量でわざとらしく落ち込む様子を見せた。
その言葉を聞いたクラスメイトたちは一気にやる気を見せ、準備を始めた。
しかし案外アウトドアとは意外に難しいもので、初めはやる気に満ちていたクラスメイト達も難しい顔になり、悪戦苦闘していた。
ツカサはいくつかある仕事の中でも最も単純な仕事といえる薪探しをしていた。
炊事をしている班へ小さめの薪を拾っていたのだ。
日が暮れてかなり暗くなってきた頃、ほとんどの班は仕事も終盤にかかり、薪は必要なくなった。
そこでツカサの班はキャンプファイヤーをするための木を探してくることになった。
しかし手頃な大きさの木がなかったので少し遠出することになった。
そう方針を決めると、薪拾い班の女子達が「暗いのが怖いから無理」と言い始める。
ツカサは十中八九疲れて休みたいだけだと思ったが、ここで揉め事が起きても面倒だし、まぁいいかと思った。
それは同じ班の男子も思ったのか、特に反論もせず男子だけでいくことになった。
結局キャンパーファイヤー用の木材を探しにいくのは、ツカサの他に
「オタ組」の1人
やたらガタイのいい
バトミントン部の
の4人で探すこととなった。
4人は一緒に歩いていたが、途中でそれぞれ分かれて探すことになった。
ツカサもライト片手にに1人で進んでいく。
すると突然森が途切れて、ちょっとした空き地のような場所に出た。
「なんか秘密基地っぽいな」
ツカサはそう呟き、少し周りを見渡す。
するとツカサの右あたりに大きな丸太が落ちていた。
しかし少し大き過ぎてツカサ1人では運べなかったため、周りをうろついているであろう男子が来るのを待つことにした。
大声を出せばすぐに誰かが来るのだが、ツカサは少し前から休みたいと思っていたため待ちつつ休むことを選んだのだ。
ツカサは丸太に腰をかけ、すっかり暗くなった空を見上げる。
そこには町から見る星空とは比べ物にならないほど、圧倒的な数の星が広がっていた。
そして数十秒ほど星空を眺めていたツカサは、思わず自分の目を疑いたくなる光景を目にすることとなる。
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